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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
15/108

15.ハンターの初仕事


「サラン、顔、顔」

「???」

「笑顔、笑顔」

「うーん!」

 ぱしっぱしっと両手で自分の顔を叩く。

「どう?」

 ニカァッ。

「……今日中に直してね」

「うん……」


「さ、ハンターになれましたか?」

 ニコニコとカウンターのじいさんが出迎えてくれました。

「どうぞ」 

 カードを出すと嬉しそうです。


「ハンターが増えてくれてありがたいです。こんな仕事するやつもあんまりいなくなっててね。世の中が平和すぎるせいなんだと思いますが」

 ハンター数の減少ですか。どこの世界でも同じですね……。


「さあ、さっきの皮をどうぞ。ほかにもあれば買い取ります!」

 シカの皮を差し出します。

「うーん、悪くない。なめしも丁寧です。これなら金貨1枚半で買ってもいい」

「ありがとうございます」

 エルフ村の皆さんがいい仕事してくれましたからね。


「この帽子、売るとしたらおいくらで」

「そっちは三枚でもいいですぞ! 流行ればもっと値が付きますし」

 アライグマ人気ですね。

 これはいい商売になるかもしれませんね。

「まあ、今日はシカ皮だけで」

「そうかい? どんどん持ってきておくれよ。当日獲ったものだったら肉も買い取るからね」

「お願いします」



 壁に貼ってある買取表をメモします。

 こうして各動物の買い取り額が表示されているのはいいな。

 個別に交渉だと、安く買いたたかれている、ヒイキされている奴がいるってもめごとになる。こうして誰の目にも明らかに張り出されてあればトラブルもないから公平でいい方法です。


 お肉はいい値段つくけど毛皮はあんまりだな……。

 シカは安い。キツネとかテンとかウサギのような毛皮は高め。

 ホネとか角も高くない。エルフ村でもボタンとかの加工品にしてたけどあれでは加工賃のほうがずっと高いでしょう。

 毛並みが良くて女性のファッションを飾れるようなものが価値があるってことか。

 塩の値段が高かったし、わざわざエルフ村まで出向く手間賃を考えると意外と出入りの商人さんがまっとうな商売をしているということがわかります。


 日本では野生動物の毛皮と言うのはまったく値が付きません。需要がゼロです。

 みんな化学繊維で代用できる。本物の毛皮なんて気味悪がって身に着けない女性のほうが今は多い。シカ肉とかも安い。一頭一万円で買ってもらえたらまだいいほうだね。ジビエブームとかあんなのウソだね。僕だって鶏肉や牛肉や豚肉のほうがずっとおいしいと思うもん。シカのほうがおいしかったら畜産家さんは鹿牧場経営してるってば。

 車に燃料、銃に弾丸、ハンターはやればやるほど赤字になります。

 ボランティアだと思わなければやってられません。


 こりゃあ期待外れかな。エルフの村で特産になるような商品を開発しないといけないな。とりあえずはアライグマの帽子かな。でもエルフの人たちは現金収入に興味が無いからな……。

 でも斧とか刃物とかの鉄製品を商人から買ってるし、そのお金は欲しいでしょう。

 付加価値の高い商品を作ろうと言う話が、あののんびり一族に受け入れられるかどうかだなあ……。



 ばさっばさばさばさ!


「うわ! また入ってきやがった!」


 ん? あ、ハトか。


「くそ! くそっくそ!!」

 じいさん怒って長い棒を振り回してハトを追い払いますが、さっと屋根裏の横柱の中に隠れちゃいました。

 フンが凄いです……。

 カウンターの裏は大きな倉庫になってるんですがね、ハトが住み着いてしまっているようですね。


 日本にいた時にですね、このドバトの駆除はけっこう依頼がありました。

 ドバトは狩猟鳥獣ではありません。これを狩猟するのは鳥獣法違反です。

 ハトで獲っていいのはキジバトだけです。

 でも、市町村で害獣指定して駆除をする例があるんですよね。


 農家さんの牧場、牛舎、穀物倉庫、そんなところで大繁殖しててまわりをフンだらけにするんです。もうそこらじゅうがベッタリです。

 居付かれるとやっかいですよ。伝書バトって知ってるでしょう? 何百キロ離れている見知らぬはずの土地からでもハトを放すと鳩舎に戻ってきて手紙を運んでくれるアレです。

 このようにやたら帰巣本能が強いハトですが、それだけ巣に執着が強く一度巣と決めた場所では年に何度も営巣し卵を何度も生んで増えまくります。

 フンだらけにされる農家や食品業者にはたまったものではありません。

 ドバトは空飛ぶネズミともいわれています。病原菌をバラまく元凶でもあり、畜産農家さんからもメチャメチャ嫌われていますからね。


「ハトの駆除って、やる人がいないんですか?」

「いないんだよ!」

 じいさんが棒もってハアハア息してます。


「ハンターどもは弓とかで狙っても当たらないし、魔法使いは『建物を火事にしてもいいのか』とか言ってやらないし、街中で矢だの弓だの使うわけにもいかないし、網でなんてのも捕まらないし、何度でもやってきやがるし、こんなことに大金積んで腕のいいハンターにやらせるわけにもいかないし!」


 うーん……。どうしようかな。

 僕、実はこれの専門家なんですよね。

 っていうか、猟協会で若手はね、こればっかりやらされるんですよ。

 嫌と言うほどやりました。


「やりたいの?」

 サランが僕を見て笑う。

「うん……まあね」

「いいよ。別にお金にならなくても、困ってる人がいるんだからさ」

 そう言ってくれると嬉しいね。


 カウンターの下にしゃがんでマジックバッグからダイアナM52を取り出す。

「なんだそりゃ」

「ハトを撃ち落とす……まあ、魔道具ですね」

「そんなのがあるのか!」

「まあ、見ててください」


 ダイアナM52はエアライフルの中では非常に珍しいサイドレバー式のスプリング銃。銃の横にある全長の半分もある長いレバーをカチカチカチカチ……ガッチンと後ろに引くと、スプリングピストンが圧縮され、ロックされます。薬室が開いてむき出しになるので、ここに鉛の(つづみ)型の4.5mm弾を押し込みます。

 ちなみに空気銃の弾は「ペレット」と呼び、いわゆる弾丸とは区別されます。


 あとはコッキングセイフティレバーを押し下げながらサイドレバーをぱたんと閉じれば発射準備完了。何回もポンピングするポンプ式空気銃や、自転車の空気入れみたいなチャージャーで二百気圧も空気を入れなきゃいけないプリチャージなんかよりずっと取り扱いが簡単で楽ですね。

 単発式なんで、5発ごとに弾倉に弾を入れる連発式なんかよりも早いです。

 鳥なんて一羽撃てば他の鳥は逃げてしまうんだから、単発式で十分です。

 日本では、空気銃の連発数は5発に規制されています。海外では10連発とか12連発とかなのにわざわざ5連発に改造されて輸入されているんですよね。


 すっと構えて……。スプリング式空気銃はどのメーカーの製品でもコッキング時に自動的に安全装置がかかりますので、ここで安全装置のレバーを押して解除し、スコープで狙って……。

 

 頭を出したところで。


 バシュッ!


 通常の空気銃はパンッて、けっこう大きな音がするんですが、音が小さいのもスプリング式空気銃のいい所です。エアソフトガン3丁分ぐらいの音ですかね。

 バサバサバサバサッ。

 羽ばたきながら落ちてきました。

 ぐったりして動かなくなります。


「……すごい」

 あっはっは! びっくりでしょ?

 初めて見た人は驚くんですよね。

 で、凄い喜ぶの。

 よっぽどハトに恨みがあるんでしょね。


「あの、袋ありますか?」

「あるよ! これ使ってくれ!」

 すごいでっかい麻袋もらいました。


「いや、こんなに大きい袋でなくて……」

「来てくれ!」

「え?」

「ほら、来て!」


 他の倉庫に連れて行かれます。

「うわあ……」

 くるっぽー。くるっぽー。

 めちゃめちゃいるじゃないですか。三十羽ぐらいかな……。

 そこらじゅうフンだらけです。

 サランが麻袋持って付いてきます。


「頼むよ! やってくれ!」

「わかりました」


 バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 ぼとっ。

 バサバサバサッ。

 ぼとっ。

 バサバサバサッ。


 一発撃つたびにハトが落ち、他のハトが逃げ回り、どこかに止まってはまた狙って撃ち落とします。

「戸閉めて! 逃がさないで!」

 倉庫の扉を閉め切って屋内での全滅作戦ですね。


 銃刀法では屋内での発砲は射撃場を除き厳禁です。

 異世界でないとこんな駆除はやれませんね。

 日本ではレーザー光線やエアソフトガンで外に追い出してから、屋根の上のハトを狙ってました。

 プリチャージのエアライフルだと屋根や壁に穴が開くんですよね。それぐらい強力なんです。なので、こうした駆除には威力が強すぎない、ハトやカラスを撃ち落とすのがせいぜいのスプリングエアライフルが大活躍と言うわけです。

 おじいちゃんの道具のチョイスに非常に経験とセンスを感じますね。




 ハトの駆除なんて距離10~30m。外しっこありません。

 スコープ(※1)は25mで合わせておけば、どの距離でも真ん中で狙って落とせないなんてことはまず無しです。グルーピングは2cmぐらい(※2)。楽ですね。

 たちまちサランの持つ麻袋に三十羽以上のハトがたまります。


「まだまだいるんだ! 次はこっち!」

「あの、袋をもう一つ」

「まかせろ!」


 トウモロコシの穀物倉庫なんかはもう大歓迎ですね。

 一羽撃ち落とすたびに現場のみなさんから拍手と歓声が沸きますよ。

 みんなどんだけ迷惑させられてたんですか……。わかるけどね。

 騒ぎを聞きつけてギルドマスターのバルさんがやってきました。


「なんだそりゃ!」

 僕の空気銃を見て驚きます。

「まあ、魔道具ってことにしてますが、実はただの機械ですね」

「機械?」

「はい、まあ、あんまり聞かないでください」

「……まあ、手の内を明かさないのはハンターなら誰でもそうだしな……」


 バシュッ! ばさばさばたっ。

 バシュッ! ばさばさばたっ。


「いい腕してるわ……。あのしつこいハトがこんなに簡単に……」


 そうしているうちにおおかた駆除できました。

「外を回りましょう。屋根の上にいるでしょうから」

「おう、頼む。もうこの際だから徹底的にやってくれ!」


 買取りじいさんは仕事があるのでカウンターに戻りましたが、ギルドマスターのバルさんがサランと一緒に袋を持ってついてきてくれるんですよね。

 いやそんなことさせていい人なんですかね?


 そんなわけで夕暮れまでに全部で八十羽も撃ち落としましたよ。


「ハトに大金を出すわけにはさすがにいかんが……一羽大銅貨二枚でいいか?」

 申し訳なさそうにバルさんが言います。

「いいですよ」

 ……一羽百五十円。役場の報奨金よりまだ安いじゃないですか。

 やっぱりそんなもんですか。


 金貨一枚銀貨二枚の儲けですね。しょぼいです。

「あと、これは報酬」

 別に金貨二枚もらいました。僕とサランの二人で一日働いたと思うと日給で二万円はやっぱりしょぼいです。ただのバイトじゃなくてハンターは立派な技術職なわけですから。


「明日も来てくれ。日を変えてまだまだ来るからな! 一羽もいなくなるまでやってくれ!」

 頼まれちゃいました。

 断れませんね。


「夫婦で泊まれるいい宿があれば教えてほしいんですが」

「じゃあ、アナグマ亭だな。低級ハンターの定宿だ。この先にあるからすぐにわかるよ」


 ちょっと疲れちゃいました。

 安宿ですしね……。ダブルの部屋二人で食事つき金貨一枚。

「もっとふかふかのベッドで寝られるように、がんばろうね。サラン」

「うん、がんばろ!」


 壁も薄そうでしたんで、二人で添い寝だけして、眠りました……。

 おっぱいにむぎゅってされて気持ちいいです。







――――作者注釈――――

※1.スコープ

 一般的な狩猟用の実銃スコープはライフルで使われるのが前提なので、ピントが100ヤード~∞の固定式(パンフォーカス)であり、十数メートルで使われることは想定されていない。一部精密射撃用の高価なモデルを除き通常ピント調整機能はない。これをそのまま空気銃で使うと、高倍率で十数メートル先を見るとピンボケして狙いが付けられないので、空気銃には空気銃用のスコープを使う。つまり、ピント合わせ機能があるAO(アジャスタブルオブジェクティブタイプを選ぶ。

 サバイバルゲームなどで実銃用ライフルスコープを使うと、このピント合わせができなくていつもピンボケになる。エアソフトガンは実銃ではなく空気銃なので素直に空気銃用がお勧めである。


※2.グルーピングは25mで2cmぐらい

 スプリング式空気銃は無反動のポンプ式やプリチャージ式に比べ、命中精度が悪いと言われているが、構えによってかなり改善できる。東京オリンピックの昔はがっちり保持するほうが当たると考えられていたようであるが、現代は発射時のショックを押さえつけようとはしないで、ゆるく、力を入れずに保持して銃がショックで動いた結果、標的に当たるように照準調整するほうが良いとされている。スプリング式空気銃のショックは装薬銃と異なり、「人間が押さえつけられる」程度のものであり、また、「人間はいつも同じ力で押さえつけることができない」から、しっかり握ると着弾のばらつきはかえって大きくなってしまうのである。実際、RWSダイアナの英文マニュアルにも「Always hold the gun “loosely”(銃はゆるく構えること)」と書いてある。

 具体的には左手は銃の重心で銃床を握らず、手のひらを広げて載せるだけにする。アーティラリー・ホールドと言う。適当な訳が無いが「砲兵撃ち」とでも呼ぶべきか。大砲を撃つとき砲身が後退し、やわらかくショックを吸収する様子からそう名付けられたものと思われる。

 詳しく知りたい人は海外動画で「Artillery hold」で検索してみよう。ガンスミスやベテランシューターによる解説動画がたくさんある。


次回「最初はやっぱりスライムですか」

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