13.街に入るにもお金がいる
「さーて、どうっしよっうっかなー!」
「なにいきなり!?」
街道を歩きながら、考えます。
「村長に聞いたんだけど、実は、街に入るにも入城税がいるんだよね」
「お金がかかるってこと?」
「そう」
「そういや私たち、文無しだね……」
城塞都市から街を離れる馬車が来た。商人さんかな?
「すいませーん!」
声をかけます。
「なにかな?」
うん、ちょっと人のよさそうな商人さん風のおじさん。
御者台には護衛のハンターらしい人が座ってる。
わざわざ馬車を止めてくれたよ。親切だな。
「サープラストの入城税は、いくらでした?」
「ああ、手ぶらなら銀貨六枚だ」
「二人で十二枚?」
「そうだね。……しかしでっかいエルフのお嬢さんだな」
あっはっは、サランが珍しくて、思わず馬車を止めちゃったか。
「わかりました。ありがとうございます!」
「じゃあなー。気を付けてな!」
「十二枚かあ。そんなお金も無いと……貧乏だね私たち」
「そこでこれです」
どすん。どすん。
マジックバッグから例の塩25kgの袋を二つ。
50ドル……。五千円相当の品ですな。
「サラン、これ担いで」
「いいけど……」
サランが塩の紙袋を両肩に担いで歩きます。
城塞門の前に、ずらりと衛兵のチェック待ちの商人の馬車の列ができてる。
その横を、二人で歩いてゆく。
「塩はいらんかね――っ。塩はいらんかね――っ」
商人たちの目がキラッと輝きます。
「塩はいらんかね――っ」
「ちょっと待ちな兄さん!」
よしっ商人が一人声をかけたぞ。
「塩か、売ってくれるのか?」
「値段次第」
「ちょっと見せてくれ」
おっさんの商人が馬車から降りて見に来ましたね。
サランが肩から袋を降ろします。
「……なんとこの紙袋の中が全部塩か」
「そうです。ナイフで好きな所をちょっと突き刺してみてください」
中身はニセモノ、実は塩はちょっとだけしか入ってない、そんなこと無いように、確認させることは必要だろうと思います。
……。
商人さん、ちょっとだけ、細身のナイフで紙袋を突いてみる。
さらさらと塩がすこし漏れました。それをぺろりと舐めて。
「塩だ……。しかも、こんなまじりっけのない上等な塩は初めて見たぞ」
商人が次々と馬車を降りて周りを取り囲みます。
「すごい量だな!」
「品質もすげえよ。あんたこれをどこで手に入れた」
「それは明かせませんよ」
「そりゃそうか……で、いくらだ?」
「いくら出します?」
「金貨三枚!」
「その袋二つとも六枚で買おう!」
「七枚だ!」
「くそー……八枚。それ以上は出せんぞ」
「俺は九枚だな」
「十枚」
「……」
みんな黙る。
「はい、よろしくお願いします」
十枚の若手商人さん、落札です。
「一応もう一袋の方も確かめさせてもらうよ」
「どうぞ」
商人さんがナイフでつついて、紙袋を少し破って、サラサラした塩を舐めて、頷きます。
「……たいした塩だ。こんなにきめが細かくて、白くて、味が澄んでいる。上等だね」
「はい、ちょっと穴開いちゃいましたのでこぼさないように気を付けてくださいね」
「ありがとう。さ、受け取ってください」
金貨十枚を受け取りました。
ちょっと悔しそうな商人たちの視線を後に、列の後ろに並びなおす。
「うまいことやるねえシンは」
「さあて、塩は50kgで金貨十枚か」
金貨一枚をマジックバッグに入れて、「フェデラル、サボットスラグ、カッパー、12ゲージ2・3/4インチ。一発。お釣りはこの国の通貨で」とつぶやく。
ショットシェルが一個と、おつりの銀貨十一枚と大銅貨八枚が入っていた。
「ショットシェルが一個3ドル三百円が、大銅貨四枚。大銅貨十二枚で銀貨一枚。銀貨十二枚で金貨一枚。ってことは大銅貨百四十四枚で金貨一枚。大銅貨一枚七十五円として金貨一枚だいたい一万円ってとこか。塩袋二つで50ドル、五千円として金貨十枚で売れたから十万円。九万五千円の儲けっと。塩の価値はこの世界では僕の世界の二十倍か。これから入城する商人が金貨十枚で買って儲けが出るってことは、この都市内ではもっと高く買ってくれるか、あるいはここで仕入れるともっと高くつくかのどっちかだな。すごいねえ」
「計算はや!」
そっちですかサラン。
「私なんて指折り数えないとわかんないよ。シンって頭いいんだね!」
いやあそれほどでも。
これでも役場の職員でしたから。
「塩は意外と高かった……。案外、エルフの村に出入りしてた商人はまともだったのかもしれないな。それはそれで今後の大きな課題になるけど」
「……シンってさ、商人の才能あるよ。猟師なんてやめて商人やったほうがずっと儲かるんじゃないの?」
「今回の商品の仕入れはかなり問題があります。異世界の物を商品として流通させるのは良くありません。緊急避難的なものと考えてください。世界を乱さないためにはまっとうな商売をしなければいけません。ちゃんと稼ぎましょう」
「固いこと言うねえシンは」
うん、あんまり異世界で勝手すると、女神様が怒りますからねきっと。
入城する時、二人で金貨一枚(銀貨十二枚分)払って通してもらいました。
サランがいたんでちょっと出身聞かれたな。エルフは珍しいからかな。
二人ともコポリ村で問題なかったね。
二人とも手ぶら同然だから、荷物のチェックはなかったし。
「うわあ……大きい街。すごいねえ。みーんな石造りだよ。人間ってすごいねえ」
いやそれよりもあなたがすごいジロジロ見られてますよ、大きいエルフさん。
「サラン、耳を隠したほうがいいかもしれないな。エルフだからって目立ってるよ」
「うーん、そうかい? 耳を隠したぐらいで誤魔化せるかねえ」
「うん。サランってそこ以外はエルフぽく無いから」
「……やっぱり? やっぱりそうなの? シンもそう思ってるの? 私エルフっぽくないの?」
「……ゴメン。失言でした」
どずーん。
サランが暗いです。
いやほんとゴメン。
「エルフではどうか知らないけど、僕から見たらサランはすごい美人でかわいくて、料理も上手な素敵な嫁さんだよ。はいこれかぶって」
「あー。これねー!」
アライグマの毛皮の帽子。僕にも作ってもらったんだ、実は。
灰色で、フサフサしてて、後ろにアライグマのシマシマしっぽがふりふりとぶら下がってるやつね。
伝説の銃の名手、猟の達人、テキサスの英雄デイビー・クロケットが愛用していたことで僕の世界でも有名です。クロケット帽と言われています。
それを耳まですっぽりかぶってもらいます。
「うん、かわいい」
「……子供みたいだよ」
いやあ君が子供に見える人は、この世界にはいないんじゃないかな……。
とりあえずおなかすいたよね。
城塞門から街の中央までは大通り。街路が広い。
屋台が並んでておいしそうなものがいっぱい売ってる。
二人で並んで歩いて、食べ歩き。
「おいしーねー! 味付け上手!」
串焼きだね。これは……豚の肉かな。
「イノシシ肉だねえ」
一串、大銅貨五枚とか四枚とか。
塩焼きだけじゃなくて謎のソース焼きとかもあるね。
こういう味へのこだわりは、人間がやっぱり一番熱心だもんね。
「姉ちゃん、おっきいねえ! たくさん食べていきなよ!」
屋台のおばちゃんが面白そうに話をしてくれる。
大きいと言われるのはもう慣れているのかそこはニコニコしてサランがホットドッグ風の肉入りパンにかじりついておりますな。
「あの、僕たち仕事を探しているんですけど」
「ほう、どんな仕事だい?」
「二人とも猟師なんです」
「ああ、それだったら狩人ギルドかな。東口には行ってみたかい?」
「いいえ」
「東口は大きな市場があってね、入り口のすぐ横に肉や毛皮の買取をする大きな店がある。その裏が狩人ギルドの事務所だよ。狩人になるんだったらそこで資格をもらっておくといいよ」
「わかりました。ありがとうございます」
ぴっ。
コンパスウォッチで方角を確認。東口は……あっちか。
この街は城塞都市っていっても、城壁の高さは3mぐらい。まあ野生動物とか魔物なんかが入ってこない程度の高さかな。魔物ってまだ見たこと無いけど。
戦争を前提とした造りじゃないな。この世界平和なのかな。
次回「ハンターになれるかな?」