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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
12/108

12.さあ人間の街だ


「昨日の男、どうなりました?」

 朝、村長宅で朝食をいただきながら話をします。

「なーんにもしゃべらん。船頭だから、雇われただけだってな。仕方ないので昨日のうちに縛り首にして川に流したよ」

 うわあ……。


「どこかに突き出すって、出来ないんですか?」

「無駄だね。人間の街まで連れてって衛兵に突き出したりしても相手にしてもらえないかもしれないし、そんなことよりかかわった人間を一人残らず消したほうがいい。そうしてエルフを誘拐しに行って帰ってくるやつが一人もいないってほうがずっと雇い主には脅しになる」

 そんなもんですかね。


「人をやとってエルフを誘拐するような組織があると」

「まあ奴隷商人どもの中にはいるだろうな。エルフは高く売れるらしいから」

「腐った世界ですね」

「まったくだ……。あんた、人間なのにそう思うか」

「当然です。僕の妻はエルフですから」

「そうだったな……。うん、そうだ。あんたはそうだ」

 うんうんと村長が頷きます。


「数年に一人は女の子がさらわれる……。警戒はしているが」

「助ける方法はあるんですかね」

「難しい。合法的に訴える方法が無い。こっちの泣き寝入りだね」

「取り戻してこの村に連れてくる、というのは、解決になりますか?」

「そりゃあ、戻ってくれば全力で守ってやるさ」

「ふむ……」


 ……。


「あんた、余計なこと考えてるか?」

「ちょっと」

「かかわるな。これはエルフの問題だから」

「じゃあ僕の問題でもありますね。妻がエルフですので」

「いいから手を出すな。嫁を幸せにしてやりたかったらな」


 相手は犯罪組織かあ……。さすがに僕の手にはあまるかな。


 桟橋に行くと、きゃあきゃあと子供たちが騒いでますね。


 川イルカだ! 昨日の盗賊たちの船につながれていた子だね。

 子供たちが餌の魚を投げると器用にキャッチしてるよ。


「あのさあ――!」

 サランが桟橋にいた男どもに声をかけます。

「ん? あ、サランさん」

「この川イルカ、私たちがもらっていいかい?」

「ああ、どうぞどうぞ。昨日の手柄はあんたたちのだしね」

 ええ――っ。

 子供たちから抗議の声が上がります。


「こらこら。昨日助けてもらったろ? サランさんにお礼いいな。みんな」

「はーい」

 かわいいねえー……。いや、だってみんなすごい美少女、美少年ばっかりだからね。さすがエルフ。


「川イルカ、使うの?」

「うん、私たちのカヌーにつなげてさ。帰りも引っ張ってもらえそうだし」

 それだったらいいな。

 でも、街にいる間どうすんだろ。


 トコルの村長にはこちらのコポリ村長から預かっていた手紙を渡しました。

 エルフ村の近状報告が書いてあるらしいです。なかなか交流が無いのでこういう機会は大事だそうで、それ以上たいした用事は無いですね。

「賊がこれを持っていた。何か役に立つなら使ってくれ」

 そう言って村長がカードをサランに渡します。


 さっそく出発。


「はいよー!」

 川イルカの胴から伸ばしたロープをカヌーにつなぎ、口輪の手綱をぱしっと水面に打ち付けてイルカが泳ぎ出す。

 うん、スムーズ、スムーズ。

 すいすいとカヌーは進む。

「うーん快適だけど、やっぱりちょっとイルカが気の毒だね」

「馬とおんなじだよシン。時々休ませて、時々遊んでやって、時々餌をやればよろこんで働くよ」

「餌ってなに?」

「肉」

「魚じゃなくて?」

「イルカにとって肉はめったに食べられないご馳走だからね」

 へえー。


 マジックバッグからシカ肉のかたまり肉を投げると、ぱくっと飛びついて食べた。

 ホントだー。

 スピード上がってる。単純な奴……。



「ねえサラン」

「なに?」

「トコル村で聞いたんだけど、サランってエルフで一番の戦士なんだって?」

「まあね」

「なんで一番なの?」

「うーん……まあ、実際に命をかけて戦ったことのあるやつっていないんだよね。意外と」

「サランは実戦経験があるってことなんだ」

「うん、エルフは争い事、嫌いだからね」

「サランはなにと戦ったの?」

 ……。


「……言いにくいんだけど、人間」

「やっぱりかー……」

「エルフ村が野盗に襲われてね、その時みんな返り討ちにしたことがあって」

「しょうがないか」

「しょうがないね……。向こうはエルフ誘拐して奴隷にして売ろうって連中だから。殺さないと殺されるし、生かしておくと何度でも襲ってくるし」

「……」


「シンってさ、昨日、けっこうためらいなく人間撃ってたけど」

「うん」

「あれってさ、害獣と同じだよね」

「うん、そう思った」

「心が痛んだ?」

「不思議と痛まなかった。子供が助かったの見て、よかったなって、そっちのほうがずっとよかったと思えた。撃ってる時は人間撃ってる気がしなかった」

「それでいいんだよ……」

「あれは助けるってことのためだから撃てたんだと思う」

 うん……小学生守るためにヒグマ撃った時とおんなじだ。

 後悔なんてしないほうがいい。

 あそこで子供がヒグマに襲われるところをただ見てたなんて、そんなのハンターの意味がない。あれはあれでよかったんだ。


「シン」

「ん?」

「もし、自分で自分を助けなきゃならなくなったら……」

「うん」

「迷わず自分を助けてね。私のために」

「わかった」


 そうだよな。

 僕もう嫁さんがいるんだもんな。




「街、見えて来たね!」

 うおー大きいな――!

 石造りの教会みたいなやつが見える。城壁も。


「サラン、桟橋には行かないで、どこかにカヌーを隠そう。徒歩で入ったほうがいい」

「そうなのかい?」

「トコルの村長がそう言ってた。残念だけどこの川イルカから僕たちが盗賊やっつけたってことが知られてしまうから。やっかいごとの元になるってさ」

「うーん残念ね」

「はい、じゃ引き返して、どこかよさそうな所に上陸しよう」


 川沿いのこんもりとした茂みの中にカヌーを引き上げて、枝を切り払って上に乗せて隠します。

 川イルカくんとはここでお別れです。もし戻ってきたときにまだこの辺を泳いでいたら、また世話になることもあるかもしれませんね。


 「キューッキューッ」

 すっかり懐いてくれてますな。

 シカ肉を投げるとぱくっとくわえて、泳いで行っちゃいました。


 森を歩き、藪をかきわけて、街道に出る。

「すごい……」


 城壁に囲まれた城塞都市。

 映画やヨーロッパの観光都市とかでよく出てきそうな街そのまんまだ……。


 銃も、サランの長弓も矢も剣も、みんなマジックバッグに収納しておく。

 上の迷彩服も悪目立ちするので、脱いでシャツだけ。


「今更だけど、その黄色い鞄すごいよねえ。なんでも入るし」

 うん、僕のチートって、これしかないから。

 弓も剣も魔法も使えて怪力のサランのほうがずっとすごいよ。

 言うと殴られるだろうけど。


 僕もそろそろ、なにか拳銃でも、護身用に持ってたほうがいいのかな?



次回「街に入るにもお金がいる」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] カヌーはバックに入らないのかな? 獲物も毎回担いでいる描写だし 気になります
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