熊駆除の実際
北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた ~エルフ嫁と巡る異世界狩猟ライフ~ (マッグガーデンコミック Beat'sシリーズ)の第8巻が2026年8月12日に発売されます!
今回は、あまり知られていないであろう熊駆除の実際の流れをご紹介。
全国で熊の被害とその駆除が問題になっていますが、なにしろ野生の熊が市街地にまで現れるという例が過去なかったため、そのための対応は全員が素人状態で手探りで進めておりプロがいません。
現状、どのように駆除が行われているか、簡単に流れを説明したいと思います。
・クマ目撃後
市町村民、農家さんから役場又は警察に連絡が入る。
「家の裏の崖を登っていた」「道路を横切っていた」「畑にいた」など。
・役場から町の猟友会の連絡係に連絡が入る。詳しくクマの出没場所を特定し、SNSグループチャットなどで(今どき猟友会員の爺さんでもスマホを使いこなしておりますので)猟友会全員に連絡。
・パトロール開始。クマの害獣駆除従事者証を役場から与えられていて、各自出動できる人員は4WD車にライフルを乗せ熊の出没場所を周回する。(仕事を持っている人は参加できないので定年後のおじいちゃんたちが良くやってくれています)
暇な人、となるのは仕方なく一人でやる場合がほとんど。
・無線で連絡を取り合いながら範囲を決め熊の痕跡を探す。
足跡、糞、農作物を食べた跡、草が踏み倒された跡などから熊の出没範囲を推定。必要があれば痕跡を写真撮影。足跡は前足の幅を測定する。
・クマも用心深いのでほとんどの場合発見できない。
パトロールでは走行距離と時間を後で役場に報告すると燃料費と時間給が出る。とはいっても4WDのクロカン車は燃費が悪いので割に合わない点は変わらない。
熊の出没箇所が特定できたら、クマ用の頑丈な箱罠を仕掛ける場合もある。農家さんのハンターにはユニック(クレーン付きトラック)を持っている人がたいていいるのでその人に頼むことになる。あるいはローダーなどを使う場合もある。
箱罠は中で暴れたクマが倒す場合があるので、倒れないように固定することを忘れずに。
・クマが発見できたら直ちに発砲はせず様子を観察。各自に無線連絡。
全員が熊を目視できる範囲で遠巻きに距離を取り、取り囲む。逃げられても誰かからは見えるように死角をふさぎながら展開。
・無線で包囲体制が整ったところで、発砲できるか安全確認。
バックストップが無かったり、畑の中で回収が難しそうな場所の場合は動くまで見守ることも。動かない場合は爆竹、ロケット花火などで脅かすなどする。
・安全に射撃できる場所に熊が移動したら発砲開始。安全に確実に撃てる人が撃つ。誰が発砲するかは、熊の動き次第であり、誰々さんにお任せ、誰々さんが独り占め、ということはない。
箱罠に捕らえられた場合はライフル銃で止め差し。実際に箱罠に捕らえられた熊は人間が接近すると中で吠えてガシャンガシャンと大暴れする(あきらめておとなしくしている熊など見たことない。クマ保護派の人に見せたいきわめて狂暴な野生動物である)のでこれも非常に危険な作業である。
こんな状況で獣医さんに「じゃ、麻酔銃撃ち込んでください」と頼める人、いるだろうかと疑問である。
・使用するライフルは30-06スプリングフィールドかそれ以上。特にハーフライフルは半矢にして狂暴化させる可能性が高く避けるべき。残念ながら。本文で何度か触れた通り急所を貫くパワーが必須。
・狙点はヘッドショットは弾丸が跳ねるので避ける。映画やマンガではヘッドショットすると凄腕に見えるのだが、ハンターの場合鹿でも小動物でもヘッドショットすると後始末が大変になるのでお勧めできない。やればわかるが運搬、解体、廃棄等で服が血まみれになりやすい。
腹、下半身も死ぬのに時間がかかり逃げ回られるので避ける。横の場合は前足を前に出した腋部分。正面ならあごの下(喉元)。立っているなら胸(首下)、真横は死ににくいので斜め前から胸中央を狙うのが良い。多少外れても心臓、心臓周囲の大血管に確実にダメージが与えられる角度になるのを急がず待つこと。
・クマは撃たれてもすぐには死なない。必ず転がって走って逃げてから倒れるのでそのことを頭に入れておくこと。
・上級者になると頸椎(首の骨)を狙う。脳からの信号を遮断する、即倒させる唯一の手段。
・熊の死亡確認。倒れている背中側から接近する。腹が動いて呼吸しているかを観察する。動かなくなったところでさらに頭部か頸椎に撃ち込むことを忘れずに。
弱った熊は必ず死んだふりをして反撃するものと心得る。
最終的には瞳孔の拡大を確認する。
・熊回収。人海戦術だったりロープをかけて引きずったり、4WDで乗り付けて荷台に載せたり、全員で共同作業。車でけん引、滑車、クレーン、フォークリフトやローダーなど使えるものは何でも使う。
・熊の記録(ヒグマ捕獲票)に記入。
捕獲者氏名、住所、電話番号
捕獲日時・捕獲場所(狩猟地図よりメッシュ番号)
捕獲方法(銃猟・箱罠等)
熊の性別・推定年齢、体重、大きさ(横向きで尻から鼻先まで)の長さ。胸囲、体高、前足の幅をメジャーで測定記録。(わかる範囲、測定できる範囲で良い)
出現状況(子連れか単独か、頭数、その他)など。
・写真撮影
右向きに寝かせて胴体にスプレーで捕獲日、番号を書いて日時、場所を書いたプレートと共に撮影する。その後、スプレーを横線で消して、抹消した写真も撮る。これは一頭の獲物の死体を使いまわして複数頭獲ったという不正申請を防ぐため。要するに写真は二枚必要である。
たった一人のハンターが不正や事故や犯罪をやっただけでそのしわ寄せが日本全国のハンターに余計な仕事や手間を増やす形で迷惑がかかることを御承知願いたい。
「スプレーしちゃったら毛皮が獲れないじゃないか」と思ったならその通り。お役人は非情である。
フィルム撮影していたときは写真を撮って現像してプリントしてともうそれだけで赤字な話で、スマホで役場にメール送信できるようになったのは本当にありがたい。
・尻尾を切断して写真と記録と一緒に後で役場に提出する。尻尾は複製が不可能なので一番確実な討伐証明。
・解体場へ運ぶ。有志のハンターが自宅に解体所を作っているのでそちらでみんなで集まってやる場合がほとんど。大都市近郊ならクマを買い取ってくれる精肉店がある場合はそちらへ持ち込めるが、ほとんどの市町村にはそんなものはないので自己消費となる。ハンターが自分で解体した肉は衛生法上販売できない。
精肉店に持ち込む場合は腹出し(内臓抜き)ができないので喉元にナイフを深く差し血抜きを行う。
屠殺動画など(動物保護団体が公開している)見るとまずこの血抜きが最優先であり、お肉をおいしくいただくなら、「まず血から腐敗が始まる」ぐらいに考えておくのが良い。
・数人がかりでクマを解体。和気あいあいとやっているように見えて、実は臭いわ汚いわ腰をかがめてやる重労働だわで本当はまったく楽しくない。
参加者全員で肉を分け合う。良いところだけ取ってあとは犬の餌になる。お勧めはビーフシチューや煮込みなど良く熱が通る調理法。なにしろ寄生虫が多い野生動物なので生食、加熱不足は厳禁となる。意外と鹿肉より肉が柔らかく、煮込みすぎると繊維状にばらけて肉が無くなってしまうことがある。
・内臓がいい金になるというのは昔の話。薬事法でそんなもの販売できるわけがない。毛皮も誰も買ってくれないので残滓行き。
・町のゴミステーションに動物の残滓処理ポストがあるのでそちらに大きなポリバケツで運搬して皮と骨と内臓などの残滓を廃棄。ハンターになるとホラー映画とか見ても全然楽しめない。
・運搬に使用した車両、解体に使用した道具を水道ホースなどで洗浄。
・市町村あるいは国からの報奨金は合同駆除の場合は参加者全員で均等に分け合う。
獲った人、撃った人に支払いでは競争、縄張り争い、ベテラン占有などのトラブルになりやすいから、出動した人員で山分けが原則。
日常の一人でパトロール、一人でパトロール中の駆除などは個人の報酬となる。
毎日出猟し毎日パトロールし毎日獲物が獲れれば害獣駆除だけで生計を立てることもできるかもしれないが、年中出没してくれるわけは無いし、出没目撃だけで出動してもほぼボランティアでかろうじて赤字にならないレベルであり、仕事がある人が仕事を休んで動くならまったく割に合わない危険な作業である。
その他にも、送電、水源管理の職員が山に入るときに同行を要請されたり(銃を担いで山歩き)、お金持ちのハンターのガイドなど、暇ならば引き受けられる仕事もたまにはある。
誤字報告ありがとうございました!




