関数電卓でできる銃の弾道計算
2022年12月14日にコミカライズ4巻が発売されます!
よろしくお願いいたします!
今回のサービス回は前回予告していた「関数電卓でできる銃の弾道計算」です!
エアライフル多めですが近距離でも弾道を把握してないと当たらないのがエアライフルというやつなのでエアライフルハンターの方にご参考になればと思います。
●弾丸のドロップ量
銃の弾丸は重力で落ちる。弾丸は羽根がついているわけでもエアソフトガンのようにポップアップするための回転がかけられているわけでもないので揚力は発生しないから、投げた鉄球同様に見事に重力加速度に従った放物線を描いて計算通りに飛んでいく。従って重力加速度の計算式をそのまま使ってよい。
気温が気圧が地球の自転がというのはマンガの話で、せいぜい300mぐらいしか撃たない国内ハンティングでは着弾は1~2センチも変化しないので無視してよい。もし地球の自転が影響するなら、北に向かって撃つか南に向かって撃つかで着弾がずれるはずだがもちろんそんなことは起こらない。
まずは弾速が遅く狭い範囲で上下動が大きいエアライフルを例に計算する。
エアライフルで50m先のカラスを撃つというのは、ライフルで300m先の鹿を撃つのとスケールが異なるだけで同等と言えるであろう。
装薬ライフルでは弾薬のパッケージに弾速も弾道も印刷してあるのでそれを見ればよいが、エアライフルにはそれが無いので自分で計算しないといけないのである。そして、鳥は小さいので弾道変化をちゃんと把握しておかないと数センチの差で外すか、半矢にしてしまうから知っておかなければならないことだ。
エアライフル射撃で弾速が296m/s(海外動画よりfx cyclonの実測)とする。
標的までの距離は50m。
そうすると、着弾まで50÷296=0.169秒かかる。
物理の計算式で落下量は(1/2)×重力加速度9.8×時間×時間
-0.5×9.8×(50÷296) =-0.1398m
落下量なので値はマイナスにしなければいけないから式の先頭にマイナスを追加してある。エアライフルで標的に当たるまで14cmも弾丸は落ちていることになる。
実際には空気抵抗で落ちる量はさらに大きい。弾丸の空気抵抗値は不明なので、近似的に上記の式に空気抵抗係数1.2~1.4(これは弾丸により異なる)をかける。とりあえず1.3にしてみよう。
-0.5×9.8×(50÷296) ×1.3=-0.1818m
となり、実際のドロップ量に近くなる。さらに銃口はスコープの4~5cm下にあるので、この間隔を5cmとすると落下量は
-0.5×9.8×(50÷296) ×1.3-0.05m=-0.2318mだ。
もしスコープと銃身が完全に平行にセットしてあると、弾丸は50m程度の距離で狙点より23cmも下に当たるわけだ。
見た目銃身とスコープは完全に平行にセットしてあるが、実際はゼロインするとスコープの中のレンズのチューブが、50m先で23cm下に傾いている。
これは角度にするとAtan(0.2318m÷50m)=0.2656°だ。
銃身を上向きに修正するので角度はプラスである。これはそのまま銃身の仰角となる。50m先にゼロインした銃身はこれだけ上を向いているのだ。
弾丸は5cmスコープ下から発射され上昇し、距離10m前後で一度スコープ狙点と交差して、30mでスコープ狙点の2cmほど上まで上昇してから徐々に落下し、50mでスコープ狙点とまた交差した後、加速度的に落下するという弾道を描く。距離にしてそれぞれの弾丸の位置を計算すると、
-(1/2)×重力加速度9.8×(距離÷弾速) ×空気抵抗係数+tan(角度)×距離-銃口位置
0m -0.5×9.8×(0÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×0-0.05=-0.05m
10m -0.5×9.8×(10÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×10-0.05=0m
20m -0.5×9.8×(20÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×20-0.05=0.01m
30m -0.5×9.8×(30÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×30-0.05=0.02m
40m -0.5×9.8×(40÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×40-0.05=0.02m
50m -0.5×9.8×(50÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×50-0.05=0m
60m -0.5×9.8×(60÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×60-0.05=-0.03m
70m -0.5×9.8×(70÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×70-0.05=-0.08m
80m -0.5×9.8×(80÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×80-0.05=-0.14m
90m -0.5×9.8×(90÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×90-0.05=-0.22m
100m -0.5×9.8×(100÷296) ×1.3+tan(0.2656°)×100-0.05=-0.31m
という計算になる。簡素化した計算だが実射の弾道と数センチしか変わらないかなり近似値が得られる。
エアライフル狩猟を実際にやる人は、「そうそう弾道ってこんな感じ」というのをなんとなく実感できるはずである。10m先の鳥を狙うときは十字線ど真ん中でいいし、30~40mを狙うときはスコープのミルドットで十字線上の半mill(+2~3cm)で狙えばいいし、100m先のカラスを狙うとき3~4mill(-30~-40cm)ほど十字線より下で狙ったら当たったことは無いだろうか。
後は実際に射撃場で距離を変えながら実射し、実測値に合うように初速や空気抵抗係数を少しずついじってみると、実射した弾道とこの計算結果がぴったり合うグラフが作れるはずである。
ちなみにこれを150mでゼロインした秒速800mの装薬ライフルでスコープ高さを5cm(0.05m)で計算すると
-0.5×9.8×(150÷800) ×1.3-0.05m=-0.2739mだ。
もしスコープと銃身が完全に平行にセットしてあると、弾丸は150mの距離で狙点より27.4cm下に当たる。
ゼロインするとスコープの中のレンズのチューブが、150m先で27.4cm下に傾いている。
角度はAtan(0.2739m÷150m)=0.10462°だ。
0m -0.5×9.8×(0÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×0-0.05=-0.05m
50m -0.5×9.8×(50÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×50-0.05=0.01m
100m -0.5×9.8×(100÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×100-0.05=0.03m
150m -0.5×9.8×(150÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×150-0.05=0m
200m -0.5×9.8×(200÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×200-0.05=-0.08m
250m -0.5×9.8×(250÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×250-0.05=-0.21m
300m -0.5×9.8×(300÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×300-0.05=-0.40m
350m -0.5×9.8×(350÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×350-0.05=-0.63m
400m -0.5×9.8×(400÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×400-0.05=-0.91m
450m -0.5×9.8×(450÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×450-0.05=-1.24m
500m -0.5×9.8×(500÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×500-0.05=-1.63m
550m -0.5×9.8×(550÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×550-0.05=-2.06m
600m -0.5×9.8×(600÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×600-0.05=-2.54m
650m -0.5×9.8×(650÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×650-0.05=-3.07m
700m -0.5×9.8×(700÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×700-0.05=-3.65m
750m -0.5×9.8×(750÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×750-0.05=-4.28m
800m -0.5×9.8×(800÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×800-0.05=-4.96m
850m -0.5×9.8×(850÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×850-0.05=-5.69m
900m -0.5×9.8×(900÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×900-0.05=-6.47m
950m -0.5×9.8×(950÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×950-0.05=-7.30m
1km -0.5×9.8×(1000÷800) ×1.3+tan(0.10462°)×1000-0.05=-8.18m
もちろん空気抵抗や弾速でこの通りにはならないが、それでも1km射撃では目標の8mも上を狙わないと当たらないわけで、100m距離を間違えると人間の胴体にもあたらない超遠距離狙撃がいかに難しいかが分かると思う。作中シンはライフルのゼロインをいつも150mにしていたが、150mでゼロインしておけば50mから200mまで十字線のど真ん中で狙っておけばだいたい獲物の急所には当たるので、ライフル狩猟ではゼロイン150mというのは大変に使いやすい便利な距離というのも理解いただけるのではないだろうか。
日本国内のハンターは300m以上の距離を撃つことはまず無いので、これで十分なのだ。
1kmで8m上を狙うというのはミルドットスコープの目盛りだと8millも下のドットで狙いをつけることになる。MOAで言うと
Atan(8÷1000)×60=27.5MOA
で、150mからゼロインを1000mに移動するとなると、1クリック1/4MOAのスコープなら27.5×4=110で、110クリックもターレットをUPさなければならない。調整範囲±30MOAぐらいのスコープが必要で、こうなると胴径が30mmの太いスコープが必要になるだろう。
●弾速を測定してみる
弾道計算ではどんなアプリでも必ず弾速を入力する項目がある。そもそも弾速が分からなければ弾道計算はできないのだ。装薬ライフルでは弾速は弾薬のパッケージに「fps(フィート毎秒 ft/s)」で書いてあるが、空気銃で弾速弾速を測定するには弾速計が必要である。
話はこれで終了だが、だからってエアライフルハンターが全員高価な弾速計を購入するというのも無理な話で、何とか手元の機器で弾速を測定する方法は無いか考えてみる。
射撃場で50m射撃をするのでもパンッと撃ってパスッと標的に当たるまで一瞬の間がある。これを何らかの機器(スマホで良い)で手元で録音しておく。
これをwavファイルにしてパソコンのwav編集ソフトで開いて音波を見る。フリーソフトで良い。
発射音は弾丸が飛び出すまでは銃身に閉じ込められているので、発射音が始まったところでスタート、パスッと標的紙に当たったところで着弾となる。
この間隔をカーソルを合わせて何秒か確かめる。
仮にこのパンッからパスッが0.35秒だったとする。
パスッと標的に当たった音は、50m先の標的から音速で返ってきた音だ。そのためこの分を差し引く必要がある。
音速は平地平温で331.45m/sなので距離50mだと
50÷331.45≒0.15秒。
着弾して当たった音が射手に返ってくるまでの合計時間が0.35秒だったので、発射してから着弾するまでの時間はこの標的の着弾音の時間を引いて
0.35-0.15=0.2秒
発射から着弾まで距離は50mで0.2秒かかったことになるので弾速は、
50÷0.2=250m/s
録音の結果、弾速は250m/sとわかる。
……実際には弾速は発射直後からどんどん落ちているのだから、やはり弾速計のほうがお勧めできるということになるか。参考に弾道計算アプリだとエアライフルの弾丸エネルギーは50mで70%、70mで50%にまで落ちる。あまり欲張って100mでキツネを狙うと、当たっても半矢で逃げられるのはこのせいである。
エアソフトガン用の安い弾速計でも400m/sまでは測定できるので、最大でも300m/sぐらいの狩猟用空気銃の弾速はカバーしているから測定できるかもしれない。一万円しないのもあるので誰か購入して試してほしい。
海外動画を丹念に探して、自分と同じエアライフルの弾速を測定した人の動画を見つける方が話が早いかもしれない。
●撃ち上げ、撃ち下ろしの角度がある場合
これも作品中で何度か取り上げたテーマである。
308ウインチェスターで角度15度、距離500mを撃つと7cmほど狙点より上に当たるという程度の話で、200~300mで平地や丘、河岸からシカやクマを撃つ分には全く気にしないでよい。同様にエアライフルのカモ撃ちハンターもカモは高い木に留まったりしないから無視してよい。
しかしこれが弾速が遅く落差の大きいエアライフルで、害鳥駆除のため木の上とか屋根の上とかサイロのてっぺんのカラスやハトを撃つとなると無視できない誤差が生じるので覚えておかないといけないことの一つである。
先にペレットは50m先で初速296m/sの場合、
0.5×9.8×(50÷296) ×1.3=0.1818m
18cmも落下すると書いた。これはスコープ高さなどを除いた、純粋に重力と空気抵抗で落ちる量なので、角度による誤差はこの値を使って計算する。
銃を真上に撃つことを考えよう。この場合重力による放物線にはならないので弾道は銃身の角度そのままに斜め上まっすぐに飛び、スコープから見て狙点より18cm上に着弾する。
真下に撃つ場合でも同じで射手から見て狙点より18cm上に着弾する。
銃は上向きでも下向きでも、狙点より上に着弾がそれるのだ。これは何度も説明した通りスコープに対して銃身が斜め上を向いてセッティングされているからだ。
真上に撃つと弾が減速し、真下に撃つと弾が加速するなんてのは無視してよい。弾速が300m/s近くあるのに、50mの着弾まで0.17秒かかって1.63m/sしか加減速しない重力加速度なんかプラスマイナスしてもたいした誤差にはならないからである。
では角度により距離50mでどれぐらい狙点は移動するかと言うと、
0° 0.1818×(1-cos0°)=0m
15° 0.1818×(1-cos15°)=0.0027m(これぐらいなら無視してよい)
30° 0.1818×(1-cos30°)=0.024m(まあ2cmぐらいなら……)
45° 0.1818×(1-cos45°)=0.053m(もう無視できない)
60° 0.1818×(1-cos60°)=0.091m(外れちゃうよ)
75° 0.1818×(1-cos75°)=0.135m(頭の上飛んでっちゃったよ)
90° 0.1818×(1-cos90°)=0.1818m(どこ撃ってんだよ!)
となり、90度の真上を撃つとスコープから見て18cm上にペレットがそれる式ができた。
高いサイロ(北海道のサイロは非常に高い!)もしくは木のてっぺんにいるカラスやハトを角度45度で狙うとき、距離計で50mと出たら急所の胸より4~5cmほど下、つまり腹下や足元を狙わないと外すか半矢にしてしまうわけである。これはやってみればわかるのでカラスあたりで経験してほしい。海外のハト駆除動画でも高い所にいるやつは足元を狙って撃つスコープ動画がたくさんあり、空気銃だと外したときはスコープから飛んでいく弾丸がちらりと見えることもあるから経験的にこのことを知っているハンターは多いことが見て取れる。
●なぜエアライフルのゼロインは50mが多いのか
プリチャージエアライフルのゼロインは50mにセッティングしている人は多いと思う。なぜと言われれば「射撃場が50mだから」と答えるしかないのだが、この距離はけっこう理にかなっているので解説したい。
弾道計算の結果を先に掲載したが、これをゼロイン距離を変えると弾道はどうなるかを並べてみたい。表記は何センチペレットが上下するかだ。
スコープ高さは5cm、弾速296m/sで計算してみた。計算方法は先に述べた弾道計算と同じだがペレットの上下はcmである。
射程↓ ゼロイン距離→
20m 30m 40m 50m 60m 70m 80m 90m 100m
10m -1.8 -1.9 -1.6 -1.1 -0.5 0.1 0.7 1.4 2.0
20m (0.0) -0.2 0.4 1.4 2.5 3.7 5.0 6.3 7.6
30m 0.3 (0.0) 0.9 2.4 4.0 5.9 7.8 9.8 11.8
40m -0.8 -1.2 (0.0) 1.9 4.1 6.6 9.1 11.8 14.4
50m -3.4 -3.9 -2.4 (0.0) 2.8 5.8 9.0 12.3 15.7
60m -7.4 -8.1 -6.2 -3.4 (0.0) 3.6 7.5 11.4 15.4
70m -12.9 -13.7 -11.5 -8.2 -4.3 (0.0) 4.5 9.1 13.8
80m -19.9 -20.7 -18.3 -14.4 -10.0 -5.1 (0.0) 5.3 10.6
90m -28.3 -29.3 -26.5 -22.2 -17.1 -11.7 -5.9 (0.0) 6.0
100m -38.2 -39.2 -36.1 -31.4 -25.7 -19.7 -13.3 -6.7 (0.0)
ゼロイン距離100mを見てみよう。
「俺が狙うのは100m先のカラスだ!」とか言ってゼロインを100mにセットしてしまうと、30mでは12cmも上を飛び、50mでは弾は最高点の15cmまで上昇して、90mの時点でもまだ6cmも弾は上を飛んでいて近~中距離が全く狙えなくなる。もうピッタリ100m以外どの距離でも当たらない悲惨なエアライフルの出来上がりとなる。
ゼロインを70mにしても、30~50mの距離で弾丸は5~6cmも上を飛んでいてやはり論外である。
逆に20mなどの近距離に合わせると、今度は50mで3.4cmも下に当たってしまうし、50mを越えてからの修正量が大きい。
一番広い範囲をカバーしていると思われるのは実はゼロイン40mで、10~40mなら十字線のど真ん中で狙えばまず間違いなく急所に当たるという広範囲をカバーしている。スコープにミルドットの目盛りがついていないシンプルな十字レティクルを使っている人には大変お勧めできるゼロイン距離である。
プリチャージエアライフルよりさらに弾速が遅いスプリング銃を使うシンは、作中で20mにセットしていたが、これで10~30mぐらいはど真ん中で狙っておけば確実に当たるからだ。
50mはそれに次ぐ広範囲のカバーができていて、カバー範囲は10~50mであり、30mのときだけ最高点を通過するので少し下を狙えばOKという分かりやすさ。いずれも50m以上の長距離を狙う場合だけ目盛りを読んで狙点を変えればよいことになり、「スコープのダイヤルをカチカチやって距離に合わせて十字線を移動させる」なんてことがいかに効率が悪いかがわかるだろう。
実際の狩猟では距離がどうのミルドットがどうの狙点がどうのしていたら逃げられてしまう。さっさと十字線の真ん中で狙って発砲できれば最高なわけで、それを実現しているゼロイン40~50mが結局一番使いやすいということになる。
この、「真ん中で狙えば急所に当たる範囲」を「キルゾーン」と言い、多くの弾道アプリで急所の直径は1インチ(つまり±12.7mm)とされている。ペレットの上下がこの範囲におさまる距離がなるべく広いようにセットするほうが楽ということ。北米の人ならば50yd(45.72m)でゼロインを設定するのではないだろうか。
弾速の速いエアライフルを買えば、この放物線はよりフラットになり、キルゾーンは広がる。弾速を速くするには、より強力なエアライフルを買うか、ペレットを軽くするか、同じエネルギーで撃ち出すなら5.5mmより4.5mmの小口径のほうが弾速が速い。
弱威力ではあるが誰でも簡単に命中させられる4.5mmが今でも需要がある理由である。
装薬ライフル銃でも事情は同じで、500mとかにゼロインしてしまうと200~300mが当たらないし、1km先にゼロインしたライフルは1km以外の距離ではどこにも当たらないと賢明な読者諸君ならわかったはずだ。
つまり射撃前にスコープのダイヤルをカチカチやって十字線の真ん中で狙うと、「その距離以外ではどこにも当たらないライフルの出来上がり」となるので実戦的ではないのだ。しかし映画やドラマやアニメのスコープ映像で距離に合わせて敵のやや上や下を狙って撃っても「見当違いのところ撃ってるヘタクソ」か、「狙ったところに当たってないじゃないか」と観客は思う。敵を十字線の真ん中で狙って撃つのは、ライフル射撃の知識がない観客にもよくわかるようにするための映像上の演出なのだ。
弾はまっすぐ飛んでいかない。長距離なほど見てわかるほど大きく放物線を描いて飛んで行く。高性能な銃、高性能なスコープがあれば当てられるというほど簡単ではないのである。
●スコープのローマウントとハイマウントの変化
スコープの大口径化、ロータリーマガジンが銃身の上に飛び出すプリチャージ、肩まで銃身が一直線のブルパップの登場によりエアライフルのスコープマウント位置は高くなる一方である。昔なら銃身からスコープまで4cmぐらいだったスコープ高さはブルパップで今や8cm近いハイマウントだ。
数百メートル先を狙う装薬ライフルなら無視していいこんな誤差が、小さな鳥を近距離で狙うこともあるエアライフルハンターには大問題となる。こうなると、銃口とスコープの間隔に差があり過ぎて、近距離によっては胸を狙ったら足元に当たったという、笑えない悲劇も起こる。
では4cmのローマウントと8cmのハイマウントで同じ50mゼロインで弾道がどう変わるのか見てみよう。スコープ高さは4cmと8cm、弾速296m/s、ゼロイン距離50mで計算してみた。使用した計算式は既にやった弾道計算と同じである。
4cm 8cm
10m -0.3 -3.5
20m 2.0 -0.4
30m 2.8 1.2
40m 2.1 1.3
50m 0.0 0.0
60m -3.6 -2.8
70m -8.6 -7.0
80m -15.0 -12.6
90m -23.0 -19.8
100m -32.4 -28.4
10m前後が全く狙えなくなる8cmマウントだが、そのかわり20m先からは上下動の少ないフラットな弾道になる。ハイマウントは遠距離向きだ。
狭い範囲で10mや15mなんて距離でも駆除する必要がある人はローマウント、それ以上の長距離射撃をする人はハイマウントがおすすめと言える。銃の性能は変わっていない。これは命中精度が変わったわけでも、より遠くに弾が届くようになったわけでもなく、そういう弾道に変化する、という話である。
実は問題は別の所にあり、計算の通り「スコープのマウント高さを変更するとゼロイン距離が同じでもその前後の距離の着弾点は激変する」ということだ。マウント高さを変えてしまうと、従来使っていた弾道表が使えなくなるのである。
新しい銃ならともかく、使い慣れた銃なら、スコープを交換してもこのマウント高さは変えないほうがいいということになる。カッコいい大口径スコープに変えてハイマウントにしてしまった人は弾道の把握をやり直さなければならない。
また、シンのように駆除で10メートル以下の距離も撃つ人にはブルパップはお勧めできないということもわかると思う。
●空気銃のペレットの重さを変えてみた
より弾速を速くしたくて軽いペレットを使う、より高威力にしたくて重いペレットを使う場合、弾道は変わってしまう。空気銃はどんなペレットを使う場合でも撃ち出すエネルギーは同じだからだ。装薬ライフルでは弾薬のパッケージに弾速も弾道も書いてあるが、空気銃のペレットには重量しか書いていないので、これはやってみないとわからない。
では16グレインのペレットで50mでゼロインを合わせていたエアライフルで、18グレインの重いペレットを撃つと弾道はどう変わるか計算してみよう。
16グレインのペレットで35ft/lbsのパワーで撃ち出すと弾速は、
弾丸重量 16gr×0.064799=1.037g
エネルギー 35ft・lb×1.356=47.46J
弾速 √(47.46×2÷(1.037÷1000))=302.54m/s
+2グレインの18グレインのペレットの弾速。
弾丸重量 18gr×0.064799=1.166g
弾速 √(47.46×2÷(1.166÷1000))=285.31m/s
たった2グレインの差で弾速は6%も遅くなる。
16グレインのペレットの落下量は
-0.5×9.8×(50÷302.54) ×1.3=-0.174m
ではこのパワーのまま、修正しないで18グレインのペレットを撃ち出すと、
-0.5×9.8×(50÷285.31) ×1.3=-0.196m
となり、16グレインで50mでゼロインしてあった銃で18グレインを撃つと弾速が遅くなった分22mm下に当たるということになる。
これを大きいから着弾修正しようと思うか、その程度なら無視していいと思うかは個人の判断となるだろうか。ちなみに50m先で22mmなら通常のスコープでは
22/3.5≒6で、16グレインと18グレインのペレットでスコープは6クリックUPの修正が必要となる。
たった2グレインの差でこうなるということは、要するにペレットの重量を大幅に変えたら、やっぱり射撃場でゼロイン合わせをやり直し、距離を変えて撃ってみて弾道を把握しなおすのが賢明ということになるだろう。実猟中、獲物によりペレットを使い分ける、というようなことはやるべきではない。
●空気銃のエネルギーを変えてみた
エアライフルだとレギュレーター変更により弾速をH、M、Lに設定できる機種がある。通常はH、屋根に穴をあけたくない場合やチャージした空気を節約したいとき、または近距離ではMやLにセットする、ということをやりたい場合もあるかもしれない。しかし弾道がどう変わるかは興味深いところである。
海外動画の実測より、FXサイクロンだと弾速はH973ft/s、M783ft/s、L636ft/sというデーターがある。ではH973f/s、50mゼロインしたサイクロンでMやLにした場合着弾点がどれぐらい下がるか、近距離20mと30mで見てみよう。
H973ft/s×0.3048=297m/s(100%)
M783ft/s×0.3048=239m/s (80%)
L636ft/s×0.3048=194m/s (65%)
後ろの%はHを100%とした場合の初速比である。
大した違いに見えないかもしれないがエネルギーは速度の二乗で変化するのでエネルギー比で計算すると弾丸重量を16グレインとした場合
16×0.064799=1.0368g
0.5×(1.0368/1000)×297 =45.727J(100%)
0.5×(1.0368/1000)×239 =29.612J(65%)
0.5×(1.0368/1000)×194 =19.511J(43%)
というようにエネルギーは激変している。屋根に穴をあけたくない場合は一考の価値があるわけだ。
Hで50mでゼロインしてあるスコープ高さ5cmのサイクロンだと落下量は
-0.5×9.8×(50÷297) ×1.3-0.05m=-0.2305m
この分銃身を上向きにしないといけないので仰角は
Atan(0.2305m÷50m)=0.26413°
距離20mでの落下量は
H -0.5×9.8×(20÷297) ×1.3+tan(0.26413°)×20-0.05=0.0133m
M -0.5×9.8×(20÷239) ×1.3+tan(0.26413°)×20-0.05=-0.0024m
L -0.5×9.8×(20÷194) ×1.3+tan(0.26413°)×20-0.05=-0.0255m
50mでゼロインしたサイクロンで20mを狙うときはHだと13mm上を飛ぶが、Mにするとほぼ十字線ど真ん中的中ということになる。これはなかなか便利そうだ。このときLで撃つと26mm下に当たってしまう。
距離30mでの落下量は
H -0.5×9.8×(30÷297) ×1.3+tan(0.26413°)×30-0.05=0.0233m
M -0.5×9.8×(30÷239) ×1.3+tan(0.26413°)×30-0.05=-0.0121m
L -0.5×9.8×(30÷194) ×1.3+tan(0.26413°)×30-0.05=-0.0640m
30mを狙うとHでは23mm上に当たり、Mだと12mm下に当たり、Lだと64mmも下に当たる。30mならパワーはいじらず狙点を変えたほうが良いだろう。
実はサイクロンのLで撃つのは距離が何メートルでも狙ったところより下に当たるので、事実上Lは使い物にならない。空気銃専用の10m室内射撃場とか、海外で行われるフィールドターゲット競技に出場するのにどーしてもサイクロンを使いたいときのためかもしれない。競技用エアライフルの弾速は180m/sぐらいで、空気銃で一番良いグルーピングが出る弾速がこれだ。狩猟用ライフルは威力も必要だからこれより弾速が速いのだ。
「50mで合わせたサイクロンで20mを撃つ時はMにする」は覚えておいて損はないと思った方はお試しあれ。
ここまでついてきてくれてありがとうございます。
これら計算は関数電卓でやる事を前提としています。スマホのアプリにも関数電卓がありますね。
エクセルを使うときは、角度の入力はラジアンで入れてください。
例えば角度が45°だったら、三角関数の入力式は
例「 tan(PI()/180×45)」としなければ計算できません。
また、計算は弾道の変化を説明するための物であり、実際の弾丸の飛び方は試射以上の正確なデーターは無いということは忘れないようにしてください。
次回の予定は未定です。一度にいろいろ書きすぎちゃったかな……。




