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北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた  作者: ジュピタースタジオ
第一章 本物のハンター、異世界に行く
10/108

10.これも新婚旅行かな


よーそろー(進路そのまま)!」

「よーそろー!」

 バッシャバッシャバッシャ。


取り舵()ー!」

「とりかじ――!」

 バッシャバッシャバッシャ。


 ここ数日、猟を終えた午後には湖でサランとカヌーの練習してます。

 丸太を丸々削った丈夫なやつです。二人乗りですね。

 前がサラン、後ろが僕です。

 湖の魚獲り用の船で、エルフさんたちは一本の(かい)で操舵と推進力を得ていましたが、改良してパドル(両端にヒレのついた両手櫂)にしました。

 サランは使いやすいと喜んでいます。パワフルですね……。

 僕も振り回してますけど、サランにはかないません。


 簡単にひっくり返るのでね、片側にフロート付けました。

 安定してるに越したことはありませんからね。

 そのほかにも細かい改造をあちこちと。丸太をより薄く削って軽量化。その分防水のためマジックバッグから耐水塗料を買って刷毛塗りとか、いろいろやっております。

 それにしてもサランが漕ぐと凄いスピード出ますな……。


 湖畔に乗り上げてから、引き上げます。

「いやあだいぶうまくなったねえ」

「最初はひっくり返ってばっかりいたもんね」

 僕がヘタなせいです。すいません。でもフロートのおかげで今は安定してます。

 いやほんと、サランは水でもすいすい泳ぐので、僕だけマジックバッグから買ったライフジャケット付けてます。これもハンティンググッズというわけですか。


 計画では川を下って、トコルという川沿いのもう一つのエルフ村に寄り、サープラストという大きな人間の街に行きます。市場と商館、ハンターのギルドがあるそうで、商人たちもここから来るらしいです。

 そこにしばらく滞在し、市場調査をして、できればハンターの資格を取って、すこしお金儲けというか現金収入を得てから、川を(さかのぼ)って帰る予定です。


 実は帰るところまであんまり考えていないんですよね。

 まあなんとかなるでしょう。



 夜、こっそり女神ナノテスと無線で通信しました。


”御結婚おめでとうございます中島さん”

「……なんでそんなこと知ってるんですか……」


 うん、全部モニターしてるよね。ぜーんぶ筒抜けだよね間違いなく。


”異世界楽しんでもらってるようで何よりです”

「そりゃどうも。ナノテスさん、僕にやってもらいたいことがあったんじゃあないですか?」

”そりゃあありますよ。魔王倒すとか”

「魔王なんているのこの世界!」

 びっくりだ!

 えええ――――!


「そういうのってさ、勇者の仕事じゃない?」

”そうです。だから国でいつも勇者募集してますよ”

「募集って……募集ってさあ……」

”心配いりませんよ。魔王復活するって言ってもまだ百年以上先の話でしょうから”

「大丈夫なのそれ?」

”大丈夫です! この世界の勇者さんがやっつけてくれますから!”


「……じゃあ、僕はそれにはかかわらず普通に生活してていいんですね」

”そうですねー。まあ、中島さんは鉄砲持ってるとはいえ普通の人間ですからねえ。レベル上げとかして強くなるわけじゃありませんし、関係ないですね”

 そうかあ……。それならいいや。

 僕はエルフ村でサランと静かに暮らす。なんかそれでいいや。

 余計なことに巻き込まれたくないな。


「この先、勇者にされたり、勇者の手伝いさせられたりとかは無いんですね」

”……ネタバレはフラグになりますからご注意ください”

「あるの! そんな可能性あるの!」

”無いです”

「……まあ、そんなキッパリ言い切ってくれるならありがたいです……」

 安心しました。



「じゃあなんで僕を選んで、わざわざ異世界に呼び寄せたのナノテスさんは?」

”聞きたいですか?”

「そりゃあね」

”実はですねえ、魔王が復活するとなれば、こちらの世界の勇者さんじゃ勝てなくて、異世界から勇者さんをね、女神が召喚するってことも今後ありえるわけですよ”

「はあ」

”でも前例がないといろいろトラブルになりそうじゃないですか。私まだやったことないんで”

「そうでしょうね」

”勇者召喚となるとチートという特別な能力をあげたり、最初からチートを持ってる人を召喚するのが普通なんですが、やりすぎると世界をメチャメチャにされちゃったりして、その手加減が難しいんです。多くの異世界で、それで失敗した例があるんですよ”

「はあ」

”なので、中島さんでちょっとそのリハーサルというかケーススタディーといいますか……”

「ふーん……つまり僕はモルモット第一号と」

 むかむかっ。


”サランちゃんかわいいですよね。いいお嫁さんもらって幸せですね”

「うん」

”……そうあっさり肯定されるとなんか腹立ちますね”

 それで僕のご機嫌を取ろうってことですかね。


「計画してましたよね。こうなることは計画通りなんですかね? 僕をわざわざ人間の町とかではなく、エルフ村の近くに落としたのはこうなることをある程度予想してたってことですかね?」

”エルフさんは争い事が嫌いであれでけっこう親切ですから、いきなり身ぐるみ剥がれて殺されたりする可能性が一番低い種族だと思いましたんで”

「そんな世界来てるの僕……」


 生活の面倒みてくれて仕事くれて嫁さんまで世話してくれるエルフさんたちありがとうございます。いやほんっとうに、ありがとうございます。感謝しかありません。ベストな選択ありがとうございますナノテスさん……。



「今度さあサープラストっていう人間の街に行くんです」

”はあ”

「どんな街?」

”そうですね。言ってみればお約束がなんでもある街です”

「わかりにく!」

 その説明でいいんですかナノテスさん……。


”まあ楽しみにしててください。私はいつも見てますから”

「かえって不安になりました」

”では頑張ってください――! 通信終了!”


 うわあ……一方的だな……。




 翌日。


 さあっ。荷物も積み込んだし、必要そうなものはマジックバッグに収納済だし、出発準備完了!

 僕は上下迷彩のハンター服に皮のチョッキ。

 サランもおそろいで用意した。マジックバッグから買ったよ。

 アメリカンサイズがよくわからなかったのでまずTシャツ買って着てもらって確かめた。あのサランがLLサイズでピッタリですが、ウエストがだぶだぶです。

 ……アメリカンサイズ恐るべし。

 サランが自分で縫い直したり紐を結んだりして直してましたね。


 みんな見送りに来てくれてる。


「頼んだぞ!」

 村長ががしっと握手してくる。

「何をですか! ちょっと情報収集に行くだけだって言ってるでしょ!」

「それでもだ!」

 もうなんだかなあ。


「必ずや、我らエルフのためになると信じておるぞ」

「それは、間違いなく、期待してもらっていいですが」

「頼む。貴殿は我らエルフが得た、初めての人間の友であり、家族なのだ」


 ……じーん……。


「サランも頼む。シンを守ってやってくれ」

「まかせて」

「では、そろそろ出発させてもらいます」

「無事に戻ってくるのだぞ!」


 そうして、僕たちは漕ぎ出した。

 うん、広い湖ですからね。

 漕いでも漕いでも、みんなが見えますね。

 間が持たないです……。




 カヌーの旅。順調です。

 川に入ってからは、流れに任せてゆるゆると。

 川幅は15~20mといったところですかね。

 漕がなくても自然に運んでくれます。たまに川岸に寄りすぎないように方向をサランがちょっと向きを変えるぐらいですね。濁流も急流もありません。

 商人さんが船で行き来するぐらいですから。


 コンパスで方向を見ると全体としては南方向ですな。

 GPSに相当する物は持ってないんですよね。衛星飛んでないし地図も無いから持っていても無意味ですが。

 でも、クリップボードに貼り付けた紙にだいたいの地形書き込みながら、流されてゆきます。あとで地図にできたらいいな。



「そのうち川岸にエルフ村が見えると思うんだー」

「そうですか」

「商人さんの話だと半日って言ってたけど、川イルカじゃないから、一日ぐらいかかるかも」

「じゃあ、どこかで野宿かな」

「うん、そうだねー」


 森……渓谷……森……。

 高低差少ないなー。流れはどこまで行ってもおだやかで。

 いい気分ですね。


「新婚旅行だね」

「なにそれ?」

「僕のいたところじゃね、結婚したら、二人で旅行に行くの」

「へえー」

「ハネムーンって言うんだよ」

「そうなんだ。なんで旅行なの?」

「結婚したばっかりって、まわりがうるさいだろ? だから誰にも邪魔されないように二人っきりでいられますようにって、それで」

「あははは! いいなーそれ。私たちあれから毎晩覗かれっぱなしだもんねー!」


 いやっずーっと覗かれてんの今でも!?

 カーテンもかけたしいろいろ対策したはずですけどね僕は!

 ってあんなことやあんなことも全部見られてんの僕ら!?

 僕すんごい、いやらしーこといっぱいしちゃったんですけどお!?


 元々は誰にも邪魔されずに子供を作りましょうって期間だったかな。

 ハネムーンベビーなんて言葉があるぐらいだし。

 でも、僕とサランの間には子供ができないんだっけ。そんなことはサランも百も承知だよね。それでも僕と結婚してくれたって、嬉しいよね。


 暗くなる前に、大きな中州を見つけて、そこでキャンプすることになりました。

 中州なら、野生動物とかある程度避けられますしね。

 流木を集めて焚き木して、簡単な夕食を取って水浴びして、


 今晩は、誰にも見られてないからって、サランがいつもより積極的です。

 野生動物がいっぱい僕らを見てるかもしれないよ。

 人間も交尾するんだとか、初めて見たとか言いながら、覗いてるかも?


 僕たちだって動物です。自然の中でおおらかに、今は君たちとおんなじだよ……。


 明日にはエルフ村。トコルです。


次回「大事件が起きてます」

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― 新着の感想 ―
[一言] アメリカのアウトドアショップなら護身用のピストルや釣具も入手可能ですね!インフレータブルカヌーも、コンパウンドボウもブッシュナイフのマチェットもケプラーのジャケットカーゴパンツもキャンプ用品…
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