跋
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「・・・君。水野君。水野君てば!」
ゆさゆさと誰かが俺の体を揺する。
どうやら俺は、すっかり眠り込んでいたらしい。
うっすら目を開け、寝ぼけた頭を持ち上げる。
すると、目の前には俺の担任であり日本史担当教師であり今回の補習講師でもある成田先生がいた。
今日は先日の岐阜城レポートを提出する日だ。
ここだけの話だが、あんな事やこんな事があって、いざ目が覚めてみたら教室だったので当然レポートなんて物は書いていない。書く暇もなかった。
俺は本当にあった事を書く訳にもいかず、色々それらしい事のレポートの内容を考えるが一向に捗らない。
それを見兼ねた成田先生は、どうやってもコワモテならない顔を一生懸命しかめて、つかつかと俺に近づいてきた。
そして、耳元で囁く――
「・・・本物の斉藤道三には会えた?」
な?
思わず身を引き、先生の顔をじっと見る。なんで先生が?
「ふふ・・・」
普段とは違った意味で不思議な笑顔を浮かべる。
もともとふわふわ系女子な成田先生だが、その一言で全ての印象が変わった。
「うん。合格っ。今回の補習はこれでおしまいでーす」
色々リアクションに困っている俺を気にする様子もなく、いつも通りのマイペースで話し終えた成田先生は、ひらひらと手を振って教室を後にした。
・・・帰ろう。どっと疲れた。
俺はそそくさと帰り支度をすると、教室を出る。もうすぐ、陽が暮れそうだ。
下駄箱に続く、夕暮れの階段を降りていると下の階から女子生徒が上ってきた。
特に興味がないので、何の意識もせず、すれ違う。が・・・
「・・・あの」
顔を伏せたまま、声を掛けられた。次いで、一本の脇差を鞘ごと渡される。
あ・・・この脇差どこかで見覚えが。
脇差を見つめながらそう思った時、女子生徒が俺の首に両腕を回し、頬を寄せた。
俺はもう気付いていた。
「また、これからもよろしくね」
真新しい制服に身を包んだ彼女が、俺に抱きついたまま言う。
「おう」
俺は帰蝶の懐刀を握りしめ、大きく頷いた――




