理想の先輩[フルート4]
今日は遂に一週間後となった吹奏楽コンクールのリハーサルである。
吹奏楽コンクールとは夏に行われる吹奏楽部にとっての一大イベント。いくつかの部門があり、全国に繋がる部門もあるが、私たちの学校では県大会で終わりのB部門にしか出場しないので、3年生にとってはこれが運動部にとっての引退試合である。
つまり椎菜先輩と出れる大会はこれが最後。
リハーサルには多くのOB、OGの方がいらっしゃり、講評をいただける。それを元に一週間、最後まで仕上げていくのだ。
「夢架、梨依、OGの弥生先輩に認めてもらえるよう立派な演奏しましょうね」
久しぶりに椎菜先輩の笑顔を見た気がする。しかしそれは二人に、というより私に、という感じがした。やはりまだ梨依とは仲違いしたままなのか…。コンクールまでには仲直りしてほしいな…と梨依の方を見たが、不機嫌そうな顔で小さくはい、と返事をしただけだった。
「椎菜ー!梨依ー!夢架ー!」
聞き覚えのある可愛い声がする。
「弥生先輩!」
リハーサル後、同級生との久々の再会を楽しんでいる先輩方が多い中、弥生先輩は私たち後輩の元へ一目散に走ってきてくださった。
「みんなこの一年ですごいうまくなったね!やっぱり椎菜の指導のおかげかな?」
「そんなことないですよ。先輩がわたしたちに基礎をしっかり教えてくださったおかげです」
「やだなー照れる」
顔を真っ赤にして手で隠す先輩。本当に弥生先輩は可愛い。
「あ!夢架ちょっと」
いきなり話を振られて少しびっくりした。
「はい?」
「大変だと思うけどさ、あの二人のこと、面倒見てやってね」
「え…?」
あの二人って椎菜先輩と梨依のこと?
「ケンカしてるでしょ。何が理由かはわからないけど、うまく仲裁してあげな、ずっとあんなだったらもっとやりづらいでしょ?」
ニコッと首をかしげ、先輩は「じゃあコンクール頑張ってー!」と手を振って行ってしまった。
ちょっと話しただけでパート内に何が起こってるかわかっちゃうなんて…。
「さすがです、先輩」
私は誰にも聞こえないような声で呟いた。