ライバル[クラリネット5]
「未弥!!」
「奈津…?」
私は未弥から一時も目を逸らさなかった。
もう逃げないって決めたから。
「…い…でよ」
「え…?」
「…泣かないでよ」
最初の言葉にそれを持ってくるって、後で考えると意味不明だと思った。
でも思いは止まらない。
「コンクールに出たんだよ?それだけでも凄いのにソロまで吹かせてもらって。
それで泣くのって、私と麗ちゃんに失礼だよ?
あと、麗ちゃんさ、この前休憩時間にソロを息抜きに吹いてたんだ。そしたら私よりうまく吹いてて。多分1年後、今の私達と同じくらいになったときには未弥も抜かしてると思う。
泣いてる暇なんて無いんじゃないの?
後悔してないで次の曲に向けて“反省”するべきじゃないの?
…私気付いたの。大切なのは未弥に勝ちたいって思いじゃなくて、
音楽を楽しむことなんだよ」
……。
長い沈黙。
やっぱりいろいろな意味で私って馬鹿なんだな。
何言いたいのか分からないし、何より…。
「未弥先輩、そうですよ、奈津先輩の言う通り。私達に失礼です!」
気まずい空気を破ったのはなんと麗ちゃん。
麗ちゃんは可愛い笑顔を見せながら言う。
「私が来年、今年の先輩を抜かすっていうのは違うと思いますけど、でも私はそのくらいの気持ちで頑張っていますよ。
先輩も抜かされないように頑張ってくださいよ?
もちろん2人で」
「麗ちゃん…」
未弥は涙を拭って力強い声で言い放った。
「そうだよね。私ちょっと浮かれてたよ。
芽依先輩、紗也佳先輩、麗ちゃん、奈津、私さ、次の曲こそ成功させますから。
見ててください」
芽依先輩と紗也佳先輩が目を見合わせて頷く。
「じゃあクラリネットパート、これからもファイトぉっ!」
「おおぉっ!」
その笑顔は在り来たりな表現かもしれないけれど、私が見た中で一番光り輝いていた。
end
「ライバル」はこれで終わりです。
終わり方工夫がなくてごめんなさい!!
次の話もご覧下さい。