ライバル[クラリネット4]
コンクール当日。
出場しない私達も応援に行かなければならない。
「エントリーナンバー43番、市立菊本中学校吹奏楽部」
いよいよである。
出場者は皆指揮者を見ている。
全員の呼吸が合っているような変な感覚。
しかし、これはうまくいく予兆。大丈夫だ。
指揮者が棒を振る。
同時に全員が息を吸う。
「ジャジャーン…」
入りはぴったし決まった。
「最初が決まればあとは流れですらすらと吹けるから」と芽依先輩が言っていたので、しばらくは安定した演奏が出来ると思う。
ここで私は初めて肩の力を抜いた。
…今まで散々出場者を恨んでいたのに。
いや、恨んでいたのではなく、自分が出来ないのが情けなかっただけなのかもしれない。
とにかく、今初めて必死で応援した気がする。
そういえば未弥はソロを吹くそうだ。
3年生に「私達がいなくなったら2年生がこういうのもやらなきゃいけなくなるんだから」と言われていた。
難しいと言って一日中そこだけ練習していたこともあった。
だが成功率はあまり高くない。5回に1回は失敗する日もあった。逆に何回やっても成功する日もあった。
果たして今日はどっちに当たるのだろうか。
…と考えているうちにサックスのメロディーの部分に来てしまった。
ソロは次だ。
指揮者は未弥の方を見る。
未弥も指揮に集中する。
そして息を吸う。
…コンクールが終わった。
結果は銀賞だった。
去年は金賞だったこともあり、1、2年生は皆泣いていた。
3年生は自分達も悔しいはずなのに一生懸命下級生を慰め、褒めていた。
未弥は…
号泣だった。
多分他の人と同じ程度の悲しみではない。
“自分のせい”という気持ちがどこかにあるのだと思う。
芽依先輩も紗也佳先輩も麗ちゃんも「そんなことない」と声をかけたが、そんなのそっち抜けで泣き続けていた。
何もしていないのは私1人。
未弥はこういうとき放っておいてあげるのが一番だから、と理由をつけていたが、本当の理由は違う。
「今しか無いんじゃない?」
そんな声が聴こえたような気がした。
私は声に身を任せるようにして走った。
目的地は未弥。