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理想の先輩[フルート5]

吹奏楽コンクール当日。


私達は吹ききった。

小さめから一音ずつクレッシェンド。

ここは短すぎないように。

メロディーはうたって。

金管が主役のここは目立ちすぎない。

フルートのおいしいところはもっともっと。

最後まで心を込めて。


顧問、指揮者、コンミス、セクションリーダー、パートリーダー、先輩、OB、OG、同級生、後輩…。

みんなでこの曲について意見を出し合い、完成させてきた。全力は出した。後は結果を待つだけ。



「えー、皆さん、それぞれ思うことはあると思いますが、今更後悔してもどうしようもありません。

2年生以下の皆さんはこの経験をこれからに繋げて欲しいと思います。

とにかく、楽しんでれたならもうそれで充分です」


結果発表前だというのに部長の言葉で泣きそうになる。

部員の顔はそれぞれ満足気な笑み、悔しさから思わず出た涙…いろいろだ。



「……中学校、銀賞」

パチパチパチ…。


結果発表はすでに始まっている。

私達の学校まではあと三校。


「……中学校、ゴールド金賞」


今はパートごとにまとまって座っている。椎菜先輩、梨依、夢架の順だ。


「……中学校、銀賞」


梨依が私の手を握ってくる。私も握り返す。


「……中学校、銅賞」


梨依は椎菜先輩の手も握った。椎菜先輩は今までのこともあるので驚いた表情をした。


「桧山中学校、」


先輩もその手を握り返した。


「……ゴールド金賞!」

「きゃあああ!」


部員全員喜び叫んだ。

金賞…。今までの努力が実ったんだ…。


「夢架!…梨依!」

椎菜先輩が抱きついてきた。私もそれを返す。


「やったね!…ありがとう」

「こちらこそありがとうございます!あと、ごめんなさい…」

「梨依…」


先輩は一気に話した。

「私、金賞取ることで頭がいっぱいで、後輩がどう思ってるかなんて考えてなかったの。結果に囚われて過程を見ていなかったのね。

昨日、今までのことを振り返ってそれに気付いたんだけど、絶対嫌われたって思った。でも二人はここまでついてきてくれた。

全然いい先輩じゃないけどここまで付いてきてくれてありがとう。ごめんなさい。これからこの吹奏楽部をよろしく!」


あまり感情を表に出さない椎菜先輩がこんなに泣いているのは初めて見た。先輩も先輩で多くのことを背負っていたんだ。


「先輩、私こそそんなこと知らずに反抗してしまってごめんなさい。こんなんで部活背負えるなんて思えませんが頑張ります。応援してください。

金賞まで導いてくださりありがとうございました!」


梨依が泣くのも初めてだ。


「椎菜先輩はとてもいい先輩だと思います。ここまで一人で戦ってきたから。私達もそんな風になれるよう、頑張ります。ありがとうございました!」

私はペコッと礼をする。梨依も続く。


「やめてよ、もっと泣いちゃうじゃん…」

先輩は飛びっきりの涙で言った。


理想と現実は違う、とよく言う。そうかもしれない。椎菜先輩はたまに怖かった。

でも、飛び切りの優しさを持っていた。理想の先輩である。

私が椎菜先輩や弥生先輩のようになれるかはわからない。

だか頑張りすぎずにありのままに見せていれば思いは伝わりやすいのかもしれない。


end

フルート編完結です。

次はトランペットの話の予定です。

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