Epilogue
ラスト!
禍餓夜が消失した後、透にはすべきことがたくさんあった。世界の修復と再生、バグの発生を防ぐための予防措置などである。
まずは狂った因果律を再構築し、世界を正常化した。ついでにリゼルを使って時間軸に干渉し、アカツキを完全に実体化させる。と言っても、戸籍上はもう死んでいるから、世界の因果律を管理する存在へと変化させなければならなかったが。
次に異界に避難させていた友人たちを連れ戻し、経過を説明した。納得してもらったところで、この事件に関する一切の記憶を封印させてもらった。桜森にいたわけは、狂い咲きした桜を仲間内で見ていた、ということになっている。何かきっかけがあれば思い出すこともあるだろうが、当座はこれでかまわないというわけだ。
因果律にかかわる事件は、これらのことを区切りとして万事に片がついたように思われる。
世界は元に戻り、しばらくは目の前の平穏を信じていいだろう。
そして透は、再び日常へと帰ったのだ。
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さまざまなごたごたを片付けている内に、季節は秋から冬へと変わっていた。
2月の半ば、学年末考査の頃になったある日、俺は友人たちを誘って桜森に行った。久しぶりに見た桜森の御神木は、見事なまでに狂い咲きをしていた。雪が舞う中に咲いている山桜は、幻想的な美しさでありながら、言葉を発するのさえ憚るような気配をまとっていた。
しばらくの間、俺たちは山桜に見とれていた。やがて誰かが御神木の裏で、俺たちと同じように山桜を見上げていることに気付く。
それは24、5の青年で、どこかで見たような容姿を持っていた。友人の1人が声をかける。
「お兄さん、何処かで会った?」
と、そこで初めて青年はこちらに気づいたようだ。訝るようにこちらを眺め、やがて俺と目が合った。
俺は記憶を手繰り、1人の存在に思い当たる。
禍餓夜である。
俺が訝しげな顔から理解の顔へ変化したとき、青年の口元を微笑が彩る。それは、記憶にある禍餓夜が、決して浮かべることがないであろう表情だが、不思議と違和感がなかった。
青年が柔らかな口調で告げる。
「いいえ、初対面でしょう。僕は今日、初めてこの町に来ましたから。不思議なことに、懐かしいと感じる顔ぶれですが。君たちは桜森高校の生徒さんですか?」
その質問に鷹空がうなずくと、青年は名を名乗った。
「加賀谷 千空と言います。来月から産休に入られる高崎先生の代理で、講師ではありますが、桜森高校に勤めることになりました。以後、よろしく」
その言葉に、俺たちは顔を見合わせると、鷹空を始めとして、友人たちは次々と自己紹介をしていく。最後の俺の番となったとき、加賀谷教諭は何かを思い出すかのような顔をする。
俺は名を名乗る代わりにニッと笑い、言った。
「よう、久しぶり」
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因果律の狂いは修正され、世界は崩壊を免れた。
総てが元通りというわけにはいかないが、概ね元通りであることだろう。
だが、それでも確実に変化は訪れていたのである。
自己満足極まりない作品でした。
あの頃の自分は若かったよね、いろんな意味で。
当時の部誌をご覧になったことがあるという方が居ましたら、そっと口を閉ざして下さいね。
中の人についてはいっさい触れないようにお願いします(
最後になりますが、お読み頂きありがとうございました。
ご意見・ご感想等ございましたら、是非お聞かせください。