Prologue
初投稿作品です。
昔々、一人の人間の男がいました。彼はきわめて有能な退魔師でした。名前を皇 暁と言って、聖人の一人でもありました。彼の本職は別にあり、民俗学者をしていました。しかし、退魔師としての才覚では並ぶ者がいないほどだったので、次第に本職と副職とが逆転するようになりました。
皇 暁は、生前から様々な噂がある人物でした。ただし、それらには好悪両方があり、悪意の大部分は聖職者が占めていました。というのも、彼の術には統一性がまるでなく、使う術は、ひとつの宗派にこだわらず、何でも取り込み、術に組み込んでいたからです。けれど、そこらの聖職者に比べると遥かに有能であり、信頼も仕事量も、聖職者を軽く凌駕していたのです。聖職者にしてみれば、これほど腹の立つ同業者―退魔師―は他にいなかったことでしょう。なぜなら、己が信じる神の奇跡を起こされ、けれど同門の徒というわけでは決してなかったのですから。
中でも聖職者にとって許しがたく、同時にとても強烈だったことは、聖人でありながら魔王を従えていたという事実でしょう。
本人の人柄としては、明朗闊達ではありますが、かなり大雑把。ただ、最低限の義務は果たす人でした。若干適当なところもありましたが、それらの欠点が些細なことに思える程度には有能だったのです。
そして。
一人の退魔師と一人の魔王は朋友でした。
暁が魔王を召喚し、契約を交わしたのは、彼が十一歳のときでした。以後、一つのバグが世界を崩壊寸前にまで陥れるまで、彼らは共に在ったのです。暁と魔王が袂を分つことになったのは、二人が出会ってより四十九年後、暁が還暦を迎えた年のことです。後に暁の後継者となるはずの、一人の孫が生まれた年でもありました。
バグの名前は、禍餓夜、といいました。
禍つ夜を運んでくるもの、の意です。
事件は、常人が気づかないところで決着がつきました。ただ、実際に何がどうなったのかは、誰も知りません。わかることは、とりあえず世界の崩壊は止まったということだけでした。真実がどうであれ、当時はそれで充分だったのです。
けれど、導き出された結末は、その場しのぎでしかありませんでした。事件の原因たる禍餓夜は封印され、暁は崩壊寸前の世界を立て直すために奔走しました。再び世界が元通りになった中、魔王と暁は縁を切りました。
禍餓夜の封印が一時しのぎに過ぎないことを、彼らは誰よりも理解していました。そして魔王がこの世界にいては、封印に影響を及ぼすことさえも理解していたのです。
彼らは禍餓夜の封印を守らなければなりませんでした。一分一秒でも長く、封印を守らなければならなかったのです。
生まれたばかりの暁の孫が成長するまで。
生まれたばかりの暁の孫が、後継者として立てる日まで。
暁の孫は、健やかに育ちました。
祖父である暁の持ちうる術の総てを受け継ぎ、けれど、必要になるまではと、暁によって一切の記憶を封じられて。
そして、十七となった現在。
彼はどこにでもいる、普通の高校生として生活をしていました。
自身が、後の夜における、伝説の退魔師となることなど、かけらも予想しないままで。
後に伝説となる退魔師の、これは覚醒の物語なのです。
高校時代の作品を発掘→投稿ですが、いかがでしたでしょうか。
正直、当時の自分のほうがいろいろ考えてたかもなーなんて。
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