第7話 キメラと天空の国
―――祠の奥には大きな魔法陣と天から降り注ぐ一本の光があった。
その光は星が見えない夜でも荒れ狂う吹雪の中でも降り注ぎ続ける。
その光の先には天空に浮かびし大陸があった―――
ユーナと名乗るこの少女に対しクナは話し続ける。
「ねぇねぇ、君どっから来たの?なんであんな所で倒れてたの?君のその耳と尻尾ってどうなってるの?なんで人間にそんなもの付いてるの?」
突然行われた質問に頭が混乱するユーナ。あうあうとしか口から出てこない。
「クナ。この娘困ってるよ。」
バッとユーナが振り返るとそこには寝ていたはずのシュナが居た。
「おはよう。」
「お・・・おはよう・・・ございます・・・。」
一言挨拶を交わすとシュナは自分とユーナの毛布を畳む。畳んだ毛布をクナの中に入れると同時にグウゥゥゥと、腹の虫が鳴った。
見ればユーナは顔を真っ赤にして俯いている。それを見てシュナは微笑みながら
「ご飯食べる?」
ユーナは首を縦に振って返事をした。
暖かなスープとパン。魔法で焼き上げたベーコンに野菜を少々と質素な料理だった。
「美味しい・・・///。」
「それはよかった。」
ユーナの感想に笑顔で返すシュナはそのまま自分のパンを食べ始める。
「ねぇ、私にもちょうだいよ。」
「君食べられないでしょ?」
パンを食べる戦車が居るならぜひとも見てみたい。
空になった食器を片づける。食後の紅茶を飲みながら、シュナは口を開いた。
「で、君はどうしてこんな所に居たの?」
その問いにユーナは膝の上で手を握りながら俯いた。
「こんな冬山に君が居たのは、何か訳があるとしか思えない。だから教えてほしい。どうして君が此処に居たのかを。」
ユーナは顔を上げてシュナを見る。シュナの眼はユーナの瞳をじっと見つめていた。
「(この人なら・・・大丈夫かな・・・?)」
そう思い彼女は話し始める。自分が此処に居た訳を―――
―――私は、あの国で生まれたの。空に浮かぶ大陸の国『ルミャーラ』。あの国は魔法使いも沢山いて凄い魔法とかがあって、すごく便利な国だったの。
だけど私は家が貧乏だから奴隷として売り飛ばされちゃって、どこかの部屋に閉じ込められちゃって。その後、魔法の実験だからって眠らされて目が覚めたら・・・・・――――
「こんな体にされていた・・・。」
シュナの言葉にユーナはコクリと頷く。
空に浮かぶ国。その国が実在していたことに驚きながらもシュナは、若干の同情を覚えていた。
「で、その国へ行くにはどうしたらいいの?」
此処で発言したのはクナ。彼にとってはユーナの身の上話などどうでもいいし、聞きたくても聞かなくてもどのみち自分には何も出来ない事が分かっていたからである。
「“光の道”を通って行くの。」
「「光の道??」」
同時に聞き返すシュナとクナ。ユーナはその光の道について詳しく説明する。
「光の道っていうのは、魔法で作ったルミャーラと地上を繋ぐ唯一の道なの。」
「その光の道っていうのは何所にあるの?」
そう聞くとユーナは洞窟の奥を指差した。
「この洞窟の奥。そこに光の道があるの。」
「「え??」」
振り向いて洞窟の奥を見る二人。だが洞窟は薄暗く中はよく見えない。
「ほんとだ。奥で何か光ってる。」
センサーで洞窟の中を見ていたクナがそんな事を言う。それを聞いたシュナは洞窟の奥へと向かって歩こうとするが、服を引っ張られて邪魔される。
見ればそこには、服の端を持って上目使いで見つめるユーナの姿があった。
「な、なに?」
一瞬見とれたのを誤魔化すように聞くとユーナは
「行かないで・・・。」
と言った。
「あの国は・・・怖いの・・・。」
そう言ってギュッと手に力を込める。
「それに見つかったら・・・私・・・。」
彼女にしてみれば、あの国は忌わしい場所であり、その言葉から察するに見つかるとまずいのだろう。かといってここに置いておく訳にも行かない。
シュナは、どうするか悩んだ。悩みに悩んだ末に一つの結論を出す。
光の正体は天から降り注ぐ一本の光だった。その光に触れると体が砂の様になり、次の瞬間、そこは洞窟の中では無くなっていた。
「は?」
暖かな風と共に一面緑色の景色が広がる。先程までの状態とは打って変わった様子だった。
「なにこれ?」
クナも思わずつぶやく。それ程までに目の前の光景は衝撃的だった。
下を見ると大きな魔法陣が描かれていた。奇妙な形の魔法陣はどうやら転移魔法の一種らしい。光に気を取られて気づかなかったが、おそらく洞窟の方にも同じものがあったのだろう。
転移魔法とは文字通り場所を移動できる魔法である。だが、転送先にも同じ魔方陣を書く必要があるのとかなり高度な術式なので、使える人間は中々居ない。
とりあえず二人は魔法陣から伸びる道を歩くことに決めた。
しばらく歩き続けると、目の前に大きな街が見えて来た。
「あれが、ルミャーラ・・・。」
「随分とまた大きな街だこと・・・。」
そう言って二人は街の中へと入って行く。ガヤガヤと賑わう街自体は地上のそれとなんら変わりない。しいて言えば服装が全員青を基調とした導士服になっていることぐらいである。
その中で言えばシュナの服装は目立つ。クナは論外である。
「おい、姉ちゃん。」
キョロキョロあたりを見回していたシュナに一人の男が近づきながら声を掛けてきた。大体20くらいだろうか?相手を威圧するに喋る男にシュナが若干警戒していると
「姉ちゃん、この国のもんじゃねぇだろ?」
「そうですが?」
「ちょっと聞きてぇ事が有んだよ。」
そう言って男は、懐から取り出したナイフをちらつかせて言う。
「金髪に猫の耳と尻尾を付けたガキを知らねぇか?隠すと為になんねぇぞぉ〜?」
そう言ってシュナにナイフを突き立てながら脅してきた。それをシュナは
―――ドカッ!!
という音を立てて男の顎を殴った。誰かの悲鳴と群衆のどよめきが聞こえる中で、殴られた男は一度驚いた顔をするとシュナを睨みつけて
「てめぇ!!痛い目見たいようだな!?」
そう言ってナイフの刃を撫でる。撫でられたナイフは、なるで最初からそうだったように大きな剣へと変わっていた。男は片手でそれを振りかざすとシュナ目掛けて振り下ろす。それを後ろに飛んで避けるシュナ。
「逃げんなッ!!」
横薙ぎに払われた一閃を、シュナは防御用の魔法陣を張って止めた。だが、男はそのまま体当たりを繰り出してシュナを転ばせる。
「――――ガッ!?」
転んだシュナの腹を踏みつけながら男は、剣を振り下ろそうとした。
シュナはとっさに目をつぶった。次の瞬間襲ってくるのは強烈なる痛み。
だが、代わりに聞こえて来たのは相棒の戦車のクナの声。
「ちょっとごめんなさいよっと。」
次の瞬間、鈍く何かを殴るような音と地面に何かが落ちる音が聞こえてきた。
シュナが目を開けて見ればそこには地面に倒れ伏す男の姿が。
「何したの?」
「砲身ぶん回して当てただけ。」
平然と答えるクナ。呻きながら胸を押さえる男の傍には先ほど剣に姿を変えていたナイフが転がっていた。