第5話 嘘吐き爺さん
久しぶりです。そして新章です。
ある国に一台の戦車がやって来た。キューポラには一人の少年が体を乗り出していた。
二人は門番に入国を申請すると意外とあっさり入れた。
「結構審査がザルなんだね。」
そんな事をぼやきながら国の中へ入る。そこは珍しく綺麗で人々が平和に暮らしているこのご時世では珍しい国だった。
そんな国の中を一台の戦車が進んでいく。戦車はある喫茶店の前で止まるとキューポラから体を乗り出していた少年が降りた。
少年は喫茶店の中に入るとレジでジュースとクッキーを注文した。そしてそれを乗せたトレーを持って外にある椅子に座ると傍の机にトレーを置いてジュースを飲み始める。少年は戦車と楽しそうに喋りながらジュースやクッキーを頬張っていた。
そこへ一人の老人がやって来た。白髪で杖を突きながら歩いてくるその老人は少年と戦車へ近ずくと
「隣、いいかね?」
と聞いてきた。シュナはどうぞと言って老人はありがとうと返事をする。
「君達は旅人かな?」
「そうだよ。私達は旅人さ。」
そう答えたのは少年では無く戦車だった。
「やはり旅人か!あ、失敬、儂も昔は旅をしていたものでね。つい興奮してしまった。」
そう言って恥ずかしそうに頭を掻く老人。
「名前は?」
「シュナと言います。」
「クナだよ。」
少年と戦車は――――シュナとクナはそう答えた。
その答えに老人は満足そうに答えると傍を通った店員に注文をした。
「よかったら旅の話でも聞かせてもらえないか?お礼はこの店自慢のクレープでどうだろうか?」
笑顔でそう言った老人に対しシュナの答えはYESだった。
「―――――――――――と言うのが今まで僕達が旅してきた話です。」
シュナが話終えると老人は楽しそうにうんうんうなずいている。老人は上品な香りが漂う紅茶を一口飲むと
「ふむ、こんな面白い話をしてもらってクレープだけとは申し訳ないな。どれ、儂からも一つ面白い話をしてあげよう。」
大体こういう場合の話は長いと相場が決まっているのだ。だが老人の話は思ったよりも面白い物だった。
「――――――――――――どうだ。面白いだろう?」
「それ本当なんですか?にわかに信じがたいんですけど・・・。」
「信じるか信じないかは君次第さ。だが面白い話ではあったろう?」
「まったくもってその通りだね。それで本を出せるんじゃないの?」
「ははは、クナ君は面白い事を言うね。まぁ儂は本を出そうなんて考えてはいないがね。」
そう言って紅茶を飲む老人。空になったカップをトレーに乗せるとそのトレーは勝手に浮かび上がりそのままカウンターの方へと飛んで行った。
「いやー久々に面白い話を聞かせてもらった。ありがとう。それじゃあ儂はこの辺でお暇させてもらうよ。」
そう言って立ち上がる老人にシュナは
「所であなたの名前はなんですか?」
その問いに老人はにっこりとほほ笑むと
「儂か?儂の名は・・・アイッシュとでも呼んでくれ。」
「アイッシュさん。面白いお話ありがとうございました。」
「ああ、それではな。お若いの。」
そう言うと老人―――アイッシュはそのままどこかへと行ってしまった。
後に残ったのは紅茶のお代わりを頼んでいるシュナと、ぐるぐる砲塔を回転させて暇をつぶしているクナだけだった。
「あのお爺さんと話したんですか?」
そう言ったのはシュナに紅茶のお代わりを持って来たウェイターだった。
「ええ、面白い話を聞かせてもらいましたよ。」
「あれですか。この国の人は皆知っているんですよ。毎日毎日あの話をしているんです。」
「へぇ〜。」
そう言って紅茶を飲むシュナにウェイターは話を続ける。
「あの人はいつもあんな嘘話ばっかりするからこの国の国民全員で嘘吐き爺さんと呼んでいるんですよ。どこか憎めないんですよねぇあの爺さん。」
「分かりますよ。たとえ嘘だとしても面白い話でした。」
「そうですよね。もう一杯飲みますか?」
「いえ、遠慮しておきます。」
そう断わるとシュナはごちそう様と言って喫茶店を出た。無論クナもその後に続く。
「どこ行くの?」
「ん?いや、どうせだからぜひ行ってみようと思って。」
「まさかシュナ。さっきの話信じているの?」
「信じてみてもいいと僕は思ってる。」
「さいで。」
シュナは途中の雑貨屋で必要な物を買ってクナに積みこむとそのまま砲塔の上に乗り門を目指した。
「やぁ、門番のおじさん。」
「あれ?旅人さんもう出るんですか?」
門番――眼鏡を掛けシガレット(*煙草の事、海を泳がないものだけを挿す。)を咥えた男は読んでいた本を置いて立ち上がった。
「もっとゆっくりしていっても大丈夫ですよ?」
「いえ、面白い話を聞いたので。」
「ああ、アイッシュさんの話ですか。」
「おじさんも聞いた事あるの?」
「ええ、私が32歳の時です。ふらっとこの国に現れて以来あの話を聞かされてますよ。」
男はシガレットを上下に揺らしながら話し続ける。
「もう20年になるかな。おかげでほとんど暗記できたようなものです。」
笑いながら答える男。シュナはそんな男を見ながら
「それじゃあ僕達は行きますので。」
「よかったらまた来てください。」
そう言って手を振る門番に見送られ二人は国を出発した。
――――――――――――――嘘吐き爺さんの物語の舞台に。