第3話 東の国 後編
お待たせしました!!
朝――――太陽が昇り国が光に包まれる時。一人の魔法使いが目を覚ました。
彼はベットから起きるとすぐに服を着替える。部屋にある荷物を纏めフロントに鍵を返すとそのままホテルから出て行く。
そしてホテルの横に停まっていたクナを叩きながら
「おはよう、クナ。」
「おはようシュナ。」
クナの車体荷物を括り付けるとそのまま砲塔の上に乗る。
「今日はどうするの?」
「まだ見ていない所を見てからここを出ようと思う。」
「あれ?もうこの国を出ちゃうの?」
「別に此処に居てもどうしようもないしね。」
「さいで。」
そう言うとクナは無限軌道を動かしホテルから離れる。
聞きなれない音にまだ寝ていたのだろう周りの住人が数人窓を開けてこちらを見てくる。
そんなのはお構いなしにクナは街の中を走って行く。
しばらくすると昨日来た城の反対側に来ていた。
「こっちもあまり変わらないね。」
「まぁそんなものだろうね。」
城一つ越えて風景が変わることなどほとんどない。まぁ稀にそう言う所があるだろうが・・・。
彼らが居る場所も様々な住居が建っており通りには―――こんな朝早くにどこに行くのだろうか?――意外と人が居た。その中には家から飛び出し慌てて箒に乗って飛んでいく男や欠伸をしながら歩く女性などが居た。
「朝から結構な人通りだね。」
「朝から仕事なんだよ、・・・たぶん。」
そう言ってシュナは振り返ると大きな城を見上げる。
「はいって見たいなぁ〜・・・・・・。」
「入る?」
シュナのその一言にクナは砲身を城壁に向けて言った。
「ちょ、やめてね!?絶対碌な事にならないから!!」
「えぇ〜。ここでスッキリしたいんだけどなぁ〜。」
「ストップ!!撃っちゃダメ!!」
必死で止めるシュナを見ながら「冗談だよ。」と言って砲身を城壁から外そうとして・・・。
「・・・・・・せめて塔だけでも撃っちゃ駄目ですか?」
「駄目。」
きっぱりと拒否られた。
そんな二人の所へ一人の少女が歩いてきた。昨日のホテルに居たメイド少女とは違い綺麗な服を着ている少し大人びた少女だった。
その少女は二人の元へ近づいて来る。
「あなたがシュナですね?」
「・・・え?あ、はいそうですけど。」
若干声が裏返ってしまったが相手の少女は構わず続ける。
「王様が呼んでおられます。ぜひ二人を我が城に招き入れたいと。」
「「王様?」」
二人そろって聞き返す、少女は頷き
「どうぞこちらへ。」
と、言って踵を返して歩いていく。
その後ろ姿を見ながら二人は
「どうする?付いていく?」
「別にいいんじゃない?何があるのか分からないけど・・・。」
そう言って疑いながらも少女に着いていく事にした。シュナは一度クナから降りて歩きで付いていった。一抹の不安と何時何度何が起きてもいいようにするためだ。
大体偉い人から声が掛かるときと言うのはあまり碌なことがないというのは旅をして嫌と言うほど思い知っている。
大人びた少女の後を駆動音を響かせながら一両の戦車と一人の人間が付いていく。
少し歩くと一つの門の前に来た。その門は昨日馬車が通った所だった。
少女はその門に居た番兵に一枚の紙を見せると番兵達が礼をして門を開けた。
そして少女は一度こちらを振り向くと、
「着いて来てください。」
そう一言だけ言って自分はさっさと中へ入って行く。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
とりあえず二人は黙って後に続く事にする。城壁のすぐ後ろは堀でかなり深いようだ。門の所からは一本の橋が中央の城へつながっている。そして堀の中には
・・・・・・何かサメの背びれみたいな物が見える。
「・・・・・・サメ?」
「いいえ、違います。」
何時の間にか近くに居た少女。シュナがその事に驚いているとその様子をセンサーで見ていたクナが質問する。
「じゃああれは何?」
「あれはビーシャーク。この城に侵入しようとする者はあれの餌食になります。」
やっぱサメじゃん。
「でもさ、侵入者が堀の中に落ちなかったらどうするの?サメが空を飛ぶとは思えないんだけど・・・?」
「ご心配なく。ビーシャークはただの魚ではありませんので。」
そう言って少女が指を挿す先には4本の足と背中から生えた何かゴツゴツした羽。サメとワニと鳥を組み合わせたような外観をした奴が堀にある一つの岩場にいた。大きさは大体2m位。
「・・・・・・・・・。」
「私は好きじゃあないなぁ・・・。」
純粋に引くシュナと正直な感想を漏らすクナ。
二人が引くほどに不気味であり一番気持ち悪い生物トップ3に入ると言われても納得しそうな感じだ。
「ですので、この堀には落ちないように気を付けてください。
・・・・・・・・・・・落ちたら最後助けられませんので。」
最後の一言が若干の恐怖を引き立たせるがその言葉を放った本人は表情を崩す事無く城へ向かって歩いていく。二人は出来るだけ真ん中へ寄りながら後を付いていった。
「どうぞ中へ。」
そう言って少女が礼をすると城の番兵が扉を開ける。
クナは門のサイズがギリギリ通れる事を確認すると慎重に入って行った。
中は美しい調度品や綺麗なシャンデリアと華やかこの上なかった。
中央に大きな階段がありその上には一人の男が立っていた。
「ようこそ我が城へ!!」
華やかで整った服と腰に一本のサーベルを挿した金髪の男はそう言うとゆっくりと階段を下りて・・・・・・・・・・・来ず、その場から一気に跳躍しシュナの前に降り立った。
「すごい・・・身体強化系の魔法だ・・・。」
「お見事。」
その男――王は胸に手を添えると二人へ向けて軽く礼をする。
二人が随分と若い姿に若干驚いていると王が
「貴女が昨日この国に来た旅人ですね?」
「ええ、そうですけど・・・。」
「そして此方が貴女の使い魔ですね?」
「まぁそうだね。」
一応クナは使い魔という扱いになっているらしい。
「で、僕等に何の用ですか?」
「それはとても簡単な事です。この使い魔を私に譲って頂きたい。」
いきなりの発言にシュナは驚きクナは・・・・・・戦車には表情何て言うものは無い為何を考えているか不明だがとりあえず無言だった。
「えっと・・・それはどうしてです?」
とりあえず理由を尋ねるシュナに王は両手を広げて
「もちろん好きだからですよ!!僕は魔獣とかが大好きなんです!!それが珍しいものであればあるほど手に入れたくなります!!貴女の使い魔は本当に珍しい。ぜひとも僕に譲ってください!!!」
そう言って詰め寄ってくる王に対しシュナは「あ・・・ええと・・・・その・・・。」
としどろもどろな返事しか返せない。王はさらには条件を付けて交渉してくる。
「もちろんただでとは言いません。こちらに用意したお金全部持って行ってかまいません。他にも用意できるものはすべて用意させていただきます。」
そこにはしばらく遊んで暮らせるのではないかという量のお金があった。
本当にこの王はクナの事が気に入ったようで意地でも手に入れようと食いついてくる。
だが契約主(もちろん嘘だが・・・)であるシュナの意思が無いと悪魔の主従権が王に移ることはない。乗っ取る事も出来るがこれはリスクが高い(そんな事をしてもクナは悪魔じゃないので無駄だが)ので普通はしない。
とそれまで黙っていたクナが
「それよりもどうして私達の事を?」
「それは簡単さ!そこの娘は遠くのものを見たり聞いたりできる魔法を使えるからね!おかげで君達の事はよく知っているよ!!」
ようは盗撮ですね。分かります。
「それじゃあこの城で国レベルの魔法の研究をしているっていうのは?」
「ああ、あれはデマです。本当はこの城の中で飼っている魔獣達を盗まれないようにするためです。」
だからあそこまで厳重な警備と魔法をかけているのだと王は宣言する。
その間ずっと考える素振りをしていたシュナは、まっすぐに王を見据えて
「すみませんがお断りさせて頂きます。」
と言った。これに対し王は酷く驚いたような顔をして慌てた。
「そんな!?どうしてですか!?こんなにいい条件を出しているのに!?」
「僕はクナと旅をしたいんです。だからお譲りできません。」
きっぱりとシュナは断わりそして「用事がこれだけならば僕達は帰らせて頂きます。」と言ってさっさと出て行こうとする。そして扉に手をかけて開けようとするが
「あれ・・・?開かない?」
何度押して引いても開かない。よくよく見てみると扉には魔法陣が描かれている。
「残念だ・・・。実に残念だ!!素直に譲ってくれれば大人しく返したものを!!」
振り向くとそこには剣を引き抜いて構える王の姿があった。
それを見た瞬間王子はシュナへ剣を振るう。
悪魔の契約と言うのは基本契約者が死んだらその契約は解除される。無論そうでない場合もあるのだが大抵は前者だ。
故に契約者を殺してしまえば契約は無くなりそこで自分と契約すれば何の問題も無く悪魔を自分のものにすることができる。
勿論クナとシュナはそんな契約はしていないしまず悪魔ですらない。だからシュナを殺しても無駄なのだが王はそこまでは知らなかったようだ。
「ッ!!」
慌てて防御陣を張って防ぐ。
だが王はそれを切り裂いて一度後ろに下がる。
「どうだ!?今なら許してやらぬことも無いぞ!!」
先程までの丁寧な様な口調とは打って変わって相手を見下すような口調になる王。
だがシュナは
「お断りしますッ!!彼は僕の友達ですから!!」
そう宣言して魔法陣を作りそこから一本の剣を取り出す。
「はッ!!その程度で力で私を倒そうなど!!」
王は一気に近づくと横薙ぎに剣を振るう。シュナは刀を盾にして防ぐが相手は身体強化系の魔法を使っておりそれも生半可なものではない。
あっさりと飛ばされたシュナは壁に体を打ち付けその際に体から嫌な音が聞こえてきた。
「いっつ・・・。」
「どうした?諦めて譲る事にしたのか?まぁ別に殺すがな!!」
王はそこから直線に“飛んで”サーベルを一気に突き立てる。それを辛うじて躱したシュナは片手で王子の腹を力一杯殴る。
だが・・・。
「痛くもかゆくもないぞ?」
そう言って口元をにやりとさせる王は足でシュナを蹴り飛ばす。
「ガッ!?―――――ハッ!!?」
少しの間空中を漂い一瞬上下感覚が狂ったかと思うと背中に痛みが走る。彼の握っていた剣はクルクルと空を舞ったのち床に落ちた。
単純に蹴っただけなのだが魔法で強化している体から繰り出される蹴りは少年一人を軽々と蹴り飛ばす。
そして王は痛みに耐えながら起き上がろうとしているシュナの横に立ち腹を踏みつける。
「うがッ!?」
「最初に譲っておけばよかったと後悔しているか?しているだろう。だが残念だったな。僕は別にあの使い魔が手に入ればよかったんだ。貴様の生死など問題ではない。」
それは最初に譲ろうが譲らなかろうがどうでもよいという事だった。
王は最初からシュナを殺してクナを自分のものにしようとしていたのである。
「お前程度の魔法使いが僕に勝てる訳ないだろう?貴様はここで死ぬのだ。死ぬのが怖いか?怖いだろう?そうだ。今なら僕の奴隷になると誓えば許してやるぞ?」
そう言いつつ鼻先にサーベルを突き立てる王。それをクナと先程の少女は黙ってみていた。
「ぼ・・・僕は・・・」
腹を圧迫され苦しみながらも必死に喋ろうとするシュナ。
王はきっと自分に許しを請うだろう、その屈辱にまみれた声を聞くのも悪くないと思い
足の力を弱める。
そして若干楽になったシュナは少し息を整えると
「僕はもう奴隷何ていやだ!!!!」
そう言った。
「ならば死ねッツ!!」
そう言うと王はサーベルを突き挿そうとするが間一髪それを躱し髪の毛を数本散らしながらも右手で王の足を掴む。
「なにを―――――――――――――――ッ!!!?」
王がもう一度サーベルで突き刺そうとするがその瞬間自身の体に起きている異常に気付く。
「なッ!?―――――――――ああああああああアッツ!?」
それは自分の足から来ていた。正確にはシュナが掴んでいる部分から焼けるような痛みが走ってきた。
慌てて足を振り払い見ると一部が黒く変質していた。
「いくら身体を強化していると言っても炎で体を焼くのは効くでしょう。」
そう言うシュナの右手には何かの記号の様なものが描いてありそれは炎を出す陣の一つだった。
それを王に向け力を込める、そうすれば右手からは炎が出て王の体を炭素の塊にするだろう。―――仮に体が万全だったら王は炎を軽く躱していただろう。だが今は足は焦げて使い物にならなくなっている。―――
だがそれをよしとしないものが居た。
「させません。」
それは先程自分達を案内した少女の声だった。その娘の手には一本のナイフ。
そのナイフをシュナの頭に突きつける。少しでも動けばその瞬間シュナの頭にはナイフが刺さる事だろう。
「ははは、いいぞ!!殺ってしまえ!!」
足が焦げ動けなくなった若い王はそう喚く。
そして少女がシュナの頭を串刺しにしようとした時―――
――――――――とてつもない轟音が城の中へ響いた。
無論この状況下でそんな事が出来るのはこの場に一人しかいない。
「逃げるよ。」
そう言うと轟音を響かせた本人は軽く言い放つ。
だが、すぐそばでそんな轟音を出されて無事で済む訳がない。
倒れていたシュナはヨロヨロとクナの傍へ近寄ると頭を押さえながら
「僕を殺す気ッ!!?」
「死んでないでしょ?」
悲鳴のような抗議は一言で受け流された。
そしてヨロヨロとした動きでクナの車体をよじ登り車内に入ろうとする。
「ま、待てッ!!」
起き上がった王がそう言うと同時にクナは二発目を発射した。
先程同様の轟音と共に扉が吹き飛ぶ。
それに驚いた番兵が何事かと中へ入ろうとすると、そこから一台の戦車が飛び出してきた。
バックで飛び出してきたクナは城壁の門まで来るとそこで橋へ向けて一発撃ち込んだ。
橋はあっけなく崩れていく。
「ついでに・・・。」
そう言って砲身の狙いを塔に向け主砲を発射する。
ドカーンと音を立てて爆発し崩れていく塔。すると其処からは何やら黒い物体が飛び立って行く。センサーで見てみるとそれは動物だった。魔法生物から何からありとあらゆるものが塔から出てくる。
「城の中に大量の熱源はあれか・・・。」
そう言うとクナを捕らえようと数人の番兵が向かってくるが
「悪いけど相手にしていられないから。」
そう言ってクナはその場から逃げ出した。
「あ・・・ああ・・・僕の・・・僕のペット達が・・・。」
吹き飛ばされた門で一人の男がそう言いながら嘆いていた。
「王様!!大丈夫ですか!?」
それに気付いた兵士が駆けつけると王はその襟首を持って
「何をしているんだ!!早くあいつ等を連れ戻せ!!」
そう言いながら塔から逃げ出す魔獣達を指差す王。だがその後ろには逃げ出してきたのだろう一体の大きな牙を持った虎の様な獣がいた。
「うわっ!?」
それに驚いてその場から離れる兵士。
「おいッお前!!何をしている!さっさと城に戻れ!!命令だぞ!!」
もはや魔法の効果は切れ錯乱して腕をブンブン振り回しながら喚き散らす王。
そして虎は王を情けも容赦も遠慮もなく“食べた”。
「ひ、ヒィィィイィィ!?」
兵士が腰を抜かして逃げようとする。だが、足を滑らせそこから堀の中へと落ちて行っしまった。バシャバシャと溺れる兵士へ三つのヒレが迫ってきた。そして兵士が水の中に沈み少し水面が泡立つ。
少しすると水の色が赤くなっていた。
大勢の人が国の外へ逃げ出し兵士達が暴れ出す魔獣を抑えようとしているそばを一台の戦車が通りすぎる。
戦車は国の城壁を主砲で破るとそこから一気にこの国を出る。
破れた城壁からは我先にと人々が国の外へ飛び出す。
それをセンサーで見ながらクナはそのまま国を後にし走り続けた。
しばらくしてようやくクナは止まった。
そして砲塔を動かしながら
「シュナ、起きなよシュナ。」
「う・・・うあ?」
そう言うと砲塔の中からシュナが出てきた。
「・・・・・・どうなったの?」
実はシュナはクナの車内に入った後衝撃で頭を打ち付けて気絶していた。その衝撃はクナが塔を撃った時のものだ。
「城の中にいた魔獣達が暴れ出して国が大騒ぎの所で逃げて来たんだ。たぶん皆国から逃げるか魔獣を殺すかしていると思う。」
そう告げられたシュナは何所か申し訳なさそうな・・・何やら後悔した表情をしていた。
「まぁ気に病むことでもないよ。人が魔獣を殺せばまた国は再生できるしそうでなくても大勢の人が国から逃げて行った。それに自分が生きている事を喜ぶべきだと私は思うよ。」
慰めているんだかよく分からない事を言うクナ。
シュナは呆れたような顔をするがクナはお構い無しに砲塔を上下に動かしながら一つ質問をした。
「所でさ、どうしてあの時私の事を王に譲らなかったの?譲れば君は結構いい暮らしが出来た筈だけど?」
クナがそう言うとシュナは別にちょっと頬を染めながら
「だって・・・初めての友達を簡単に渡す訳ないだろ?//」
「・・・・・・・・・・。」
それを聞いたクナは
「・・・いい事言ってくれるじゃん!!」
そう言って砲塔を思いっきり回転させた。
「わッ!?ちょ、クナ!!ストップストップ!!」
だが止まらない。
「あはははは!!シュナ!!君ってやっぱ・・・あれ?」
クナが気づいて回転を止めるとシュナはぐったりとしてのびていた。
「ちょ、大丈夫?」
「大丈夫な訳ないでしょ・・・。」
三半規管がイカれて若干の吐き気が起こる。
無論ダメージも残っておりその事が余計に具合を悪くさせる。
「しばらく休むかい?」
「そう・・・・・・しよう。」
そう言うとシュナは砲塔の中から這い出て風に当たりながら横になる。
しばらく二人はそうして居た。
だからシュナは女の子って言われちょやめて!?もう言わないから燃やさないで!!