第2話 東の国 前編
お待たせしました。
日々日頃から地道に書いてきた第2話ついに投稿でございます。
「あれが村の人が言っていた国?」
「みたいだね。沢山人がいる。」
崖の上に一人の少年と一台(または一両)の戦車が居た。少年の名はシュナ、戦車の名はクナ。二人が見つめる先には石造りの高い城壁と大きな門。その門の周りには鎧を着込んだ屈強な兵士が居た。そしてそこには長い行列。人や馬車やらが並びその城壁の中に入って行っている。
「どうする行って見る?それともやめとく?」
「・・・行って見よう。」
「どして?」
「さっきの村では全然休めなかったから。」
「さいで。」
そう言うとシュナはクナの車内に入り二人は国を目指した。
で、国のすぐ前の森の中で二人はもめていた。
「いいじゃん。私も連れて行ってよ。」
「だめ、あなたが来るといろいろ面倒なことになるじゃん。」
「シュナの使い魔っていえば大丈夫だって。」
「こんな悪魔見たことないよ。」
まぁ確かに悪魔と言うか生物に見えないが・・・。
「悪魔が鎧をかぶっているっていう事にすればいいじゃない。」
「いやもうそれ鎧ってレベルじゃないから。」
「いいのいいの。早く行こう。」
「わかったよ・・・。」
そう言うとシュナはしぶしぶながらもクナの同行を許可した。
んで、二人が城門に近づくとそこには馬車やら人やらの行列がいまだに続いていた。
二人はその最後尾に並び列が進むのを待つ。
しばらくすると列の一番前まで来てそこであの屈強な兵士達に囲まれる。
「おい、お前。この国に何をしに来た?」
「旅の途中です。よければ国に入りたいのですが・・・。」
そう言うと兵士達は一度シュナを見ると、その後ろに居るクナに視線を向ける。
「此奴はなんだ?」
「使い魔です。」
「使い魔ぁ〜?こんな奴が?」
「悪かったねこんな奴で。」
「「「「うおッ!?」」」」
いきなり砲塔を旋回させ砲門の先を先程発言した兵士に向ける。
使い魔にもいろいろあり、明らかに生き物じゃないだろう系の使い魔も居る。それらの中にも人語を喋るやつもいるのだが初めて見る形の使い魔とそれが動く度にウィーンと言う謎の音が聞こえるものだから周りの兵士はおろか後ろに並んでいた人々も驚く。
「こんな使い魔なんていたのか?」
「そんな事よりも僕等は国に入ってもいいんですか?」
「あ・・・・ああ・・。行ってよしッ!!」
そう言われ前に居た兵士達が退き道が開けられる。そこから門をくぐり国の中に入るとそこは・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「これはまた・・・・・・。」
そこには立派なレンガ造りの家があったと思えば古臭い木で出来た家もあった。
さらに通行人を見てみるとある人はとても偉そうなまたは高級そうな服を着てまたある人はボロボロになった服を着ていた。
「随分と貧富の差があるんだな。これは奴隷商が儲かる訳だ。」
実際貧富の差の少ない所にはあまり奴隷などは売れないがこう言った所では金のある人間は奴隷を買い、金のない人間は奴隷になるという事態がよくあるのだ。
たとえば借金を払えない人が居たらその人に金を貸した人間は借金をたてに当人――またはその家族など――を奴隷として奴隷商人に売り払う。そうして売られた人間は金持ちに買われ死ぬまで奴隷として生き続ける。その間に中継ぎ役として売る奴隷商人はかなり儲けたりする。それがこの世界の『常識』でありまたそれを当たり前として生きている人間が居る。
そんな『常識』の模範の様なこの国の国民を黙って見ているシュナ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
そんなシュナをセンサーで見ているクナ。
「シュナ。君が何を考えているのかは知らないけどあまり騒ぎを起こさないようにね。同情で自分が死んだらそれこそ元も子もないからね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かってる。」
そう言うとシュナは俯いたまま歩き出す。
もちろん行く先は安いホテル。
そんな彼を黙って後ろからついていくクナ。いや、正確にはキュラキュラと駆動音を出しているが・・・。
ほどなくしてホテルは見つかった。石造りの建物で扉にホテルと書かれていた。
シュナはそのホテルの中に入って行きフロントで泊まれる部屋は無いかと聞き、丁寧な受け答えの後507と書かれた部屋の鍵を渡された。鍵には魔法が掛かっており鍵が盗まれたり複製されたりしないようにするためだ。
ちなみにクナはホテルには入れないので外に置いてある。
クナの車内に積んであった着替えや簡単な荷物などをまとめたカバンを一つ持ち渡された鍵の番号の部屋へと向かう。
部屋に着くとそこはまぁまぁいい部屋だった。飾りっ気のない部屋ではあったが野宿よりは断然マシ。要は値段道理の部屋だった。
久しく使っていなかったベッドの上に寝転がりその感覚に浸るシュナ。
するとほどなくして部屋のドアがノックされ外から一人の少女が入ってくる。
「こんにちは、ルームサービスです。」
その少女は黒いメイド服を身にまとっていた。背はシュナより若干低いくらい。そして首には奴隷の証である首輪。
それを見た途端シュナの顔が若干苦くなる。
そんなシュナの元へその少女は何の気なしに近づき一枚の紙を渡す。
「これは呼び出し札です。何か御用の時はこれを破ってください。すぐに係りの者がやってきます。」
そう丁寧に呼び出し札の説明をするメイド少女。その後にお茶は要るか?などと聞かれとりあえず丁重に断って置く。その後この国について教えてほしいと尋ねた。
すると
「申し訳ありません。私・・・奴隷ですからこういう事は分からないんです。バーのマスターさんであればよくご存じだと思います。」
「マスターさん?」
「この店の地下にあるバーを経営しています。あの方ならばいろいろと知っていますので。他に御用は?」
「いや、ないよ。」
「それでは失礼いたします。御用の際は遠慮なく御申し付け下さい。」
そう言って彼女は綺麗に御辞儀をして部屋を出て行った。
シュナはもう一度布団の上に倒れて上から掛布団を被る。しばらくそのままだったがやがてムクリと起き上がると何を思ったかそのまま部屋を出た。もちろん鍵は掛けてある。
廊下を渡り階段を下りて結果行き着いた先はさっきのメイド少女に教えてもらったバーだった。
扉を開けるとそこもやはり質素な所だった。中にはちらほらと客が居て奥のカウンターに一人のバーテンダーが居た。
「いらっしゃいませ。何をお出ししましょうか?」
「えっと・・・ジュースか何かありますか?」
「かしこまりました。」
そう言って後ろの棚の中から一本の瓶を取り出す。その中には紫色の液体が入っていた。
それを丁寧にグラスに注いでいきそれをシュナに渡した。
「どうぞ、ブドウのジュースでございます。」
「ありがとう。」
そう言ってジュースを一口飲んでいく。味は悪くなく程よい甘さが口の中に広がる。
「美味しい・・・。」
「ありがとうございます。」
素直な感想を漏らし、グラスに残っていた一杯を飲み干す。
そして空になったグラスを置くとバーテンダーの方を向いて
「貴方がマスターさんですか?」
「はい。私がこのバーのマスターです。」
バーテンダーはいや、そうマスターはグラスを拭きながら答えた。
「あなたの事をメイド服の女の子から聞きました。この国の事をよく知っていると。」
マスターは黙ってグラスを拭きながらその言葉を聞いていた。そして一度グラスを置いて
「何が知りたいですか?私の知っている範囲であれば答える事ができます。」
「ではこの国の基本的な事を教えてください。」
「基本的な事ですか・・・。まぁ気を付けないといけない事はこの国では『人攫い』が普通に起きるという所ですかね。」
「『人攫い』ですか・・・。」
もう一杯如何ですか?と聞かれグラスを差し出す。そしてグラスに一杯に注がれたジュースを飲みながら話の続きを聞く。
「この国じゃあ奴隷商人がかなり儲けていましてね・・・。いつ何時誘拐されて奴隷として売られても可笑しくは無いんです。特に貴女の様な可愛い女の子は。」
それを聞いたシュナはムッとして
「僕は男です。」
と告げる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「男です。」
「あ・・・えっと・・・失礼しました!」
慌てて謝罪するマスター。っていうか間違えない方が可笑しい。何せ女みたいな顔立ちに銀髪のショートと灼眼であり、体系的にも女性と言えるし声も女の子っぽい。だが本当に彼は男であり胸はペッタンだしちゃんとあれも有るし(具体的には言わないが・・・。)。ちなみに本人はこの事を結構気にしてる。
と、若干機嫌が悪いシュナを宥める様にマスターはもう一杯別のジュースを挿し出す。今度のジュースの色はオレンジで甘い様な酸っぱい様な香りがしている。
差し出されたそれをシュナは無言で受け取るとそのまま飲む。
すると機嫌が直ったのか、顔の表情が戻る。
「それで、人攫いに合わないようにするにはどうすれば?」
「大体金持ちは狙われません。狙われるのは身寄りのない貧乏な人間です。人攫いに会いそうになったら手近な兵士に助けてもらえればいいのですが、大半はそのまま見過ごされる事が多いです。貧乏人を助けても彼らに得はないですから。あとは中央にある城の中には入らない事ですかね。」
「城?」
「この国には大魔法使いの王が居てその王によって統制されていますがあの城では国レベルで魔法の研究がされているんです。だから迂闊に踏み込むと秘密を知ったとして捕まってしまいます。」
「なるほど・・・。」
そう言ってシュナは少し考え込んだ。どうやってその城に忍び込んでみるかを。
だが、マスターの一言が彼を止めた。
「捕まったら最後生きてこの国は出れません。魔術の研究の材料にされると言われていますから。貴方も幾らか腕に自信が有るようですが侵入したらこの国の兵士全員を敵に回す事になりますよ。」
さすがのシュナでもこの国の兵士全員を相手にしてはいられないので残念ながら城への侵入は諦める事にした。
ジュースの代金を払って店を出るとフロントに鍵を預けホテルの外へ向かった。ホテル脇の道を一本丸々塞いでいる戦車。クナへ近づくとそのまま車体へとよじ登った。
「なんかいい事あった?」
「この国で注意する事とすっごく危険な所を教えてもらった。あと美味しいジュースが飲めた。」
「へぇ〜。」
「あなたは?」
「暇だから近づいて来た子供を脅かして遊んでたよ。」
「・・・・・・・・・・はぁ。」
クナの答えにシュナは溜め息を吐く。そして、
「とりあえず出掛けるから行こうか。」
そして今彼らは今国の中にある高い城壁とその奥にある大きな城がある所まで来ていた。もちろん中には入らず外から眺めているだけだが。
「で、どうするの?」
「いや、興味はあるけど碌な事になりそうにないから別にいいや。」
「さいですか。」
そう言ってしばらく城を眺めていると
「ちょっとそこのあんた等!!邪魔だから退いてくれ!!」
突如後ろから怒鳴られた。振り返るとそこには一台の馬車が止まっていた。
その馬車の御者が
「そこに入られると道が通れないじゃないか!!さっさと退け!!」
と怒鳴っていた。
「今退きますよ〜。」
そう言ってクナはゆっくりと道を進む。途中砲塔の上に乗っていたシュナが店の看板らしきものに頭をぶつけたがそれは別にどうでもよい。
少し進むと大きな広場に出た。そこは様々な出店が開いていたり大道芸人が魔法を使い色鮮やかな光のアートを見せていたり可愛いペットを(注・魔獣とは違う)売っていたりと様々な人がそこに居た。
先ほどの馬車はシュナ達の横をさっさと通り過ぎてい城の門へと行くとそこの番兵に何かの紙を見せる。すると門が開けられ馬車はその中へ入っていく。
「なんだろ?あれ。」
「誰か偉い人でも乗っているんじゃないかな?」
「そんな所だろうね。」
そんな二人の前を一人の箒に乗った魔法使いが飛んでいく。
「ねぇシュナ。」
「ん、何?」
「どうして君は旅をするとき箒で移動しないんだい?」
「ああ、旅をするのに箒なんか持っていたらはっきりって邪魔だし、魔法を使って飛ぶのって結構疲れるんだ。それに旅の荷物が持てない。」
「さいですか・・・。」
「その点あなたは優秀だよ。大量の荷物を積んでも大丈夫だしどんなに道が悪くても突き進んでくれる。」
「まぁ・・・それが戦車ですから。」
そして二人はこの国の色々な所を見て回り日が暮れる頃にホテルへと戻ってきた。
フロントから鍵を受け取り部屋の中へ戻る。特にやることもないのでぶらぶらしていると扉がノックされ、
「夕食をお持ちいたしました、召し上がりますか?」
「あ・・・ああ。お願いします。」
「失礼します。」
そう言って入って来たのはあのメイド少女だった。彼女の手にはトレーがありその上には食事があった。鼻をくすぐるような美味しそうな匂いが漂ってくる。
「片付けの際は呼び出し札にてお呼びください。」
そう言って少女は部屋を出て行く。
テーブルの上には暖かい食事。それを彼はあっという間に食べ終えた。
呼び出し札で呼び出すとすぐにあの少女が来て食器を片付けていった。
その後彼は持ってきた鞄の中から一冊の本を取り出し読んでいた。
タイトルは『魔法の人形』という本でそれをしばらく読んだ後鞄の中に戻しベッドで寝た。
窓からは月が輝いて見えた。
ちなみにクナはというと―――
「ワンワンッ!!」
「うるさい。」
犬に吠えられていた。
旅の終わりはまだ見えない。
前編があるからと言って後編があるとは限らない。