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魔法使いと戦車  作者: 犬上高一
第1章 彼らはこの世界を旅する
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第1話  二人の旅人

とある平野の中を一つの何かが通っていた。


深緑色をした車体に土が付き薄汚れたキャタピラ。その車体の上には砲身とそれを付けている砲塔を付けた戦車。そしてその乗車口からゴーグルと茶色いボロボロのコートを羽織った少年が上半身を出していた。


ほどなくして彼らは岩場を見つけるとそこで止まった。


少年は戦車から降りると車体に括り付けてあった一つの荷物を取り出す。

そこの中には水の入った容器と干し肉。そして一つの小さな鍋を取り出すと、平らな岩の上に置きその中に干し肉と水を少し入れる。

そして一度鍋を持ち上げると平らな岩場に開いた手を向ける。すると岩に魔法陣が浮かび上がりそこから火が上がる。少年はそこに鍋を当て蓋をする。しばらくするとそこには温かく柔らかくなった肉がそこにあった。


少年は箱から小さな袋を取り出す。そこにはパンが何枚か入っており箱にはそれと同じ袋がいくつもあった。


少年は袋から取り出したパンの上に先ほどの肉を置くとそれを食べ始めた。


「それって美味しいの?」


突然聞こえてくる声。周りには少年以外の人影はなく少年以外の声は聞こえないはずである。だが、少年はパンを頬張っており、とてもじゃないが声が出せる状態ではない。


にも関わらず聞こえたその声に少年は一度口の中のパンを飲み込むと、


「別にそこまで美味しくはないけど何も食べないよりはマシだから。」


「人間って不便だね。何か食べ物を食べないと生きていけないのだから。」


「でもそのおかげで美味しい料理が食べられるんだよ。」


そう言って少年はまたパンを食べることに集中する。


「せめて食べる時ぐらいゴーグル外しなよ・・・。」


「いいの。いちいち外すのめんどくさい。」


「それ絶対嘘だろ。」


「・・・・・・。」


少年はその言葉を無視してまたパンを口に頬張る。


「ところでこの先に一つ村みたいな所があるんだけど?」


「どれくらい先?」


「3キロ。」


「よし、行って見よう。」


そう言うと彼はそのパンをぱくりと食べ後片付けをしさっさと戦車の乗車口に乗ると少年を乗せた戦車は村を目指し進んで行った。









「あれ?」


「そう。」


その先には木で作られた塀で囲まれた小さな村があった。塀の中に一つだけ門があり外的などが侵入しないようにいつもは門が閉められている状態になっている。


「どんな所だろうね?」


「それじゃあ行こうか。」


「クナはダメ。」


「どうして?」


「あなたが行ったら前みたいなことになるから。」


「・・・・・・・・・。」


そう言われると『クナ』と呼ばれた声の主は黙ってしまう。


「それじゃ行ってくるよ。」


「気を付けて、シュナ。」


「うん。クナ。」


そう言うと少年――シュナ――は『九七』と白い字で書かれた戦車――クナ――の車体を軽く撫でると、そこから村に向かって歩き始めた。









村に近づくと、門の傍に二人ほどの男が立っていた。

おそらくは村の門を守る門番なのだろう。その二人はシュナを見つけた途端。


「とまれ!!」


「お前この村の者じゃないな!!」


「あ、僕は旅の者なんですが・・・しばらく休憩でこの村に入れてほしいんですけど・・・。」


シュナにそう言われ門番達は顔を見合わせる。そして片方が村の中へと走って行きもう片方の男はシュナにそのまま動かないようにと言った。とりあえずゴーグル外そう、目が痛い・・・。


しばらくするとこの村の長だろうか老人が出てきた。・・・周りに何人もの魔術師らしき男を連れて・・・。


「あなたがわが村に休憩したいという方ですか?」


「そうです。」


「なるほど。貴女は魔術師か何かですかな?」


「ええ、まぁ。」


と適当に質問を答えて行く。その老人は周りの男と何か話すと一同が頷く。


「分かりました。どうぞこちらへ村で歓迎いたしますぞ。」


「ありがとうございます。」


そう言って老人に案内されるままシュナは村へと入って行った。



――――その頃クナは


「・・・・・・。」


「・・・・・・。」


無言で魔獣と睨み合っていた。








「どうぞ、こちらになります。」


村の中は適当な木造作りの家に畑などがあった。その家の一つに壁がない屋根だけのものがあった。そこには大きな肉食動物の毛皮が広げて干してあった。それも一つだけではなく他にも幾つもの毛皮が干してあった。


「あれは?」


「ああ、あれはこの村の特産品であります。」


「特産品?」


「この村の周辺には魔獣と呼ばれる獣が居るのです。それを狩り毛皮を商人に売るのです。」


「商人?」


「遠くの国より魔獣の毛皮を求めて買い付けに来る商人が居るのです。その彼らにこの毛皮を売り生活しているのです。言わばこの毛皮はこの村唯一の特産品であり生命線でもあるのです。」


「その国はどこにありますか?」


「この村からはるか東にあります。商人は幾つもの山を越えこの地に来るのです。着きました、此処です。」


そう案内された場所は小さな簡素な家だった。


「申し訳ありませぬ。何分小さな村ですので宿などは無いのです。この家でどうぞ休憩なさってください。こんな簡素な家ですがわが村ではこれが精いっぱいですので・・・。」


「いえ、場所を提供してくださっているだけでもありがたいです。どうぞお気になさらないでください。」


「そう言っていただけるとありがたいです。何か用が有りましたら近くの者にお伝えください。」


そう言って老人と周りの男達は去っていく。

とりあえずシュナは、一度家の中に入り中を確認する。

そして彼は持っていた小さな袋。その中から一つの魔法石を取り出す。


それに手をかざしぶつぶつと呪文を唱えると、石が紫色の光を放ちだす。次の瞬間その光は家の隅々まで行き渡る。


「これで良し。」


そう言って家の中に結界を張るシュナ。これで何かあった時一先ずこの中に逃げ込めば大丈夫だ。


「さて、とりあえず少し寝よう・・・・・・今日は結構動いたし・・・。」


そう言うと元から家の中にあった毛布を羽織ると彼は小さな寝息を起てて寝てしまった。












シュナが寝てからしばらく経った後、素朴な家の周りに男達が集まってきた。彼らは手に魔法で鍛えた剣を持ちまた有る者は本を持ち、別の物は丈夫な縄を持っている。


「よし・・・行くぞ・・・。」


その中の一人が魔法陣を創り出すと家の扉をほんのちょっぴり開けて中に投げ込む。

だがその魔方陣は紫色のよく分からない記号の書かれた結界によって弾き飛ばされる。

そして男達がその光景に驚いているとその結界の向こうで一人の少年が起き上がった。


「これは一体どういう事ですか?」


「「「「「――――ッ!!!」」」」


自分たちの攻撃が弾き返されさらに『獲物』にこちらの行動を見られてしまった。

相手に気付かれるという事は仕留める絶好の機会を失ったことにある。


「何のためかは知りませんがその程度の攻撃ではこの結界は破れませんよ。」


そして相手が腕の立つ魔術師であるならば・・・


「これ以上やると言うのならこちらも容赦しませんが?」


逆にこちらが相手に狩られてしまう『獲物』になることを意味する。


「何も知らないのは嫌なので訳を聞かせてくれますか?」


未だに動揺している魔術師達へ向けてシュナはそう言った。彼らがそれぞれの顔を見合わせる中で一人の男が前に出てきた。それはあの時の老人だった。


「これはいったいどういう事ですか?」


「この村のもう一つの特産品です。」


「特産品?」


「さよう。」


老人は小さなため息を吐くとそのまま語りだした。


「この村は昔はるか東にある国に襲われ村人全員が奴隷として売られようとしていました。ですが我々はこの村の付近に生息している魔獣の毛皮と時折訪れる旅人を奴隷として差し出すことで村人全員が奴隷になることは免れたのです。」


「・・・・・・。」


「ですが我々はあの国に定期的に毛皮と奴隷を与えなければなりません。ですから我々のためにあなたには奴隷になってもらいます。」


そう言うと狼狽えていた魔術師達がそれぞれの武器を手に一歩二歩と近づいてくる。


それに対しシュナはそこから動こうとしない。


「その結界に入ったままじゃ身動きが取れねぇだろ。諦めて出てこい!!」


そう言って一人の魔術師が結界に近づく。その時



ッツドオオオオオオオオォォォォォォォォン!!!!



という轟音と共に村の端っこにあった数件の家が跡形もなく吹き飛ぶ。

魔術師達はその様子を見て口をポカンと開ける。


「その気になればこの村を消すことだって簡単にできるんです。できればそんなことはしたくないのですがそっちがその気なら・・・。」


そこまで言えば嫌でも理解する。何をどうすれば自分達の村がどうなるのかも。


「・・・・・・何が望みだ?」


「このまま無事に村から出してほしいです。」


「それだけか?」


「僕の安全を保障してくれればそれでいいです。」


そうシュナが言うと魔術師達は各々どよめき、意見を交わし合う事ほんのわずか。そしてその代表であろう老人から帰ってきた言葉は


「分かりました。村から出るまでの安全は保障いたしましょう。」


そう言うと老人を含めシュナを取り囲んでいた魔術師達は彼から距離を取り村の門までの道を開ける。


シュナは結界を解き門まで歩き出す。


魔術師達は彼を襲うような事はせずただ黙ってシュナを見つめていた。


そしてシュナが門の外に出ようとした時


「村から出るまでの安全は保障しましたが村の外の安全は保障しておりませんので。」


突如横から魔獣が襲って来た。シュナはそれをさっと躱すがその周りにはさらに十数体の魔獣が今にも襲いかかろうとしていた。

見ると老人の持っている本――魔導書だと思われるが――に魔法陣が浮かび上がっている。

おそらくは魔獣を召還し操っているのだろう。


「・・・この事を知られてしまったら我々はおしまいです。残念ですがあなたには生きて奴隷になるか死ぬかどちらかしかありません。」


村の真実が知られた以上生かして帰すわけにもいかない。そう言う意味がこの言葉には含まれていた。村が滅びようがどうされようがなりふり構っていられなくなってきたという事だ。


「貴女に選択の余地を与えましょう。奴隷になるか死ぬか。どちらか選んでください。」


そう言って魔獣たちは迫ってくる。仮に結界を張ろうとしても儀式の途中で邪魔されてしまいその隙につかまってしまうだろう。すなわち彼にはこの状況をどうすることも出来ない。


だが、彼にはまだ切り札があった。


「な、なんだあれは!?」


「・・・遅い。」


「いや、これ全速力だよ。」


深緑色の戦車ことクナはそのキャタピラで魔獣達を踏みつけながらシュナの隣まで突っ込んでくる。


「僕を殺す気!?」


「生きてるでしょ?」


シュナの正統なる講義を見事に躱すクナ。そしてその様子を先程と同じようにポカンとした様子で見る魔術師達。


「じゃ、さっさと行こうか。」


「はいよ。」


そう言ってクナに飛び乗るシュナと慌ててそれを止めようとする魔術師達。だが彼らが走り出すと同時にクナは後退し、シュナが乗車口から中へ飛びの込むのと同時に主砲を村へ叩き込んだ。


とてつもない轟音と共に人々が吹き飛ばされる。ただし着弾点は多少離れた所なので直撃した者はいないがその衝撃波だけでも、しかもこの至近距離ではかなりのダメージを喰らわせることになる。死人が出てもおかしくはない。だか彼らは幸いにも怪我はしたが死人は出ておらず衝撃波によって体の内臓やら感覚やらが一時的に麻痺しているに過ぎない。

そんな人達を放って置いて二人は村から逃げ出した。


「全然休めなかった・・・・・・。」


「まぁいいじゃない。あそこで死ぬか奴隷になるよりはいいと思うよ。」


「・・・・・・そうだね。」


「次はどうする?」


「この村から東の方に国があるって言ってた。そこへ行ってみようよ。」


「りょうかーい。」


そう言って二人は東へと走って行った。




この世界はとても危険だ。


いつ誰に殺されても文句の言えない世界。


奴隷として売られてしまうかもしれない世界。


人としての尊厳があまりにも簡単に踏みにじられる世界。


だがそれでも二人は旅をする。


旅の終わりはまだ見えない。




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