一寸帽子
むかし、むかし、ある服屋に一寸ばかりの小さな帽子がありました。
その帽子はたいそう立派な素材でできていまして、形や柄も素晴らしくお洒落でした。
ある時、お客さんが店主に尋ねました。
「やあ、おやっさん。この店の品はどれも素晴らしくお洒落だね。値段は安くないがお金を払ってかうだけの価値があるよ。ところで、気になることがあるんだが、あのちっぽけな帽子はなんだい」
店主は応えます。
「あれは『一寸帽子』でございます。その名の通り一寸ばかりの小さな帽子でございます」
お客さんは少し不満そうな顔をしています。
「確かに、一寸ほどしかないね。だがね、私が聞きたいのはそういうことじゃないんだよ。どうして一寸ほどしかない帽子を店に置いているのか聞いているんだ。しかも普通の大きさの帽子と値段がかわらないじゃないか」
店主は応えます。
「どうしてだと言われましても、この店は服屋ですので流行りのものを置いているとしか言えません」
お客さんは合点といった表情で店主に言います。
「ああ、そうか最近はこの可愛らしい帽子が流行っているのか。それじゃあ、その赤いやつを買うよ」
店主は応えます。
「ありがとうございます。せっかくですから、今被って見てはいかかがですか」
お客さんはひょいと小さな帽子を頭に乗せて、鏡を見て一言いいます。
「なるほど、なかなか洒落ているじゃないか。気に入ったよ。お勘定はここに置いておくよ」
店主は応えます。
「ありがとうございました。またお越しください」
右手をスッと挙げて店を後にするお客さんの後ろ姿は素晴らしく滑稽でした。
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