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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-02
62/228

Section3-5 最終ミーティング

 翌日。封印の儀式を行うための最終ミーティングに紘也も参加していた。

 八櫛亭の大広間には香雅里と夕亜を当然として、日下部家の幹部と思われる面々が揃っていた。厳つい老人から優しそうな若い女性まで老若男女はバラバラだ。紘也と共に同席しているウロとウェルシュも含めれば十名弱の人数が集まっていることになる。

 孝一と愛沙は敵にやられた葛木の術者を別室で看病している。ウロボロスのエリクサーが品切れだったのは痛いが、命に別状ないとわかると香雅里はすこぶる安堵していた。

 厳粛な雰囲気の中、話し合いは滞りなく行われていく。八櫛谷最奥の洞窟に正午三十分前までに集合することや、洞窟内にある儀式場の説明、地脈の力を最も得られる位置のことなど、ほとんど確認だけの会議とすら言えない話し合い。

 だから紘也は、時刻・場所などの最低限の情報以外は聞き流していた。


『大切な物を守るため、俺には力が必要。それだけだ』


 昨夜の宝剣強盗の言葉が脳裏を過る。果たして真実か否か、そればかりを考えていた。

 反撃の隙を作るための嘘だとすれば、まんまと嵌められたわけだが……。

 己の契約幻獣が傷つき倒れた時に見せた彼の動揺を思い出す。

 あれは、仲間のことを本当に大切に思っている顔だった。

 話を聞いて想像したほど非情な人間ではないと紘也は思う。あんな顔をする者は、大切ななにかのためならばどのような無茶だってするだろう。紘也だってそうだ。孝一や愛沙や香雅里、もちろんウロやウェルシュでも、命の危機が迫り救うために力が必要なのだとしたら……一度捨てた魔術を取り戻すことだって厭わない。

 今度会った時には、ちゃんと会話してもらわないと。

 彼の言った理由が真実だとして、もしも紘也たちが協力して解決できる問題なら喜んで力を貸そう。紘也は密かにそう決心した。

「秋幡紘也、聞いているの?」

 香雅里に呼ばれて紘也の思考は中断することとなった。

「えーと、なんだっけ?」

「あなたたちを儀式場へ同行できるよう許可を取るために参加させたのに、本人が上の空でどうするのよ」

「キミ、今朝からずぅぅうっとぼんやりしてるよね。どこか具合が悪いのなら休んでる?」

 夕亜にまで心配をかけてしまったようだ。紘也は気を取り直す。

「悪い。考え事してた」

「まあいいわ。あなたとウロボロスとウェルシュ・ドラゴンの同行は許可してもらったから。それよりも、宝剣強盗が儀式の最中を狙ってくるのは確実と思っていいのかしら?」

「ああ、奴も手傷を負っている。それまでは現れないはずだ」

「あたしが一発ぶん殴ったからね」

「ウェルシュも契約幻獣の方にダメージを与えました」

 紘也に寄り添う幻獣たちが自らの功績を鼓舞するように発言する。それにしてもいつまで経っても紘也は彼女たちに挟まれるポジションに慣れる気がしない。

「所詮相手は人間とカラス。このウロボロスさんにかかればチョチョイのクルクルポーンですよ。夕亜っちもかがりんも、豪華客船・ウロボロニック号に乗った気分でどんと任せなさい!」

「……ウェルシアノス号もあります」

 なぜ二隻とも沈没しそうな名前なのだろうか。

「ねえねえ、キミたちがいればヤマタノオロチにも勝っちゃったりするんじゃない?」

 唐突に夕亜がとんでもないことを言い出した。この場にいる誰もがざわざわと狼狽する。

「夕亜、あなた、なに考えてるつもり」

「だって考えてもみてよ、香雅里ちゃん。倒せるんなら再封印なんてしなくてもいいじゃない」

 人差し指を立ててニッコリ笑う夕亜に、香雅里は溜息をつく。

「どうなの、ウロボロス?」

 香雅里の言葉にはどこか夕亜以上の期待が込められていた。

「無敵のウロボロスさんが負けるわけありませんよ――と言いたいけど、ヤマタノオロチは強敵だよ。なにせ世界の幻獣TCGではフィールドにある自分の魔力全てが維持コストになる代わりに、8000/8000の最強の攻守と相手の『魔術カード』を跳ね返す能力がありますからね」

「リアルの話をしろっ!」

 紘也はウロの頭を引っ叩いた。

「あうぅ……。えっとですね、あたし、オロちんとはほとんど互角だったんだよね。だからオロちんより強いヤマタノオロチだと正直勝てるかわかんないかな」

「ウェルシュは会ったこともないのでわかりません」

 ヤマタノオロチもカテゴリー的には『ドラゴン』に属する神話級の超強力な幻獣だ。ウロボロスとほぼ互角だという『オロちん』がヤマタノオロチ族の中でどれくらい強いかはわからない。わからないが、ウロとウェルシュがいるからと言って楽に倒せるような相手ではないことは確かだろう。

 百パーセント勝てる見込みがないのであれば再度封印する方がいいに決まっている。特に今は幻獣界に送り返すこともできないのだ。封印が解かれれば、必ず昨日のツチグモと同じく人を襲い始めるだろう。

「私だって、できることならそうしたいって思っているわ。でもね、夕亜。たとえヤマタノオロチを滅することができたとしても、被害はきっと八櫛谷だけじゃ済まないわ。多くの人が傷つき、死ぬかもしれない」

 夕亜を諭す香雅里は、まるで彼女自身にも言い聞かせているようだった。

 ――まただ。なんなのだ? この二人は一体なにを恐れているのだ?

 二人から感じる漠然とした違和感。しかし明確でない以上、紘也は発言を控えるしかない。

「そう。やっぱり私がやらなきゃダメなんだね。――うん! 任せて。絶対に成功させるから! だからキミたちが頑張って私を守ってね!」

 ビシッと夕亜は元気よく紘也たちを指差した。儀式で行う封術は宗主である彼女が核となるらしい。封術の詳細などは聞かされていないし聞いて理解できるとも思えないが、とにかく儀式の失敗はヤマタノオロチ復活を意味する。

 そしてそうなった場合の被害は香雅里の言う通り尋常ではないはずだ。もしかすると彼女たちはこれを恐れているのかもしれない。それほど難しく、集中力の必要な封術だとしたら、宝剣強盗が乱入するだけでも乱れてしまうだろう。

「オゥ! 夕亜っちの頼みとあれば、ウロボロスさん頑張っちゃうよ!」

「……ウェルシュにお任せください」

 グッとサムズアップする契約幻獣たちを頼もしく感じながら、紘也は思う。

 ――宝剣強盗の動機が決して悪じゃないとしても、封印の儀式の邪魔だけは絶対にさせない。こっちにだって守るものはある。

 心に強く硬く、紘也はそう誓った。


 しかし数時間後、その誓いは呆気なく崩れ去る。


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