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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-01
34/228

Section4-8 戦いの痕

 紘也は空中で繰り広げられているウロの戦いを途中から見ていた。

「あいつ、まだあんな技を持ってたのか」

 敵を別空間に封じ込めて存在ごと消滅させるとか言っていたが、それが本当なら〝貪欲〟による魔力ドーピングと比肩するほど強力だ。〈竜鱗の鎧〉なんて普通の能力に思えてくる。

「紘也、無事か? 戦いはどうなった?」

 孝一たちが屋上へ出てくる。ウロボロスの個種結界の影響で今まで紘也しか中に入れなかったのだ。

「終わったようね」

 香雅里が曇り夜空を見上げて呟く。彼女は強化術式を解除した途端に力が抜けたらしく、今は愛沙の肩を借りてかろうじて立っている状態である。

「オゥ! 紘也くんたちも無事だったみたいだね」

 着陸し、翼と大剣を消し去ったウロボロスが駆け寄ってくる。

「ウロちゃん、ごめんね。わたしが捕まったせいで危ない目にあったよね」

 しゅんと項垂れる愛沙にウロはブンブンと手を振った。

「いえいえ、愛沙ちゃんのせいじゃあないですよ。悪いのは全部あの変態吸血鬼なんだから」

 自分に責任を感じている愛沙の暗雲を晴らすように、ウロは極めて明るく振舞う。

「それよりも愛沙ちゃん、怪我とかしてない? もし怪我してるんならこれで即回復!」

 ウロは例の無限空間から透明な液体の入った怪しげな小瓶を取り出した。

「たららったら~、ウロボロス印のエリクサー♪」

「そんなチートアイテムさらっと出してくるなよっ!」

 錬金術師に信仰的人気のあるウロボロスだから、たぶん本物だ。どんな傷も病もたちどころに治してしまう不老不死の万能薬。一つ売れば億万長者も夢じゃない。

「ありがとう、ウロちゃん。わたしなら大丈夫。ちょっと膝を擦り剥いたくらいだから」

「それならウロボロスさんも一安心です。なんか紘也くんから金の亡者的視線を感じるのでこれはかがりんにあげますね」

「チッ」

「そこ! あからさまに舌打ちしない!」

 紘也にツッコミを入れたウロはエリクサーの小瓶を香雅里に渡そうとするが、

「ありがたいけど、遠慮するわ。傷は深くないし、出血も止まってるから」

 香雅里は丁重に断った。幻獣からの情けを受けたくないのか、もしくはあのエリクサーに激しく怪しさを感じているのか。紘也の場合だとしたら後者だ。

 と、そこで初めてウロは孝一の存在に気づいたらしい。

「あや? なんで孝一くんがいるの?」

「ああ、実はお前らが飛び立った後かくかくしかじかで」

「なるほど、これこれこういうことなわけですな」

「いやわかってないだろ!? ホントに『かくかくしかじか』って言っているだけだぞ!?」

 単純に、孝一に大人しく家で待ってろなんて言っても聞くわけがなかったのだ。

「ごめん、鷺嶋さん、ちょっと」

 香雅里が愛沙から離れる。そして悲しげな表情で周囲を見回した。

「……葛木」

 紘也は思わず呟いた。屋上には彼女の仲間たちが無残な姿で転がっている。呻き声が聞こえるのでまだ生きている人もいるようだ。となれば、やることは一つだろう。

「俺たちも手当て、手伝うよ」

「ありがと、助かるわ」

 柔らかく微笑むと、彼女は黒装束の懐から携帯電話を取り出した。実家に救援を要請するのだろう。

「ほら、かがりん元気出して。敵はあたしが屠ったから笑顔だよ。ハッピースマイル♪」

「空気読めよアホ蛇が」

 ――ゴン!

「おふっ!? 紘也くんゲンコツはないんじゃないかな? あとドラゴンです」

「やっぱ目を突く方がいいのか」

「殴って! どんどんあたしを殴っちゃって! ほらバッチコーイ!」

 ――ゴン!

「ああん、この痛みの瞬間がエクスタシー……」

 なんかウロがMに目覚めてしまった。なんとも始末に負えない。

「てか、お前はそのエリクサーで救えるだけ救ってこいよ!」

「オゥ! その手がありやしたね!」

 不老不死にはならないらしいが、エリクサーは本物だった。


 その後、十分ほどで葛木家の救援が到着した。倒れた陰陽師の中には致命傷を受けて死にかけていた人もいたが、ウロボロスのエリクサーのおかげで九死に一生を得ることができた。

 紘也たちは葛木家の車――黒塗りの高級車だった――で家まで送ってもらった。

 帰宅してすぐ、ウロは天井裏に引き籠ったまま出てこなくなった。〝貪欲〟の魔力強化を二回も行ったのだから、流石に疲れたのだろう。紘也もベッドに倒れ込むなり睡魔が襲ってきたので、そのまま身を任せることにした。

 アンデットの帝王――ヴァンパイアと戦ったのだ。これ以上厄介な相手が襲ってくることはそうそうないだろうと思う。しばらくは平和な日常が続いてほしい、そう願いながら、紘也は意識を沈ませた。


 しかし、そんな紘也の願いを嘲笑うかのように、次なる厄介事は着実と近づいていた――。



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