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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-01
28/228

Section4-2 捕らわれの愛沙

 蒼谷市市街地の東端に一際目立つ建物がある。高さも然ることながら、思わず駆け回りたくなりそうな敷地面積が周囲に林立するビル群とは一線を画している。

 だがそこは、見るからに廃墟だった。

 元々は映画館を主軸とした超大型ショッピングセンターだったが、経営上の理由等で倒産し、もう何年も放置されているため酷く荒んでいる。

「ん……」

 だだっ広い屋上駐車場。いくつかあるペントハウスの一つに凭れる形で、愛沙は意識を取り戻した。

「……あ、あれ?」

 愛沙はぼーっとする頭のまま周囲を見回し、ここが学校ではないことを理解する。知らない場所ではない……と思う。どこか懐かしい感じがするからだ。

「お目覚めのようだね、お嬢さん」

 静謐な屋上にコツコツと靴音を響かせ、長身痩躯の美青年が歩み寄ってきた。

「あなたは――」

 誰? と訊ねようとした愛沙だが、そこで僅かに残留していた記憶が蘇ってきた。完全に意識を失ってしまう前に聞こえた、友人の声。

「ヴァンパイア、さん?」

「旦那様を気安く呼ぶなだぎゃ!」

「よぶなよぶな♪」

「……慮外者」

 ヴァンパイアの後ろに控えていた蝙蝠娘たちがギャーギャーと喚く。そんな彼女たちにヴァンパイアは穏やかな口調で下がるよう命じると、再び愛沙に向き直った。

「フフ、これは驚いたね。僕の魔術で眠らせたはずなのに、すぐには意識を失わなかったようだ。やはり君もただの人間じゃないのかな?」

「ど、どういうこと?」

 言われた意味を理解できず愛沙は眉根を寄せる。少しでもヴァンパイアから離れようと身を捩るが、後ろはペントハウスの壁。逃げ場はない。

「僕は君から、微かだけど神官に似た気を感じるんだよね」

 それは愛沙が神社の娘だからだろう。ただ、愛沙に霊感がないことも本当である。幽霊なんてこの間見た鬼火が初めてなのだ。

「まあ、それはいいや。ところで確認だけど、君は状況をわかっているのかな?」

 愛沙はもう一度周囲を見回し、ヴァンパイアを見、自分の体を見る。別段、痛いところはないし、拘束されてもいない。

 でも、なんとなくわかる。自分は捕まったのだ。

「君は人質だよ。ウロボロスとその契約者を釣るための餌だ。逃げようなんて考えは持たないように」

 彼は釘を刺しに来たのだろうが、愛沙は逃げることなど微塵も考えていなかった。逃げられるとは到底思えないからだ。

 それに、愛沙がなにもしなくても紘也たちは助けに来てくれると思う。いや、必ず来る。たとえそれがヴァンパイアの望むことであったとしても、愛沙が彼らの足枷になることを知っていても、必ず。

 だけど――

「ヒロくんとウロちゃんは、あなたなんかに負けません!」

 そう信じられるから、愛沙は逃げない。

「負けてもらわないと困るね。僕はどうしてもウロボロスの血がほしいんだ」

「? どうして、ウロちゃんのを?」

 紘也が狙われる理由は知っている。幻獣がこの世界で生き残るために必要な魔力を、彼は充分過ぎるほど持っているからだと聞いた。でも、どうしてウロボロスを?

「戦いにおいて伝説を一切残さないウロボロス。その強さを得るためだよ。そうすることで僕は純粋な力でドラゴン族をも越えることができる。かつて僕に最大の屈辱を与えてくれた『あいつ』だって踏み潰せる」

 その瞬間、愛沙はヴァンパイアから底知れぬ憎しみの念を感じ取った。それがなにか訊ねる前に、ヴァンパイアは踵を返した。

「まったく、この世界に飛ばしてくれた魔術師連盟には感謝しなくちゃいけないね。『人化』で弱体化したウロボロスなら僕にだってどうにでもできる」

 ぶつぶつと呟きながら、ヴァンパイアは屋上の端にまで歩いて行く。そして眼下の夜景を眺めながら、くくく、と忍び笑いを漏らす。

「迎え撃つ準備は整っている。あとは使いをやって彼女らを呼ぶだけだ。でも――」

 マントを翻し、ヴァンパイアは遠くのペントハウスの入口を見やった。

「その前に、ゴミ掃除をしなきゃいけないみたいだね」

 刹那、ペントハウスのガラス扉が砕け散り、黒装束の集団が雪崩込んできた。

 その中の先頭に立ち、集団を率いている少女が声高に命令する。


「吸血鬼及びその眷属を一匹残らず滅殺しなさい! もちろん、人質の安否は最優先よ!」



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