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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-06
215/228

Section0-1 プロローグ

 イギリス――ロンドン某所。

 薄暗い地下施設の奥にある大部屋で、幾本もの蝋燭が円形の幾何学模様を描くように並べられていた。不気味に揺らめく蝋燭の火が、円陣の中央で縛られている中年の男性を撫でるように照らす。

「やめろ……やめてくれ……」

 力なく懇願する男は、顔面を何度も殴られたかのように酷く腫らしていた。纏っているスーツも破れ千切れ、土と血で塗れている。

 彼の名前はアントン・オールポート。規模十数人の弱小魔術結社『銀湾(ぎんわん)(ささえ)』の首領を務めていた男だった。世界魔術師連盟に加入しており、ロンドンを魔術的・霊的に守護する結界の維持にも一役買っていた。

「なにが、目的だ? どうしてこんなことを……?」

 アントンは腫れた瞼を懸命に開いて周囲を見回す。彼を取り囲んで嘲笑っている者たちは、逆さ天秤のマークが刺繍された黒いローブの集団だった。

「目的? 目的ねぇ。そりゃあアレだ。テメエら連盟が勝手に築いちゃった魔術界の秩序ってやつを引っ繰り返してやりてえのよ」

 集団の中から一人、がっしりとした体格のドレッドヘアーの男がアントンに歩み寄ってきた。二十台前半だろうか。厳つい顔面に、薬でもヤっているのか焦点の合っていない目。鋭く研がれたコンバットナイフを右手で弄んでいる。

 ドレッドヘアーの男は中腰になると、左手でアントンの頭を鷲掴みにして持ち上げる。

「悲しいねぇ。ああ、悲しい。俺ちゃんたちは苦労して魔術(ちから)を手に入れたってのに、テメエらのせいで自由を束縛される。どんな力もそこにあんなら使ってなんぼだろ? 俺たちはセートーな権利を取り返したいだけなんだ」

「……そ、そのイカれた思想は……まるで……」

 思い当たる節のあるアントンが恐怖で顔を蒼褪める。()()はずいぶんと昔に残党含めて連盟が殲滅したはずだ。アントンも多少関わっていたからわかる。生き残りがいたとも思えない。

「てことでぇ、連盟の人間には消えてもらいまーす」

 ごとり、とドレッドヘアーの男が懐から大き目の瓶を取り出した。

「ひっ」

 床に置かれたそれに入っているものを見てアントンは更に蒼白する。やや黄色味の帯びた透明な液体に漬かった八個の球体――人間の眼球。

「そんなビビんなよ。こいつぁな、俺が今までぶっ殺した連中から抉り取ったコレクションだ。どうだ? いいだろ? テメエもすぐに仲間入りさせてやっからよ」

「い、嫌だ……やめろ……」

「おいおい、傷つくなぁ。他人様の趣味を見てドン引きするとか教育がなってねえんじゃねえの? 人それぞれだろ? 多様性を認めろよ」

 ナイフの先端がアントンの右目に向けられる。這ってでも逃げようとするが、別の男が蝋燭の陣から出さないように進路を塞いだ。

 赤い髪をセンターパートにした若い男だった。皮膚に爬虫類のような赤い鱗が点々と貼りついている。人間ではないことは一目で察した。

「いいぞ。逃がすなよ、ドレイク」

 アントンはドレッドヘアーの男に襟首を掴まれて引き戻される。

「私には、家族が……」

「だーかーらー、その家族の下に連れてってやるっつってんだろ? 嫁さんに幼い娘と息子が一匹ずつ。あとババアもいたな。俺ちゃんやっさしい!」

「……えっ?」

 一瞬、アントンは言葉の意味が理解できなかった。

 だが、家族の人数と眼球の数が一致していることで最悪の事態を想定、否、確信する。

 目の前が真っ白になった。

「あっれー? もしかして気づいてなかった? 薄情なパパでちゅね~」

 心神喪失したアントンにドレッドヘアーの男の声は届かない。あとは生々しい音と悲鳴が室内に轟くだけだった。

 作業を終えたドレッドヘアーの男――コンラッド・アスクウィスは、二つ増えたコレクションを満足そうに懐に仕舞って踵を返す。

 ドレイクと呼ばれた赤髪の男を従え、彼は集団に向かって大仰に両腕を広げた。

「さあ、テメエら! 弱小だが、ついにロンドンの魔術結社を一つぶっ潰した! もう後戻りはできねえ! する気もねえ! 忌々しい連盟をぶっ壊して、魔術師の世界に秩序なんていらねえってことを世間様に知らしめてやんぞ!」

 鬨の声が上がる。

 そんな集団を冷めた様子で見ている二人組がいることをコンラッドは視界の端に捉える。魔導具で完全武装した貫禄ある男と、髪から爪先まで真っ白な少女だった。

 異様な二人だったが、コンラッドはニヤリと笑みを浮かべただけで興味を熱狂する集団に戻す。それからナイフを握った拳を高々と振り上げ、高々と宣告する。


「新生G∴R団、ここに在りってなぁ!」


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