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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-05
208/228

Section-6-5 巨神樹のヤドリギ

 玉座の間。

 部屋全体が大きく揺れたと思った次の瞬間、床や壁を貫いて生えてきた無数の蔦が紘也たちを襲ってきた。

「なんだこれは!? ケットシー、お前なんかしやがったのか!?」

「みゃあはにゃにもしてにゃいにゃ!? さっきから言ってるにゃが、みゃあはよくわかんにゃいまま王様にさせられてたにゃ!? みゃあは無実にゃーッ!?」

 絡みつこうとしてくる蔦から逃げ惑うケットシー。あの様子からして本当になにもしていないのだろう。

「うわっ」

 紘也の片足に蔦が絡まった。それだけで体から魔力が抜けていく感覚に襲われる。これは絶対に長く触れていてはダメな奴だ。

 ウロが〈竜鱗の剣〉で紘也の足に絡まった蔦をたたっ切った。

「大丈夫ですか、紘也くん?」

「ああ、助かった。ちょっと魔力吸われたが、問題ない」

 すぐにウロが切り離してくれたから、紘也の有り余った魔力からすればほんの一滴程度で済んだ。捕まるとどうなるのかわかったことは僥倖だろう。

「紘也くん紘也くん、この蔦、グレムリンたちまで襲ってますよ!」

「魔力を持つ存在を狙っているみたいだな。誰かが操ってるのだとしたら制御できてないのか、わざとそうしているのか……そういえば、ここに来たとき大賢者っぽい爺さんがいたよな? どこ行った?」

「あー、ドルイドっぽかったですね」

「そうにゃ!? モルフェッサがいにゃいにゃ!? あのクソジジイみゃあを囮にして逃げやがったなコンチクショーメ!?」

「素が出てるぞ?」

「素も出るにゃ!?」

 ギャーギャー喚くケットシーだったが、その足下が盛大に爆発した。

「にゃぎゃあッ!?」

 悲鳴を上げてすっ飛ぶケットシー。すると、床に穿たれた大穴から人型をした大樹が生え伸びてきた。

「逃げてなぞおらんわ!」

 大樹から声が轟く。まるで髭のように葉を茂らせたその大樹に、全ての蔦が繋がっている。どうやら本体のようだ。

「その声……も、モルフェッサにゃのかにゃ?」

 壁際で引っ繰り返ったケットシーが問いかける。人型大樹はぐるりと幹を捻ると、肯定するように枝葉を揺らした。

「儂は〈巨神樹〉のヤドリギと一体化したのじゃ。今の儂は他者の魔力を喰らい無限に成長する。貴様らも糧になるがよい!」

 大樹から一斉に蔦が伸びる。だが、それらは途中の空間に呑み込まれるように消え去った。

「むぅ!?」

「〝無限〟と聞いちゃあ黙ってられないですね!」

 ウロが自分の手首に噛みついていた。〝循環〟と〝貪欲〟でチートなドーピングを行い、無限空間を開いてモルフェッサの蔦を吞み込んだようだ。

「逆にこのウロボロスさんが喰らってあげますよ!」

 かぽっと手首から口を放してニヤリと笑うウロ。それから一瞬でモルフェッサとの距離を詰めると、黄金の大剣を振るって木こりのようにその幹へと叩きつけた。

 刃は幹に深々と食い込んだ。が、切断までには至らなかった。

「無駄じゃあッ!!」

「おっ?」

 腕のような枝がウロを振り払う。弾かれたウロは玉座の間の壁を破壊してかなり遠くまでぶっ飛んでしまった。

「ウロ!?」

 なんという威力だ。あんなのを生身の人間である紘也がくらったら即死である。

「魔術師、まずは貴様の魔力からいただいてやるのじゃ!」

 大量の蔦が猛スピードで紘也へと襲いかかる。

 流石にこれは避け切れない。

 万事休す――かと思ったその時、紘也に迫っていた蔦が紅蓮の炎に包まれた。


「……マスターを危険な目に遭わせるとはやはりウロボロスには任せられません」

《マナだ! ここはより濃くマナがあるぞ!》

 

 玉座の間の入り口に、赤い少女と青い幼女が立っていた。

「ウェルシュ! ついでに山田!」

《ついでとはなんだ人間の雄!?》

 エイトテールをうねらせて抗議する山田はともかく、ウェルシュが来てくれたのは大変心強い。

「炎竜じゃと……」

「……敵は植物。なんだかウェルシュが大活躍できそうな気がします」

 ふんす、と拳を握って気合いを入れるウェルシュ。頼もしい限りである。

《ククク。吾も真の力を見せつける時がきた! 人間の雄の力を借りずとも。マナさえあれば元の姿に戻れるぞ!》

 山田が両手を天井へと翳す。周囲のマナを吸収し、ヤマタノオロチ本来の力を取り戻した山田は妖艶な美女へと――


《……あれ?》


 変わらなかった。

「……背が二センチくらい伸びたんじゃないか?」

《しょぼい!?》

 ヤマタノオロチという神話級の幻獣に力を与えるには、ここにあるマナでは不十分だったようだ。

 そんなアホみたいなやり取りをしている間にも蔦は紘也たちを襲撃し続けている。

「この蔦は魔力を持つ者を狙ってるが、さっきから山田だけスルーされてるな」

《ぐぬぬ。ここのマナでは足りぬのか……》

 山田は両手を床について崩れ落ちていた。さめざめと泣いていた。不憫だ。

 と、壁に空いた穴から魔力の光が放たれる。それは大樹に直撃し、床の石を砕きながら何十メートルもノックバックさせた。

「余計な手出しすんじゃねえですよ、腐れ火竜」

「ウロボロスは苦戦しているように見えました。あとウェルシュは腐ってません」

 服の汚れをはたきながら無傷で戻ってくるウロボロス。紅蓮の炎を纏うウェルシュ・ドラゴン。彼女たちを見下すモルフェッサは、特段慌てる様子もなく溜息をつくように告げる。

「……ドラゴン族が二匹か」

《吾も含めろ!》

「何匹増えようと変わらん! トゥアハ・デ・ダナン繁栄のための礎にしてくれるわ!」

 奪った魔力を使ったのか、大樹がさらに巨大化していく。玉座の間の天井を貫き、腕のような枝が何本も生えてくる。

「バケモノかよ……」

 ウロたちは捕まっていない。グレムリンたちから搾取したレベルの魔力であーはならないだろう。

 ということは――

 あの一瞬で紘也から奪われた魔力は、ちょっとどころの騒ぎではなかったらしい。


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