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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-05
203/228

Section5-9 呑み込む闇

 三日月状の闇と風の刃が激突する。

 相殺の衝撃波が嵐となって空間を荒れ狂う中、グリフォンは不適な笑みを浮かべるクロウ・クルワッハの顔面に〝王威〟を乗せた爪を立てた。

 クロウ・クルワッハの姿が闇へと変わる。手応えはない。闇ごと引き裂くつもりだったが、攻撃があたることを学習している奴は闇化した上で避けたのだ。

 蠢く闇が壁伝いに飛翔していく。

 放たれる無数の黒き三日月をグリフォンは風で払い除ける。だが、それでは終わらない。払ったはずの三日月が一つ、また一つと重なり、何十倍にも威力を増した巨大な一撃となってグリフォンを襲う。

「チッ、〝重積〟か」

 舌打ちし、グリフォンは横に大きく飛んで回避した。闇の三日月は音もなく区画の一部を消失させる。素手で触れることを許さない一撃必滅。神を名乗るだけの力が確かにクロウ・クルワッハには備わっている。

「どォしたァ、鷲獅子の王よ? このオレを引き裂くんじゃなかッたのかァ?」

「急くな爬虫類。そのような安い挑発などせずとも望み通りすぐに殺してやる」

「クッハハ! 誰が望むかッ!」

 クロウ・クルワッハが空気に溶けて消える。刹那、グリフォンの背後に闇が集束。伸ばされた手がグリフォンの首を掴む。

 斬ッ!

 その腕が肘から両断された。

 グリフォンは切り落としたクロウ・クルワッハの腕を捨て、〝王威〟の風を纏った手刀を〝勇猛〟にも闇の中へと突き入れる。

 闇が縦に割れる。すると、僅かに苦悶の色を浮かべたクロウ・クルワッハが人化した姿で出現。放り捨てた腕が闇の粒子となって奴の下へと戻り再生する。

「怖い怖い。下手に近づきャあ宣言通り真っ二つにされちまいそうだ」

「フン、貴様のしぶとさは認めてやろう」

 だが、しぶとさで競うならウロボロスほどではない。神を冠する竜とはいえ、クロウ・クルワッハに〝不死〟の特性はないはずだ。

 攻撃は届く。

 死ぬなら殺せる。

「これ以上、貴様に構っているのは時間の無駄だ」

 小手先だけの攻撃ではひょろひょろとかわされるだけ。ならば、避けきれない攻撃で闇ごと吹き飛ばしてしまえばいい。

 魔力を高める。猛禽の翼を大きく広げる。

 風が、渦を成す。

「ほう」

 ボルサリーノハットを押さえるクロウ・クルワッハから感嘆の声が漏れた。


 だだっ広い空間全域を埋め尽くすように、幾本もの大竜巻が発生したのだ。


 竜巻の全てに〝王威〟の特性が付与されており、巻き上げた瓦礫を文字通り粉微塵に解体していく。

「クハッ! なんだこれ災害じャねェか! グリフォンごときが扱えていい力の範疇ッてもんを越えてやがんなァ!」

「俺は王だ。この程度、扱えて当然だろう」

 竜巻が凄まじい速度でクロウ・クルワッハへと迫る。勢力は衰えるどころか加速し、もはや常人が五体満足で存在できる空間ではなくなっていた。

「同じ規格外でもあの猫とは大違いだ! オレはやはりてめェがこの国の王になった方が面白ェ気がするぜ!」

「興味ないと教えたはずだ」

 だというのに、クロウ・クルワッハの余裕は消えない。この状況すら楽しんでいるように見える。それがグリフォンは気に喰わない。

 闇化して絶妙に竜巻の斬撃を擦り抜けていくクロウ・クルワッハ。グリフォンはその鷹の目で奴の位置を的確に捉え――カッ! と見開いた。

 現状出せる最大出力の〝王威〟が重圧となって闇化しているクロウ・クルワッハへと圧し掛かる。

「――ッ!?」

 ドラゴン族である奴が怯むのは、ほんのコンマ数秒。

 だが、それだけあれば充分だった。

 一斉に竜巻が躍りかかる。クロウ・クルワッハの闇が四散し、巻き上がり、原型すら残さず八つ裂きにしていく。

 それでもクロウ・クルワッハは生きている。奴は〝闇〟そのものだ。肉体を現している時にトドメを刺す必要があるだろう。

「引きずり出してくれる!」

 グリフォンは竜巻を操り、微塵に裂いたクロウ・クルワッハの闇を一点に集める。そして爪を立てた手を伸ばそうとして――気づいた。

 グリフォンの手首に、黒い〝輪〟が腕輪のように嵌っていた。

 いや、手首だけではない。よく見れば両手両足、胴体、そして首にも〝輪〟が仕掛けられている。

「これは……」

「気づくのが遅かッたなァ! もう少し早けりャ失敗するとこだッた! クハハハ!」

 闇がクロウ・クルワッハの姿へと変わる。散々に引き裂かれた体は満身創痍の様子だったが、その眼は勝利を確信していた。

 なにをするつもりかわからないが――

「くたばれ、爬虫類!」

 グリフォンは構わずトドメを刺すため風を纏った腕を突きつけた。

「言ッたろォ。遅かッたッてよォ」

 クロウ・クルワッハがニヤリと嗤った瞬間、グリフォンに取りついた闇の〝輪〟が次々と〝重積〟し始めた。そしてあっという間に腕を、足を、胴体を呑み込み、あえて残されただろう首だけが闇から生えている状態となる。

「貴様……」

「てめェがこの国の王にならねェッてんならもう別にいい。大人しくオレに喰われてろォ、無能な鷲獅子よ」

 首の〝輪〟も膨張していく。手足は消え、風も繰れない。成すすべなく、グリフォンは闇に呑まれていく。

「この程度で勝ったと思うな、爬虫類」

 それでも、グリフォンは臆さない。

「――貴様は、俺が必ず殺してやる」

 最後の最後まで、クロウ・クルワッハを睨みつけていた。


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