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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-05
201/228

Section5-7 侵入者たち

 ちゅどぉおおおおおおおおおおん!!


 蟻の巣のごとく複雑に入り組んだトゥアハ・デ・ダナンの一区画で、大規模な崩落が発生した。

「ちょ、おいウロ! 技を使うならもっと慎重に使え!? 地下空間なんだぞここは!?」

 降り注ぐ瓦礫から頭を庇いつつ全力疾走する紘也に、大泣きするバンシーを引きずりながら並走するウロは視線をあっちこっち泳がせた。

「だってしょうがないじゃないですか! 王様の首を取りにいくって言ったらこのクソバンシーが死ぬ気で泣き始めたんですから! おかげで『兵隊』に見つかったんですよ? 手っ取り早く片づけるなら崩した方がいいじゃあないですか!」

「いいわけあるか!? 危うく俺らまで生き埋めどころか圧死するわ!?」

「だ、大丈夫です! いざとなったら無限空間に逃げれば解決!」

「そこまで便利な空間だったっけ!?」

「ふぇええええええええええええん!?」

 そうこう叫びながらも紘也たちは横穴の通路に飛び込んだ。トゥアハ・デ・ダナンがこういう事態を想定した構造になっているのか、連鎖的に崩れるようなことはなく、しばらくすると崩壊は止まってくれた。

 ただし紘也たちを追い回していた『兵隊』――グレムリンを始めとした幻獣たちは見事下敷きになってしまったわけで、恐らく助かってはいないだろう。

「まあもうやっちまったもんはしょうがない。どうせ最後はぶっ潰すつもりだったんだ」

「ぶっ潰すつもりだったのぉ!? やっぱりこの人間怖いよぅ!? 誰か助けてぇえええええッ!?」

「あーもうびーびーうっさいんですよあんたは!? ほらまた『兵隊』が集まってきたじゃあないですか!?」

 泣き喚くバンシーの声を聞きつけ、巨大カワウソに乗った武装したグレムリンが「侵入者、発見!」「発見!」「発見!」とか叫びながら迫ってくる。グレムリンライダーとでもいうべきか。

 正直、雑魚だ。脅威と言えるところは群れている点だけだが、狭い通路なら数の力は活かせない。ウロの威力を抑えた魔力弾一発で簡単に吹き飛んだ。

「このまま王様って奴のとこに行くぞ! 料理運んでた幻獣はこの騒ぎで見失っちまったから……バンシー、やっぱりお前が案内しろ」

「い、いいい言いません! 絶対に言いません! 王様は最下層の玉座にいるなんて口が裂けても教えたりしませんから!」

「なるほど一番下だな」

「私のお馬鹿ぁあああああああ!? ふぇええええええええええん!?」

 そうして紘也たちは兵隊幻獣たちを蹴散らしながら、トゥアハ・デ・ダナンの最下層を目指すことになった。


        ∞


 戦いの振動は玉座の間にも響いていた。

「これはにゃんの騒ぎにゃ?」

 パラパラと天井から落ちる砂を不安げに見上げ、ケットシーはすぐ傍で跪くドルイドの賢者に問いかけた。

 モルフェッサは難しい顔しつつ白い髭を擦り、答える。

「どうやら外敵の侵入があったようですじゃ。しかし一体どうやって……〈戴冠石(リア・ファル)〉の入り口を他のドルイドが開いたのじゃろうか?」

「侵入者? 一体誰にゃ?」

「まだ情報は少なく、判然としませぬ。二人組の男女がバンシーめを人質に取っていることしか」

 二人組ということは秋幡紘也たちではない、とケットシーは予想する。彼の周りにはケツァルコアトルも含め四体のドラゴン族が控えているのだ。それらが暴れたのならこんな程度の騒ぎで済むはずがない。いくら広くても地下空間など一瞬でぺしゃんこだ。

「敵はこの場所を目指しておるようですじゃ。既に被害は甚大。王よ、どうか我らをお救いください」

「みゃあが!? この空間を揺らすような力を持った相手にゃよ!?」

「猫王様の絶大なるお力であれば必ずや撃退できましょうぞ」

「そ、そうかにゃあ? まあ、みゃあの力が絶大にゃのは否定しにゃいけど」

 この賢そうなドルイドが大丈夫と判断しているのなら、そうかもしれない。なんかそんな気がしてきたケットシーである。

 と、玉座を見上げる幻獣たちが声を発し始めた。

「王様!」「王様!」「王様!」「王様!」「王様!」

「王様!」「強い!」「王様!」「強い!」「王様!」「強い!」

「王様!」「最強!」「王様!」「最強!」「王様!」「最強!」「王様!」「最強!」

 大勢の幻獣たちに崇められ、ケットシーはふにゃりと表情筋を緩ませる。

「にゃは、全くしょうがにゃいにゃあ。この猫王様に任せ――」


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 玉座の間の扉が砲弾みたいに吹き飛んだ。それはケットシーの脇を掠め、背後の石壁を砕いて減り込む。鉄製のはずの扉だが、まるで何者かに殴られたかのようにひしゃげていた。

 そして――

「ふう、やっと辿り着きましたね」

「にゃわっつ!?」

 扉があった場所から堂々と姿を現したペールブロンドの少女を見た瞬間、ケットシーの目玉が飛び出した。

「知ってる魔力があると思ったら、まさかあんたが王様だったとは思いませんでしたよ、ケットシー」

「俺たちを、柚音を騙してたってことか? いや、そう考えると飛行機を襲撃できたことにも合点がいく。ケットシーもアイルランド由来の幻獣だしな」

「ふぇええええん、王様ごめんなさぁい……」

 ウロボロスに続いて秋幡紘也と、捕まっているらしいバンシーまで登場した。ウェルシュやケツァルコアトルはいないようだが……いや、それよりもなにかとんでもない勘違いをされている気がするケットシーである。

「ちょ、ちょっと待つにゃ!? 侵入者ってウロボロスたちにゃ!? みゃあは別に――」

「問答無用です!」

 拳を握ったウロボロスが、ガチの殺意を纏ってケットシーに飛びかかる。明確なる『死』の脅威が冗談抜きで目の前に迫る。

「ぎにゃああああああああああああああああッ!?」

 ケットシーは涙目で悲鳴を上げるしかなかった。


        ∞


 トゥアハ・デ・ダナンのとある区画。

 居住区の一つとなっていたそこでは、多くの武装した幻獣たちが無残にも切り裂かれてマナへと還っていた。

「クハハ、おいおい暴れすぎだろ。うちの貴重な兵力を皆殺しにしちまッてよォ」

 死屍累々の中心に立つ青年に、闇から現れたクロウ・クルワッハは文句を投げる。

「てめェが来るのを待ッてたぜ。もう席は埋まッちまッたが、この国の王になる気ィにはなッたか?」

「フン、くだらん。このような穴倉に逃げ隠れしている連中の王など願い下げだ」

 青年――グリフォンはクロウ・クルワッハの言葉を切って捨て、射殺すような鋭い視線で睥睨する。


「俺の所有物を返してもらうぞ、爬虫類」


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