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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-01
20/228

Section2-9 忍び寄る闇

 蒼谷市は全国有数の港町でもあり、その西側は海に面している。大型のフェリーから小さな漁船まで、船舶の往来は絶えることを知らない。

 そんな港にある道と言えるかも怪しい倉庫と倉庫の間を、幻獣ハルピュイアは身を引きずるようにして歩いていた。

「あんのガキ、あんなやばい幻獣連れてやがったのか。クソッ!」

 忌々しげにハルピュイアは悪態をつく。幻獣ウロボロス。アレは本当にやばい。ドラゴン族の強さは幻獣界でもトップクラスだ。策もなしにハルピュイアのような一幻獣が敵う相手ではない。

「つか、マジで死ぬかと思った」

 ウロボロスが最後に放った魔力弾は、かろうじて直撃を避けることができた。正確には向こうが勝手に外しただけだが、それでも威力はとんでもなかった。ハルピュイアが数キロ離れた港までぶっ飛ばされたくらいだ。

 空も飛べないほどダメージを受けたものの、こうして生きていることは幸いだった。個種結界に付与された〝逃走〟の特性――人をからかって退散する時や自分より強い相手との戦いを避けるため――のおかげだろう。それにぶっ飛んでいる間も結界のおかげで騒ぎになっていない。この街には世界魔術師連盟に加入している強力な陰陽師の一族がいるらしいので、できるだけ派手には振舞いたくないのだ。

「ウロボロスとは殺り合いたくないが、あのガキどもには復讐しないと気が済まねェ」

 なんの力もない人間に反抗されたことがハルピュイアは気に食わなかった。だが、復讐するならばウロボロスをどうにかしなければならない。非力なハルピュイアが真っ向勝負を挑んでも勝てないことは立証済み。癪だが、このまま逃げるというのも一つの手である。

「どっちみち、この体じゃ無理だ」

 一旦『人化』してこっそり人間を喰らいながら魔力を蓄え、傷の回復を待つ。その間にウロボロスを退けるための作戦を練る。そうするしかない。

「見てやがれ、ウロボロス。てめえの主人はアタシが喰らってやる」

 泣き喚くウロボロスの姿を想像した――その時だった。

「今、ウロボロスと言ったぎゃ?」

「いったいった♪」

「……重要な情報」

 そんな声がしたかと思うと、上空から三人の少女が降ってきた。

「あんだ、てめえら?」

 十二歳くらいの少女たちは、結っている髪の位置が違うだけで同じ顔をしていた。ただの少女でないことは一目でわかる。三人とも、背中から小悪魔みたいな翼を生やしているからだ。飾りではない、こいつらは半人化状態の幻獣だ。

「ウロボロスのことは旦那様に報告するぎゃ」

「ほうこくほうこく♪」

「……ウロボロスの契約者、おいしそう」

 三者三様の口調で話し合う少女たち。まるで目の前にハルピュイアなどいないかのような態度だ。殺してやりたいところだが、現在の自分では恐らく返り討ちに遭ってしまう。

「おいてめえら、あいつらはアタシの獲物だ! 他をあたれ他を!」

 ハルピュイアの言葉に耳を貸すつもりなど毛頭ない、三つ子の顔にはそう書いてある。

 が、返事はあった。

 背後から。

「悪いけど、それはもう僕の獲物だよ。君みたいな弱い幻獣には早々に退場してもらわないとね」

 振り返る――暇はなかった。

 ハルピュイアは自分の背中から胸にかけて違和感を覚えた。視線を下げると、ハルピュイアの豊かな胸から白く細い腕が生えていた。真っ赤な血を付着させて。

 それを認識した途端、ハルピュイアの違和感は激痛へと変化した。汚く悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。

「旦那様、いらしてたんですぎゃ?」

「いらしてたいらしてた♪」

「……報告の必要なし」

 歓喜の表情を浮かべる三つ子に、旦那様とやらが妙な韻を含ませた口調で労う。

「ムル、シエ、ラゴ、三人ともご苦労様。早速だけど、他の仲間たちを連れて標的の捜索に向かってくれないかい?」

「了解ですぎゃ、旦那様」

「りょうかいりょうかい♪」

「……了解しました」

 ムル、シエ、ラゴと呼ばれた少女たちは翼を広げて飛び去った。

「さて、君に止めを刺してあげないとね」

 ハルピュイアは、暗転していく意識の中で〝旦那様〟の姿を瞳に映す。

「て、めえ、は――――」

 数秒後、ハルピュイアの肉体にマナの乖離が始まった。


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