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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-05
199/228

Section5-5 戴冠石

 ミース県ナヴァンの南方十二キロメートル地点にある丘陵――タラの丘。

 アイルランドにおける伝説上の王たちの国が存在していたとされるそこの頂には、鉄器時代の要塞跡が残されている。その中の一つ――『玉座』と呼ばれる円形の砦の中心に、まるで地面に突き刺さるようにして佇む大きな立石があった。


戴冠石(リア・ファル)〉――ケルト神話に登場するエリンの四秘宝の一つだ。


 夜明け前とあってひと気はなく、閑散とした寂しい雰囲気を漂わせている。

「ようやく来たか。遅れるなと命じたはずだ」

〈ヌアザの剣〉を入手した葛木修吾と六華が到着すると、〈戴冠石〉に背を預けるようにして待っていたグリフォンがそう咎めてきた。

 その手には錆びついた長大な槍が握られている。アレが〈ルーの槍〉だろう。

「ハハハ、ごめんね。ドルイド・ウスキアス殿の説得に時間がかかってしまったんだ」

 不機嫌そうに睨んでくるグリフォンに、修吾は臆さず爽やかな笑顔を返して弁明する。ドルイド・ウスキアスはマフィアではなかったものの、とある一流企業の相談役だったため会うこと自体が困難だった。時間帯が深夜だったこともある。

 それでもどうにかアポを取りつけ、事情を説明して〈ヌアザの剣〉を貸してもらえたのだ。

「……逆にあなたが早すぎよ。修吾との約束を破ったわけじゃないわよね?」

 六華が絶対零度の視線をグリフォンに向けた。

「案ずるな、殺してなどおらん。俺は一度交わした契約を破るような愚王ではない」

 グリフォンはグリフォンで恐らく強行したのだろうが、彼のそういう矜持は行動を共にしたことで修吾も信頼している。だからこそ以前は魔術組織相手に傭兵のようなことができていたのだろう。

 ポイっと修吾に向かって槍が乱雑に投げ寄越された。

「〈ルーの槍〉だ。魔術師、さっさと道を開け」

 修吾は槍を受け取り、じっくりと観察してみる。遠目に見ても錆びついていると思っていたが、近くで見ると余計に酷い。

「これはまたずいぶんと管理が杜撰だったみたいだね」

 ドルイド・セミアスから借りた〈ダグザの大釜〉もそうだが、〈ヌアザの剣〉も刃毀ればかりで武器としては死んでいた。『光の剣』が見る影もない。連盟にいる魔導具オタクたちが見たら白目を剥いて倒れそうだ。

 六華が不安そうに修吾を見る。

「……使えるの?」

「問題ないよ。たとえ秘宝自体の力が失われていようと、『鍵』としての役割は果たしてくれるはずさ。道を開く術式の起動方法もだいたいわかる。問題があるとすれば――」

 修吾はポツリと佇む大岩を見る。

「〈戴冠石〉を管理しているドルイド・モルフェッサ殿が不在だったことかな。彼の許可なく道を開くわけにはいかないと思っていたのだけれど……」

 それも遅くなった理由の一つだ。彼に秘宝を渡して道を開いてもらう方法が一番手っ取り早かったのだが、自宅にしているらしい山奥の小屋にはここ最近戻っていない様子だった。

「構わん。王たる俺が許可する」

「……あなたはアイルランドの王じゃないわよ」

 ドルイド・モルフェッサの動向は気になるが、今は横に置いておく。

「そうだね。一刻を争う状況だ。許可は後から取りつけよう。――二人とも少し下がってくれるかい?」

 言うと、六華とグリフォンは睨み合いながらも数歩下がった。それを確認した修吾は護符から〈ダグザの大釜〉と〈ヌアザの剣〉を取り出し、〈戴冠石〉の周囲を囲むようにそれら三つの秘宝を配置していく。

 すると、〈戴冠石〉が淡く明滅を始めた。それは次第に強くなり、直径五メートルほどの光のトンネルを作り出した。

「うん、問題なく発動したね」

 ここを通ればトゥアハ・デ・ダナンへと行けるはずだ。

「先に行くぞ」

 検証する間も惜しいと言うように、グリフォンが修吾を押し除けて光のトンネルへと飛び込んだ。

「……修吾、私たちも」

 先を越されて焦る六華に、修吾はゆっくりと首を横に振る。

「いや、僕らはここで待機だ。主任が到着した時、道が閉じていては困るからね。それに彼女たちにも連絡しないと」

「……ケツァルコアトルとウェルシュ・ドラゴンね」

「あとヤマタノオロチ君だね」

 秋幡紘也とウロボロスは既に潜入している。あちらの様子がどうなっているのかわからないが、修吾たちまで行ってしまうと援軍を送れなくなってしまうのだ。

「ドラゴン族四体にあのグリフォン君、か。ハハハ、主任が来なくても過剰戦力な気がするね」

 とはいえ敵戦力も把握できていない。クロウ・クルワッハ一体だけでもかなりの脅威だ。下手をするとその戦闘は地上世界にも影響を及ぼすかもしれない。

 だが、彼らなら大丈夫だ。

 根拠などなくとも、心の底からそう前向きに考えられる修吾だった。


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