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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-05
190/228

Section4-3 マフィアの事情

 敵が予想以上に強かった。

 なんてことはなく、数で囲んでイキっていたライノット・ファミリーとかいうマフィアは、ウロとウェルシュとケツァルコアトルによって秒で制圧されてしまった。

「口ほどにもねえですね。多少魔術は使えたようですが、このウロボロスさんに勝てるわけないんですよ。雑魚が!」

 リーダー格の男を踏みつけ、余裕にもフィッシュ&チップスを貪りながら凶悪な顔をするウロ。こっちの馬鹿は己の強さでイキっているから紘也としてはなんとも言えない。

「ウロボロスだと? き、貴様ら、何者だ……?」

 ウロたちが幻獣だとわかってはいても、まさかドラゴン族だとは考えもしなかったらしい。一人の魔術師が一体でさえ困難なドラゴン族を四体も引き連れている。そのことがまず普通じゃないのだ。そんなことができる人間は世界広しと言えど限られる。

「まさか、貴様があの大魔術師――タツヒサ・アキハタか? 四十超えのおっさんだと聞いていたが」

「そんなわけないだろ」

「あばばばばばばばばッ!?」

 紘也はウロにふみふみされている男の額に指をあて、気絶しない程度に魔力を掻き乱してやった。

「てか俺、ついにあのおっさんと同格と思われるようになったのか……」

 やめてほしい。アレと同じとかホントやめてほしい。

 それはそれとして。

「ここの人払いはお前らが施してるって言ったな? 蜘蛛の巣にかかった獲物だとも。どういうことか説明してもらおうか」

 男の額に指をあてたまま問う。紘也の魔力干渉は身を持って体感したばかりだ。男は恐怖の感情で顔を真っ青に変色させた。

「オゥ、紘也くんが悪い顔をしてます。元々ドSだと思ってましたが、ついに拷問の快感に目覚めちゃいましたか……」

「ウロ、右と左どっちがいい? オススメは両方だ」

「紘也くんはぁーッ! 正常な感性を持ったぁーッ! 普通の人間でぇありますッッッ!!」

 Vサインをちらつかせると、ウロはビシッと軍隊ばりの敬礼をしてハキハキそう叫んだ。ドラゴン族を怯えさせ従わせる紘也に、マフィアの男はもう強面が崩れるほど泣きそうになっていたけど見なかったことにする。

「人払いの影響を受けない、魔力が比較的に高い人間を捕えるための罠でございますね?」

「……」

 ケツァルコアトルの推測に男は答えない。が、その沈黙はもはや肯定だった。

《どけ人間の雄! この雑魚め! 吾を捕えて使役しようなど身の程を教えてくれる!》

「お、待て山田!?」

 山田が紘也を無理やり押しのけ、男に向かって掌を翳す。

 彼女の〝霊威〟が水気を繰り――


 チョロロロォ。


 軽めに水道の蛇口を捻ったような水流がマフィアの男に浴びせられた。

 彼は放心していた。

《フハハ! どうだ参ったか下等な人間が!》

「ウェルシュ、山田が邪魔だからちょっと連れ出してくれ」

「……了解です、マスター」

《なんだと人間の雄! この吾がせっかく手伝ってやろうとぐもももおあ!?》

 ウェルシュに首根っこを掴まれて引きずられていく山田を見送り、紘也は改めてマフィアの男に指先をあてる。

「ていうか、なんでマフィアが魔術や幻獣を知ってるんだ?」

「わ、我々はただのマフィアではない。ライノット・ファミリーは、魔術結社の側面もあるのだ」

 ついに観念したらしく、男は訥々と質問に答えた。

「そっちの緑髪の姉ちゃんが言った通りだ。わ、我々は街の至るところに罠を張り、魔力の高い一般人を攫っている。もし罠にかかったのが魔術師なら殺せと命じられていた」

 この路地裏で人々を攫っていたのはマフィアだった。そうなると、フィッシュ&チップス売りの人が見た灰色マントの少女は無関係ということになるのだろうか?

「命じたのは、お前らのボスにか?」

「そうだ」

「なんのためにこんなことをしている?」

「し、知らない。俺たちは依頼を受けただけで、捕獲した人間を引き渡した後のことまでは聞いていない!」

「あぁ? 本当ですか?」

「本当だ!」

 男が嘘をついているようには見えない。だとすればライノット・ファミリーは黒幕ではなく、ただの使いッパシリの下請け会社ってところだろう。

「その依頼人は?」

「黒い外套と帽子の男だ。だが、奴は人間じゃない。やばい幻獣だということしか知らない。契約者はいなかった。信じられないが、あの野郎は野良の幻獣だ」

 野良幻獣。

 それも人間の組織を顎で使えるレベルの。

「紘也くん紘也くん、これはもうビンゴじゃあないですかね!」

 寧ろこれで無関係だったら逆にすごいくらいピースが揃っている。その『黒い外套と帽子の男』とやらを見つければ柚音の下に辿り着けるはずだ。

「そうだな。まずはこいつらのボスにでも会って――」


 ピーピーピー。


 男のスーツのポケットから古臭い電子音が聞こえた。

「……ファミリーからの連絡だ」

「出てもいいぞ。ただし、俺たちのことは喋るなよ?」

 念を押して許可を出す。無論、紘也の指は男の額に押しあてたままだ。

 男はポケットから通信機を取り出し、応答する。

「……俺だ。どうした?」

『ファミリーが襲撃を受けている! お前たちもすぐに戻れ!』

「なんだと!?」

『て、敵は三人! 魔術師が一人と、恐ろしく強い幻獣が二たぐはぁあああッ!?』

「おい! おい! 応答しろ!」

 通信機から悲鳴が轟いたかと思えば、それっきりピーガガガという雑音以外なにも聞こえなくなった。恐らく向こうの通信機が破壊されたのだろう。

「な、なあ、行かせてくれ! 頼む! 我々のファミリーが!」

 男が悲痛な顔になって頼み込むが、紘也たちとしてはみすみす逃がすわけにはいかない。

 いや、彼から聞き出せる情報はもうほとんどないだろう。さっきも言いかけたが、もっと上の立場にいる人間から聴取しなければこれ以上の進展はない。

 そうなると――

「まずいですよ、紘也くん。どこの誰だか知りませんが、このままじゃせっかくの手がかりがぶっ潰されてしまいます!」

「ああ、とりあえずこいつらは連盟に突き出す。ケツァルコアトル、通報しといてくれ」

「畏まりました」

 紘也は倒れている男から指を離し、立ち上がる。

「ライノット・ファミリーのアジトに向かうぞ」

「紘也くん紘也くん、場所がわかりませんよ?」

「だからこいつだけ連れて行くつもりだ。おい、案内しろ」

「へ?」

 予想外だったのだろう、男はポカンとした表情で素っ頓狂な声を上げた。


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