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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-05
181/228

Section3-3 懲罰部隊の序列第三位

 アイルランド南部――マンスター地方コーク州コーク市。


 市内中心部から約十三キロメートル離れた場所に位置するコーク空港に、ロンドンからの旅客機が到着した。

 荷物を受け取った人々が到着ロビーへと流れてくる。ほとんどがイギリス人だったが、その中に異質な空気を纏った男女が一組混ざっていた。

「……やっと着いた。飛行機って退屈だから嫌いだわ」

 片やヨーロッパ圏だと一際目立つ青白い和服を身に着けた少女。凍てつくような青の瞳に雪のごとく白い肌、煌めく白銀の髪は腰よりも長く伸ばしている。どこか不満そうにむくれた表情をしている彼女だが、その完成された美貌はどこの国の人間が見ても美少女だと讃えるだろう。

「ハハハ、たった一時間半じゃないか。テレビも見れたし、僕は楽しめたよ」

 もう片方は爽やかな笑顔を浮かべる日本人の青年だった。高い身長に無駄なく引き締まった身体。手荷物はなく、ウエストポーチだけという軽装はただの観光客とは思えない。

「修吾はなんでも楽しそうだから羨ましいわ」

「君たち幻獣と違って、僕たち人間は命の時間が短いからね。人生、楽しまないと損だよ。実家を出たのだって、元々僕がそうしたかったからだしね」

 拗ねたように顔を背けていた彼女だが、青年が『実家を出た』と言った辺りでバツが悪そうに眉を曇らせた。

「原因になった私が言うのもなんだけど、たまには顔を出した方がいいと思うわ」

「難しいかな。勘当されちゃってるし。あーでも、近い内に勧誘に行くことになるかも」

「……日下部朝彦?」

「正解。彼は僕の昔馴染みだからね」

「罪を犯して収監されていると聞いたわ」

「そうだね」

「犯罪者を仲間にするの?」

「ハハハ、それを言ったら僕だって君という札付きの『災厄』を匿う悪党になっちゃうね」

「……もうしないわ」

 再び彼女は青年から顔を逸らした。恥ずかしい過去を持ち出されたせいでほんのりと頬に朱が差している。

 そんな姿を可愛いと思いながら、青年は話を続ける。

「まあ、ただ牢に閉じ込められているだけじゃ罪を償うことはできない。だから彼は快く協力してくれるはずだ」

「楽観的ね。まあ、それが修吾のいいところだけれど」

 少女は諦めたように溜息をつくも、青年の腕を取ってピタリと寄り添った。大変歩きづらそうだが、青年は文句の一つも言わず微笑んでいる。

 そして空港のロビーを出たところで、数人の黒服を着た男たちが彼らを出迎えた。

 青年は居ずまいを正し、彼らに向かってハッキリと言葉を紡ぐ。


「世界魔術師連盟所属、秋幡大魔術師直轄懲罰部隊序列第三位――()()修吾だ」


 名乗った青年――葛木修吾に対し、黒服たちは一斉に敬礼の姿勢を取った。彼らは連盟に加盟している現地の魔術結社の人間だ。

「お待ちしておりました、修吾様。そちらは?」

 黒服の代表が訝しそうな視線を修吾の腕に絡まる少女へと向けた。

「彼女は六華(りっか)。僕の契約幻獣だよ」

 修吾は爽やかな笑顔でそれだけ答えた。彼女の素性は懲罰部隊以外には知られていない。もしここが日本だったら誰何される前に問答無用で取り囲まれるレベルの――お尋ね者なのだ。

「連れがいてはまずかったかな?」

「いえ、問題ありません。お車を用意しております。どうぞ、こちらに」

 一応、契約のリンクくらいは探られただろう。今現在、このアイルランドという国で『幻獣』は少々シビアな問題となっているからだ。

 黒服に案内されて高級車の後部座席へと乗り込む。

「さてと、今回の任務について確認しようか」

 車がコーク市街へ向けて発進したのを認めると、修吾は取り出した一枚の護符をノートパソコンへと変化させた。

 スリープ状態だったノートパソコンを起動させ、画面に表示されているPDFの資料を見る。

「まず一つ、最近このアイルランドで多発している神隠しの調査。これについて、現地の魔術師たちはどう考えているんだい?」

 修吾は運転席の黒服に質問を投げる。

「失踪した現場付近に幻獣と思われる姿が多数目撃されています。ただ、その姿形については証言が一致しません。ほぼ同じ時間に複数個所で発生したケースもあります」

「単独犯ではあり得ない。組織的なものを感じるね。幻獣は変異するタイプかな? それとも目撃通り多種雑多な幻獣を使役しているのか」

 顎に手をやって修吾は思案する。これが目下アイルランドで発生している幻獣に関わる問題だ。外からやってきた連盟所属の幻獣だとしても警戒されてしまうのは仕方ない。

 それがわかっているので、六華は修吾の隣でただ沈黙している。

「神隠しの被害者に共通点は?」

「比較的魔力の多い人間、ということしか」

「野良幻獣が捕食している……と考えるのは無理があるね。この時期だと」

 世界魔術師連盟は総本山こそイギリスだが、『世界』とつくからには世界中に加盟組織が存在する。彼らが一斉に駆除に乗り出したのだから、今さら無差別に人を襲うような幻獣など残っていないはずだ。

「修吾、また誰かが幻獣界の門を開いて召喚した可能性は?」

 と、六華が修吾の耳元で囁いた。冷気を含んだ吐息に少し身震いしそうになる。

「いや、流石に一国規模で幻獣が散らばるような召喚術なら気づくよ。ましてやアイルランドはイギリスのお隣さんだしね」

「灯台下暗しという言葉もあるわ」

「可能性の一つとしては考えておいてもいいだろうね。僕の考えだと、やはりなんらかの非合法組織が関わっていると思う」

「犯罪魔術結社ってことかしら?」

()()()()()()()()()

「……どういうこと?」

 意味深な修吾の言葉に六華は疑問符を浮かべた。修吾はノートパソコンを操作し、PDFのページを移動させる。

「ここで任務の二つ目に話が関わってくる。どうも最近、アイルランド中のアイリッシュ・マフィアたちが不穏な動きをしているらしいんだ。超常的な力を使ったという報告もある」

「そちらも我々で調査を進めています。コーク市内に根づいていたマフィアたちは一通り洗いましたが、今のところ妙な点は発見できておりません」

 運転席から黒服が話に割り込んできた。調査状況は訊くつもりだったので、先に答えてくれたのはありがたい。

 失踪事件やマフィアの調査はどうしても人手が必要になる。修吾たちがアイルランド入りした目的はそれらの調査の手伝いも含まれるが、結局は()()()だ。

「なるほど、じゃあ僕たちは本命の三つ目を先に片づけた方がいいだろうね」

 資料の三ページ目にはアイルランド南部の地図が載っていた。その一点に赤い印がつけられている。

「二日前、カミーノール近郊で観測された強大な力。連盟のデータベースとユニコーン君の証言から、正体は間違いなく『彼』だろう」

 修吾は直接会ったことはないが、それは『黎明の兆』の拠点となっていたアトランティスでドラゴン族四体と戦い圧倒した規格外の怪物。

 是非とも直接会って話をしてみたい。

 秋幡辰久も修吾と同じ考えだ。


「他の組織よりも先に接触し、できるだけ平和的に懲罰部隊(ぼくたち)の味方に引き入れよう」


 彼の力は、来る『朝明けの福音』との戦争にも間違いなく必要になってくるはずだ。 


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