表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-05
172/228

Section1-7 出立

 翌日。

 紘也たちは葛木家の車で空港まで送ってもらい、手続きを済ませ、あとはフライトを待つだけとなっていた。

 荷物は家が消し飛んだため必要最低限しか入れられなかったスーツケースが一つ。海外旅行にしては少々身軽だが、ウロなんかはなんでもかんでも無限空間に放り込んで手ぶらだった。保安検査の意味がない。

「昨日も言ったけど、こっちのことは心配しなくていいわ。だから気兼ねなく自分のことに集中しなさい」

「海外かぁ。私行ったことないなぁ。ねえねえ、帰ったらお話いっぱい聞かせてね!」

 見送りは葛木香雅里と、昨日なんやかんやで葛木家に泊った日下部夕亜。

 それから――

「気をつけて行けよ、紘也。あとお土産期待してるぜ」

「がんばってねぇ、ヒロくん」

 諫早孝一と鷺島愛沙の四人である。今日出立することを報せるまでもなく、孝一が愛沙を連れて葛木家の前に張っていたのだ。

「いやぁ、それにしてもなんか愛沙ちゃんを久々に見た気がします」

「久々? いや、久々ってほどでもないだろ」

 愛沙は昨日の晩に里帰りから戻ってきたばかりだ。一週間も経っていないはずなのだが、不思議と紘也もウロ同様に謎の懐かしさを感じていた。ここ数日の密度が凄まじかったからだろう。

 体感で三年と三ヶ月くらい会っていない気がする。

 なにを言っているのかわからなくなってきた紘也である。

「本当はもう少しだけ向こうにいる予定だったんだけど、ヒロくんたちのお見送りはしなきゃって思って」

「そんな気を遣わなくても、もっとゆっくりしてればよかったのに」

「……愛沙様はお優しいです」

「あたしは愛沙ちゃんが来てくれて嬉しいですよ!」

 ほんわかにっこりと聖母のように微笑む愛沙に、紘也は旅立ちの緊張が和らぐのを感じた。

 すると、愛沙の後ろからひょこりと青い和服の幼女が顔を見せた。

《達者でな。己ら。心配せずとも吾は愛沙の屋敷で大人しくしておる故》

「あんたは一緒に来るんですよ!?」

「……山田は飛行機から途中下車させるといいです」

《嫌だやめろ放せ己ら!? 吾は愛沙と一緒がよいのだぁあああああああああああッ!?》

 飛行機を怖がる子供のように泣き喚く山田をウロとウェルシュが左右から挟んで連行していった。例の呪いがあるから飛行機から落とすようなことだけは絶対しないでもらいたい。

「えっと……」

 そんな神話級の幻獣とはとても思えない山田の姿を眺める日下部夕亜は、狐につままれたような顔をしていた。

「香雅里ちゃんから聞いてはいたけど、アレが本当にあのヤマタノオロチなのね」

「信じられないでしょ?」

「うん。でも……うふふっ、あんなにちっちゃいとなんだか可愛いわ♪ ぎゅってしたい♪」

「仮にもあなたの命に関わってた存在なんだけど!?」

 日下部夕亜にはヤマタノオロチを封印するための術式が心臓に刻まれていたのだ。実際に死にかけもしたのに山田を恨んでいる様子はない。これも彼女の性格なのだろう。兄の日下部朝彦だったら出会った瞬間に殺しにかかっている。間違いなく。

「お兄、そろそろ時間よ」

「ああ、わかった」

 大量の土産物を預けてきた妹に呼ばれた。というかそれを待っていた感じでもある。ウロの無限空間に放り込んでおけばいいのにと思ったが、四次元ポケット並みに整理整頓できてないそこに入れるといろいろ混ざりそうだからやめた方がいいかもしれない。

「じゃあ、行ってくる」

「おう、オレたちの分まで楽しんで来い」

「遊びに行くわけじゃないんだけどな」

 はにかんで拳を突き出してきた孝一に、紘也も苦笑しつつ軽く拳を合わせ――はたと気づいた。そんな紘也と孝一の様子を赤くした顔でガン見している二人に。

「紘也くん×孝一くん……じゅるり」

「男同士の熱い友情……ハナヂガデマス」

 いつの間にか戻ってきたウロと美良山仁菜だった。

「……」

「……」

「……」

「……」

 ガシッ!

 なんか固く握手を交わした。

「仁菜ちゃんでしたっけ? いい目をしてますね」

「あなたこそ、ウロボロス先輩」

「通じ合うなそこ!?」

 一人でも厄介なのに二人に増えられると非常に頭が痛い。紘也と孝一はあくまでノーマルな友人関係だというのに。あと山田をどこにやった?

 これ以上妄想されるのも嫌なので、紘也は孝一たちと別れてさっさと出発ロビーへと向かった。

「にゃー、日本。名残惜しいにゃあ」

 飛行機へと搭乗する通路を進みながらケットシーが頭の後ろで手を組んで呟いた。彼女の手綱を握るような位置を歩くケツァルコアトルが相槌を打つ。

「基本的に平和で良い国でございましたね。なんでしたらあなただけ残ってもよろしいのですよ、ケットシー」

「冗談キツイにゃ!?」

 身の危険を感じたのか、尻尾を逆立出たケットシーは我先にと飛行機へと飛び込んで行った。

「名残惜しい、か」

「どうしたんです、紘也くん? まさかもうホームシックですか? 大丈夫です。紘也くんの居場所はいつだってウロボロスさんの胸の中ですから思う存分に――」

「イギリスってサミングは合法だよな」

「ちょっとなに言ってるのかわかんないですよ紘也くん!?」

 右手の人差し指と中指を立ててやるとウロも青い顔して飛行機の中へと逃げ込んだ。紘也は一度立ち止まり、後ろを振り向く。

「……マスター?」

 怪訝に思ったウェルシュが小首を傾げた。

「いや、イギリスから日本に帰る時、俺もそう感じるのかなって思っただけだ」

 前までは頑なに行きたくなかった国。それを名残惜しいと思えるようになるのか、今の紘也には知るすべもない。

 とその時だった。

 視界の端――窓の向こうで、なにか小さな黒い影が飛行機に飛び乗るように動いた気がした。

「なんだ?」

 人間……ではなかったと思う。

「……マスター?」

 もう一度ウェルシュがきょとんとする。彼女がなにも感知していないということは、魔術師や幻獣の類ではないのだろう。紘也の見間違いの可能性が高い。

「なんでもない。行くか」

「……はい」

 そうして紘也とウェルシュが乗り込んで間もなく、ロンドン行の飛行機はトラブルもなく無事に離陸するのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=148019440&s

小説家になろう 勝手にランキング ←よければ投票お願い致しますm(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ