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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-04
152/228

Section4-1 崩壊の秋幡邸

 時は戻り――

 廃墟寸前の遊園地から蒼谷市に帰ってきた紘也たちは、自宅があった場所の前に呆然と立ち尽くしていた。

 目の前に広がる光景の理解を脳が拒否していた。

「どういう……ことだ……?」

 紘也たちは昨日、ケットシーのご主人とやらが封印されている要石の一つを破壊するため、県外にある遊園地に赴いた。要石はあったにはあったのだが、そこには幻獣ギュウキが封印されており、ケットシーのご主人とは全く関係のない代物だった。

 ケットシーは嘘をついていた。紘也たちを蒼谷市の外へと連れ出すことが目的だったのだ。

 役目を終えて白状したケットシーを追いかけて蒼谷市に帰ると――昨日の朝まで平和に過ごしていた我が家が見るも無残な瓦礫の山と化していた。

 頭が真っ白になった。

 突然、帰る場所を失ったのだ。当然だろう。

「あ、あんのドブ猫!! なんてことしてくれやがったんですか!!」

「……許しません」

 ウロとウェルシュも怒りに戦慄いている。ケットシー本人がやったわけではないが、そのご主人がこの惨状に関わっていることは疑う余地もない。

 紘也の家からなにかを盗み、破壊して去って行ったということか?

 なんのために?

 ――証拠隠滅? いや、それなら破壊した方がより派手になる。なにを盗んだのかわからなくするためか? それとも親父に対する当てつけか……?

 最後のが一番可能性ありそうで困る。

「はっ! まさか!」

 と、なにか思いあたったらしいウロがダッシュで瓦礫の山を登っていった。それから瓦礫を掻き分けるように散らかして掘り進んでいく。

 紘也もなくなったものを探そうとかと考えたが、この瓦礫の中からではなにが残っていてなにが消えたのか判断できそうになかった。

 そして、数分後。

「やっぱり、なくなっています……」

「ウロ、なにがなくなってるんだ?」

「この崩壊具合からしてたぶんこの辺にあるはずなんですが……あたしが大事に大事にこっそり隠し撮りしてきた秘蔵の紘也くんコレクションが見当たらないんですよ!」

「よーしちょっと下りて来い、説教してやる!」

 まだそんなものを隠し持っていたのか。今度から定期的にガサ入れする必要がありそうだ。とはいえ、その家はもうないのだが……。

「あとあたしの抜け殻も消えていますね」

「それはどうでもいい。……ん? いや待て、アレはウェルシュが燃やしただろ?」

ウロボロス(あたし)の抜け殻ですよ? 〝再生〟するに決まってるじゃあないですか」

 処分できないゴミを増やさないでほしい。

 だが、なにかが見えてきそうだ。紘也の隠し撮り写真集は崩壊時に消し飛んだと仮定できるが、その燃やしても〝再生〟する厄介なゴミが残っていないということは、家を破壊した何者かが盗んだと考えられる。

 なにせ見た目こそ美少女の等身大人形だが、アレは暦とした『ウロボロスの抜け殻』なのだ。魔術師かヘンタイなら泣いて欲しがる一品。本来の目的ではなかったとしても、見つけたら持ち去ってしまう価値は充分にある。

「……ウロボロス、もっとよく探してください。ウェルシュもマスターの隠し撮り写真集見たいです」

「はあ? 見つかったとしてもあんたに見せるわけないじゃあないですか? アレはあたしだけの秘蔵コレクションなんです!」

「なら、ウェルシュが先に見つけます」

「させませんよ! はい、ここから先はあたしの領域です! 入ってきたら罰金ですよ!」

「ウェルシュは今だけ侵略者になります」

 知能レベル小学生な争いをする幻獣二匹にはきつーーーく説教してやりたかったが、今の状況はそれどころではない。犯人の目的は不明だが、家をこんな風にされて黙っていられるほど紘也は聖人ではない。とりあえず説教の予定は心のスケジュール帳に書き込んでおく。


「秋幡紘也!」


 とその時、背後から聞き知った少女の声がかけられた。

 振り向くと、葛木家の戦闘服である黒装束に身を包んだ少女――葛木香雅里が息を切らして紘也に駆け寄ってきた。

「よ、よかったわ。無事だったのね」

 肩で息をする香雅里は安心したように胸を撫で下ろした。塀の向こうに葛木家の人間が何人か待機している。恐らく紘也たちが帰ってきたと報告を受けて文字通り駆けつけてくれたのだろう。

 崩壊した家が先に目に入って気づかなかったが、よく感じ取ってみれば周囲に結界が張られている。こんな状況なのに騒ぎになっていないし、警察も来ていないのは彼女たちのおかげらしい。

 ということは――

「ちょっと遠出してたんだ。それより、やっぱりこれは魔術師か幻獣の仕業なのか?」

「そう、だと思う」

 彼女にしては歯切れが悪い返答だった。

「だと思うって?」

「ちょっと事情が複雑なの。詳しくは後で説明するから、とりあえず私の家に来て」

 確かにここでは落ち着いて話もできない。特に説教確定の物品を探し漁っている向こうのお馬鹿どもが。

「ウロ、ウェルシュ、もう探すのはやめろ! 葛木家に行くぞ!」

「オゥ? あ、かがりんだ」

 紘也に声をかけられ、香雅里の姿を見つけた二人が瓦礫の山から下りてくる。

「かがりん! あたしと紘也くんのラヴハウスをぶっ壊しやがった糞野郎の居場所を教えてください! 今からそいつをグガガバゴン! って殴りに行きますので!」

「……ウェルシュも加勢します」

 殺る気満々の二人に香雅里は呼吸を整えると、

「詳しいことは私の家で話すけど、これだけは先に言っておくわ」

 改めて、いつも以上に真面目な表情になって紘也たちを見た。


「あなたたちの家を破壊したと思われる魔術師は――もう、死んでいるの」


「「「は?」」」

 告げられた驚愕の言葉に、紘也たちは揃って変な声を上げた。

「それは、葛木家がもう始末をつけたってことか?」

「そうじゃないから、私たちも困っているのよ」

 犯人はもう死んでいる。そして殺したのは葛木家ではない。現状では自殺か他殺かはわからないが、彼女の様子からして後者だろう。確かにこれは複雑だ。

「……ケットシーのマスターが死んだのですか?」

 ウェルシュがそう首を傾げて訊ねてくる。

「いや、そいつはさっきケットシーと電話していたから違うんじゃないか?」

「あのドブ猫のご主人とあたしたちの家を壊した犯人は仲間だったんじゃあないですか? で、仲間割れして殺したと。動機は盗んだ物の独り占めですね。紘也くんの写真集はそれほどの価値がありますから」

「ねえよ」

 あと絶対それは盗まれたんじゃなくて崩壊した時に消し飛んだのだと思う。思いたい。もしただ吹き飛んだだけだったらご近所様にあらぬ誤解を植えつけかねない。頼むからもうこの世から消えていてくれと切に願う紘也だった。

「ケットシー? 秋幡紘也、あなたの方もなにか知っているの?」

「こっちもだいぶ複雑になった。後で話すよ」

「わかったわ。ところで……」

 香雅里は頷くと、なにか気がかりなことでもあるのかキョロキョロと周囲を見回し――


「ヤマタノオロチは?」


「「「…………………………………………………………………………あっ」」」


        ∞


 その頃、最果ての遊園地――ブルーオーシャンワールド。

《おーい。人間の雄! 金髪! 火竜の雌! 己ら。吾を置いてどこに行ったのだーっ!》

 ケットシーによって海水湖に放り投げられていたヤマタノオロチこと山田は、びしょ濡れの和服のままトボトボと独り寂しく遊園地内を彷徨っているのだった。


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