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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-04
139/228

Section2-4 絶叫轟くアトラクション

 ガタン ガタン ゴトン ギギギ。

「……うぅ……」

 ガタン ゴトン ガタン ギギギ ゴタン。

「……う、うにゃ?」

 ケットシーが目を覚ますと、そこはなにかの乗り物の座席だった。胸の上に太いバーが下ろされて身動きが取れない。乗り物はゆっくりゆっくりと焦らすように登り坂を進んでいる。

「にゃ? にゃ! にゃ!?」

 横を見ると古びた看板に『ジェットストリームコースター:噴出される海水のレールを駆け抜けるスリル満点アトラクション!!』と大々的に書かれていた。

 前を見ると、既に頂上付近。ガタンと車体が一度停止し――グラリ。二百七十度傾いた。

「にゃにゃ!?」

 一瞬の浮遊感が襲う。次の瞬間、車体は溜めに溜めた位置エネルギーを全開放し、発生したとてつもない運動エネルギーにより物凄いスピードでレールを滑り降りた。

「にゃにゃにゃぁああああああああああああああああああっ!?」

 顔の皮がプルプルする中、ケットシーはそれを目撃する。

 今まで走っていた普通のレールは途切れ、絶賛話題沸騰中の噴出される海水のレールが対面のレールまで弧を描くように敷かれてい――


 チョロロロ……。


「ぎゃあああああああああああああああにゃあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?」

 寂れた遊園地に海水を勢いよく噴出させる膂力などなかった。それでもケットシーの絶叫など知らぬように、車体は上がり続ける速度で海水のレール(笑)を駆け抜けた。


 正確に表現するならば――空中を跳んだ。


 見事向こう側のレールに着地した車体は、何事もなかったかのように一週して出発地点へと戻ってくるのだった。

「紘也くん紘也くん、こいつ泡吹いて白目剥いてますよ」

「お前鬼だな」

「止めない紘也くんも大概です」

「もっと目覚めなくなったんじゃないか?」

「次行きましょう次」

 悪魔の遣り取りがすぐ傍で行われていたことを、ケットシーは知らない。


        ∞


 ヒュオオオ!

「……んにゃ……」

 風の音にケットシーが目を覚ますと、そこは幅一メートルほどしかない細い板の上だった。真下から吹き上げる風に視線をさらに落とす。遥か眼下には水深の深そうなプールが広がっていた。

「にゃに!? にゃんにゃ!? にゃんですと!?」

 横を見ると古びた看板に『紐なしバンジー~当たって砕けろ! 海水の浮力への挑戦~』と大々的に書かれていた。

 前を見ると、板の先端以降の足場が存在しない。ちょっと動いただけでベロンベロン揺れる。

「にゃんでこんにゃことににゃってるにゃ!?」

「ヘイ!! ユーキャンフラーイ!!」

 ドカッ!

 後ろに立っていた金髪の少女に思いっ切り背中を押され、ケットシーは真下の海水プールへと真っ逆さまに落ちていく。

「ほわにゃあああああああああああああああああああああああッッッ!?」


 ザッバァーーーーン!!


 見事着水したケットシーは大きな水柱を上げ、やがてぷかーっと浮かび、そのままプールサイドに打ち上げられた。

「紘也くん紘也くん、こいつ土左衛門になってますよ。猫の癖に着地下手ですね」

「着地じゃなくて着水だろ。猫って水ダメじゃなかったっけ?」

「とりあえずウロボロス流応急処置で蘇生させますね」

「逆に殺すなよ?」

 やはり傍で行われる悪魔の遣り取りをケットシーが聞くことはなかった。


        ∞


「おんどりゃあなにさらしてくれとんじゃあぁあっ!?」

 今度こそ意識をはっきり取り戻したケットシーは開口一番に発狂した。

「素が出てるぞ、素が」

「素も出るにゃよ!?」

 担当したエリアをとりあえずざっと調べてみた紘也たちとウロだが、それらしい石は見つからなかった。なのにケットシーは目覚める気配がなく、起こすためにちょっといろいろ試してみたのである。

「大丈夫ですよ。コースターは元々透明なレールが敷かれていますし、海水プールもあの高さから飛び込んで死ぬほど塩分が含まれているわけじゃあないですから」

「そういう問題じゃにゃいからこれ!? 謝るにゃ!! 謝るまでみゃあはもう一歩も動かにゃいにゃ!!」

「「正直やり過ぎた。今は反省している」」

「全く心が籠ってにゃい!?」

 頭を抱えてしばらく地団太を踏んでいたケットシーは、やがてなにかを諦めたような顔になって紘也とウロを睨んだ。

「とにかく、遊んでいる暇はにゃいにゃ! 一刻も早く要石を探すにゃよ」

「最初は遊ぶ気満々だったあんたがそれを言うのか」

 紘也がジト目でツッコむと、ケットシーは拗ねたようにむっすと頬を膨らませて腕を組んだ。

「人間。今まで黙っていたにゃが、いい加減みゃあのこと『あんた』って呼ぶのやめてほしいにゃ。みゃあにだって名前くらいあるにゃ」

「いや、名乗られてないのに呼びようがないだろ。『あんた』が嫌なら『ケットシー』って呼べばいいか?」

 ウロたちと違ってケットシーが秋幡家に居座ることはない。となれば紘也的に呼び方などどうでもいいのだが、ケットシーは腕を組んだまま少し考えるように「う~ん」と唸った。

「みゃあのことは『キャシー』って呼ぶにゃ」

「本名は?」

「……人間、それを口にすることは末代どころか種族全体の恥ににゃるから」

「だから幻獣界の名づけ文化は一体どうなってやがるんだああん!?」

「ふにゃっ!? なんでみゃあ怒られたにゃ!?」

「あー、これは紘也くんの病気みたいなものです。気にしない方向で」

「どんな病気にゃ!?」

 病気とは心外だが、紘也もここまで過剰反応することはなかった。いつものようにスルーしておけばよかったと少し反省する。

「まあ、名づけ文化のことは置いといて、肝心の要石の場所はどこなんですか?」

「馬鹿だにゃあ、ウロボロス。そんにゃのみゃあに訊かれてもわかるわけにゃーよ。虱潰しに探すにゃ」

「紘也くん紘也くん、次はあの軽く遠心力で引き千切れて吹っ飛んで行きそうな空中ブランコに乗せたいです」

「ぎにゃああああやめるにゃぁあっ!?」

 怒り笑顔のウロはケットシーの首根っこを引っ掴むと、ドシドシと空中ブランコのアトラクションへと歩いて行く。

「待てウロ、そうさせたいのはやまやまだが」

「やまやまにゃの!?」

「いい加減に日が暮れる。そろそろ本気で探した方がよくないか?」

「……それもそうですね。仕方ありません。アレを出しますか」

 ウロは立ち止まってケットシーを放り捨てると、なにやら異空間に手を突っ込んで探し物を始めた。

「えーと、どこに仕舞ったかな? 探すのめんどいんですよねー」

 あれでもないこれでもない、とウロが不思議空間からガラクタをポイポイ取り出しては捨てていく。いつも思うが、その四次元スペースはちゃんと整理整頓されているのだろうか?

「あ、ありました。じゃじゃーん! 潜伏するものを炙り出す冷徹無残の魔力原レーダー!」

 わざとらしくポーズを極めながらウロが取り出したものは、丸時計のような円形の物体だった。表面は緑色で升目のようになっており、ウロがカチリと上部のスイッチを押すと六つの光点が表示されチカチカと点滅を始める。星の入った七つのボールでも探せそうなレーダーだった。

「フッフッフ、これはたとえ抑えていようと封じていようと放出される微弱な魔力を探知して位置を表示できる超高精度なレーダーなのです。有効範囲は二キロメートル程度ですけどね。あ、この中心に集まった三つがあたしたちですね」

 なんか説明が始まった。

「この離れている三つのうち二つは腐れ火竜と山田ですね。そんで残り一つが件の要石だと思います」

「マジかにゃ!?」

「どれがなにかってのはわからないのか?」

「フッフッフ、当然わかりますとも! この光点をこうトントンポチポチグワングワンとタップして画面をズームしていけば……なんとその光点付近の映像が見られるのです! フッフッフ」

 フッフッフが鬱陶しい。

「む、これは腐れ火竜でしたか。えーと、なにしてんですかね、こいつ?」

 紘也も画面を覗くと、赤髪バックツインテールの少女が係員と思われるお婆さんと一緒にコーヒーカップに乗ってぐるぐるしていた。

「いや、本当になにやってるんだ?」

「音声をONにしてみますね」

「それ音出るのかにゃ!?」

 意外なハイテクさに驚くケットシー。ウロはレーダーの横のボタンを操作して音量を調節する。

 と、ウェルシュとお婆さんの会話が聞こえてきた。


『孫が尋ねてくるのは何年ぶりかねぇ』

『……あの、ウェルシュはお孫さんではありません』

『お煎餅食べるかい?』

『……いただきます!』


 餌付けされていた。

「あの腐れ火竜、目的忘れてなに耄碌ババアと寛いでんですか!?」

「ていうか、この遊園地のスタッフがみんなお年寄りってどういうことなんだ?」

「近所の人じゃにゃあか?」

 近所と言っても五キロ先に数件民家がある程度だったはずである。ただバスはここで終点ではなかったので、もっと近くに集落があるのかもしれない。

「どんな事情があろうとあたしたちには関係ありませんよ。腐れ火竜は放っておいて別の光点を見てみましょう。ポチポチポチっと」

 ウロはレーダーの画面を切り替え、ウェルシュだった光点と対角側に位置する別の光点をタップする。

「あちゃー、こっちが山田でしたか」

 画面には薄暗い建物内を一人で歩く和服姿の幼女が映っていた。


『クックック。木を隠すには森の中。要石などという怪しい物ならこういう場所にあるはずだ』


 音声がONになったままのため、山田の自信有り気な独り言が聞こえてきた。

「ここは……雰囲気からしてお化け屋敷か?」

「意外と真面目に探してますね。山田のくせに」

 だが残念。ウロのレーダーが正しければそこに他の魔力原は存在しない。


『うらめしや~』

『わひゃっ!? お。己。そんなところからいきなり出てくるでない! よくもこの吾を脅かしてくれたな! こうしてくれる!』

 白布を纏ったテンプレなオバケの人形に体当たりする山田。だがオバケ人形はビクともせず、逆に山田の方が弾き飛ばされた。

『おおう……痛い』

『うらめし――』

 ポロリ。

 山田の一撃が実は効いていたのか、オンボロだったオバケ人形の首が取れた。それから首は山田のすぐ傍まで転がり――

『ふぇ?』

『うらめしドッカァーン!?』

 盛大に爆発した。それはもうオバケ人形の口から『ドッカァーン!?』って言うほどの勢いだった。そういう仕様だったのかもしれない。確かにこれは紘也でも驚く。

 爆発はド派手だったが火力はなかったようで、山田は五体満足のまま爆風で少し転がっただけだった。

『きゅぴ~』

 目を回して気絶していたが……。


「まあ山田も放置でいいでしょう」

「そうだな」

「おみゃあら本当に悪魔だにゃ……」

 話は戻って、三つの光点のうち二つが本当にウェルシュと山田だった。となれば残る一つの光点が要石だという推測も信憑性が増す。

「ウロ、最後の一つを」

「わかってますって。ポチポチポチッとポチっとな」

 ウロが画面の切り替えからズーム、リアルタイム映像の表示までを手慣れた動作で行う。すると全体的に青っぽい映像が画面に表示された。

「お?」

「これは?」

「どこにゃ?」

 三人で首を傾げる。画面には確かに要石と思われる注連縄が巻かれた巨石があった。だが、周囲は遊園地のどこでもない。というか、地上ではない・・・・・・

 画面は水中だった。要石の周囲には小魚が集まり、海藻が穏やかな水流に揺れている。

「海の底かにゃ?」

「いや」

 ケットシーの予想を否定し、紘也はパンフレットの案内図を見て確信する。


「要石の場所は、人工海水湖の湖底だ」


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