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天井裏のウロボロス  作者: 夙多史
Volume-04
138/228

Section2-3 ブルーオーシャンワールド

 ブルーオーシャンワールド。

 蒼谷市から特急列車を乗り継いで約三時間半、鈍行列車を乗り継いで約二時間、バスを乗り継いで約一時間半という長旅の果てにある、日本でも有数の敷地面積を誇る大型アミューズメントパークである。名前の通り海――太平洋に面しており、夏真っ盛りの現在は広々とした白砂のビーチも解放されている。絶叫マシンを筆頭としたアトラクションでは海水を利用したものも多い、とパンフレットに書いてあった。

 広い敷地に豊富で個性的なアトラクション、美しい砂浜のビーチとくれば、夏休みということも相まって数多くの来場客が――――いなかった。

「……」

「……」

「……」

《……》

「……」

 入場口を抜けた先で、紘也たちはその静謐な解放感溢れる空間に言葉を失っていた。海の近くなのに乾いた風が吹いて草の塊がカラカラと前を転がり過ぎていく。

 よくよく見れば建物やアトラクションは老朽化が進んでいて今にも主柱がポッキリ逝きそうである。地面はタイルの隙間という隙間から雑草が伸び放題。そこら辺に落ちていたジュースの空き缶を拾ってみると、賞味期限が十年前だった。

 現在稼働していることが不思議なくらいの廃れっぷりである。

「ケットシーさんや」

「……はい、にゃ」

 ウロがプルプルと震えながら言い出しっぺに質問する。

「なんですか、ここは?」

「遊園地にゃん♪」

 きゃるるんぱ、と冷や汗をかきつつもケットシーは全力の作り笑顔を咲かせた。瞬間、ブチリとウロの額から変な音が聞こえた。

「んなわきゃねーでしょう廃園まっしぐらどころか一週しちゃった感じの廃墟そのものじゃあないですかなにリアントパークですかここは魔法の国にでも繋がってんですか喰われたいんですかああん!?」

「ふにゃあぁあっ!? みゃあもこんにゃ場所だにゃんて知らにゃかったにゃだから嚙みつくにゃぁあっ!?」

「……ちょっと楽しみにしていたウェルシュの期待は絶望と怨恨に変わりました」

「やめるにゃウェルシュ・ドラゴン!? 絶対『ちょっと』じゃにゃいにゃ!? その炎はシャレににゃらにゃいにゃ!?」

《おい。この案内本に載っている際どい衣装を着た人間の雌たちがいないぞ。さては己。吾を騙したな?》

「てい」

《ぎゃあああ額に爪がっっっ!?》

 紘也の契約幻獣たちからこっぴどく制裁を受けるケットシー。息も切れ切れに地面をのたうち回される。なお、山田だけしっかり返り討ちにあった模様。

 そろそろ紘也の助け舟が必要だろう。

「落ち着けお前ら。別に遊びに来たわけじゃないんだぞ」

「え?」

「……え?」

「にゃ?」

「よーし、ウロとウェルシュはともかくなんであんたが疑問形なのか『ご主人』『忘れて』『遊びたかった』という三ワードを含めて一文で説明しろ」

「ご主人のことすっかり忘れて遊びたかったにゃ」

「処刑」

「酷過ぎる誘導尋問にゃ!?」

 愕然とするケットシーの処刑はウロたちに任せておき、紘也は少し遊園地(?)の中を散策してみることにした。後ろから断末魔じみた叫び声が断続的に聞こえる気がするが、きっとアトラクションの演出だろう。

 本当に人がいない。紘也たちがこうして入園できた以上、休園日というわけでもあるまい。なのに客は紘也たち以外には見当たらないし、それぞれのアトラクションには遊園地のスタッフと思しきお年寄りが一人ずつしかいなかった。しかも紘也たちに気づいていないのか、椅子に座ったままボケーッとして動く気配がない。

「紘也くん紘也くん、やっぱりなんか変ですよ。何者かに妙な風景を見せられているんじゃあないですか?」

 ウロがボロ雑巾を引っ提げて駆け寄ってきた。しかし汚いボロ雑巾だ。そんなものを持ち出してなにがしたいのだろうこの蛇は。

「……うにゃあぁ」

 よく見たらケットシーだった。気のせいか、紘也にはその姿がモザイクがかって見える。なにをどうすればここまでボロ雑巾になるのか気になったが、知らぬが花ということでスルーする。

「それはないだろ。魔術が使われていたら流石にわかる。俺がわからなくてもお前らなら絶対感知できるはずだ」

「オゥ! 信頼してくれてるんですね! イエス! 確かに魔術は使われていません。ウロボロスさんのサイドエフェクトがそう言ってます」

 界境を防衛していそうな知覚能力だった。

「まあ、ここがどうして稼働しているのかはどうでもいいが、人がいないのは間違いなく立地だな」

「あー……凄まじい田舎ですもんね、ここ」

「『田舎』とすら呼べないな」

 特急列車を乗り継いで約三時間半、鈍行列車を乗り継いで約二時間、バスを乗り継いで約一時間半。その気が遠くなるほどの乗り継ぎと時間をかけて辿り着いた果ては本当に『果て』だった。

 民家はこのブルーオーシャンワールドから五キロメートルほど離れたところに数件あったきり紘也は見ていない。そもそもバスが二日に一度しか来ないとか終わっている。つまりバスで来てバスで帰ろうと思ったなら、ブルーオーシャンワールド内のホテルに一泊することは必定である。

「で、ウェルシュと山田はどうした?」

「広過ぎるから手分けして要石を探そうってことになりまして、それぞれ心の赴くままに散策していると思いますよ」

「要石がどんな形なのかわかってんのか?」

「……」

「……」

「……あっ」

 今気づいた。ウロボロスはそんな顔をしていた。

「おい」

「いや、いやいや、形がわからなくても強力な封印ですから見ればわかるかと」

 それもそうではあるが、手掛かりもなく闇雲に探すには些か広過ぎる。なにせ日本有数の敷地面積を持つと豪語しているテーマパークなのだ。なんという無駄。

 紘也はボロ雑巾、もといケットシーを指差す。

「そいつに訊くのが一番早いがな」

「叩き起こしますか?」

「トドメ刺すことになりそうだから、目が覚めるまで適当にぶらつくか」

「オゥ!? これはもしや紘也くんとデートって展開になるんじゃあないですか!? お手て繋いでキャッキャウフフ。場所は最悪ですけど」

「ウロはあっちのエリアを、俺はここのエリア担当な」

「ですよねー」

 妄言を無視して役割分担を告げると、ウロは涙を滂沱のごとく流しながら両手を地面につけるのだった。


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