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第一話 臆病者の混乱







そもそもいきなり逃げたのがいけなかった。

もしだれかを殺すことになったとしても、あの瞬間に戻れるのなら戻りたい。

恐怖に震える体を押さえつけるように、ゆうは滝のように流れる涙を気にする余裕もなく膝を体に近付けて一層縮こまりながら思った。








ゆうがここ、イヴァニエナに召喚されたのは20日程前のことだ。

神聖イヴァニエナ共和国は、君主ヴィクトール・イヴァニエナが統治する異世界の部族国家だ。

この20日で分かったことは、イヴァニエナには魔法があること、騎士と王様がいること、呪いが存在すること、そしてゆうが異世界から召喚されたこと、

そして最悪なのは、どうやらゆうはこれから殺されるだろうということだった。



森嶋ゆうは臆病だった。

頭が悪いわけでも、性格が悪いわけでもなかったが、何より箱入りのお嬢様育ちであって、

それが元々の小心者で臆病な性格に拍車をかけた。

正確にはその気性が正される機会を与えられなかったとも言える。

森嶋家は歴史の教科書まで遡れば有名な家系で、代々医学を生業としていた。

つまり由緒正しき御典医の家系であって、ゆうはその7人家族の末っ子として生まれ育った。

近所の子にはやしたてられれば、家に逃げ帰って部屋で3日はめそめそし、

柵越しに犬に吠えられただけで、下校する道を変えて30分余計に歩き続け、

トイレの花子さんを本気で怖がり、小学校で行われる合宿に行きたくないと泣いて箪笥にしがみつく12歳の我が子に、

森嶋家の両親と兄弟は、ほとほと呆れた表情を見せ合い、

途中でその性格を矯正することを諦めた(中には諦めきれなかったものもいたが)。

そしてなるべく、荒事の無い世界で生きればいいと一貫教育の学校にゆうを入れた。

そのまま20歳まですくすく育ったのが森嶋ゆうだった。

森嶋ゆうは小心で、優しい箱入り娘だった。

少しばかり頭が良く以外にも好奇心旺盛な一面もある努力家だったが、

その全ての注釈を上回るほどに、とてつもない臆病者だった。





話は20日前にさかのぼる、とある事情からとある高台から飛び降りた森嶋ゆうは気づけば見知らぬ豪華な豪華な石造りの建物の中にいた。神殿の聖なる泉の中だったらしいが、仔細は知らない。

泉と言ってもゆうはなぜか濡れていなかったし、目の前には指輪物語もまっさおのローブを着た魔法使いと、鎧をつけた貴公子風の人と、聖女めいた銀色のドレスを着た女の人と、今思えば王様だった威厳のあるが若い男の人と、その他何人かの人間がいた。


「なんで、枯れたはずの泉から召喚が成功するんだ!」

「これは吉兆と出るか、それとも・・・なんにせよ素晴らしい魔術の成功ですね」

「まさか、そんな・・・」


神殿の小さな中庭にできたくぼみ、これを聖なる泉というらしいがそこに倒れるゆうは意味が分からなかった。分からなくって、気絶したかった、そして目が覚めたかった。

そんなゆうにおかまいなしに魔法使い風の男の人と、王様風な人と貴公子風の人が、ざわざわと言い争っている。

ゆうは空気に敏い、臆病者ゆえ場の空気に敏感なのだ、そして瞬時にここではおそらく歓迎されていないと悟った。そして気絶したくなった。

目の前にいる人たちが自分を歓迎していない、そして自分がどこにいるか分からない、しかも尋常じゃなく分からない。箱入り娘のゆうにとって人生最悪の瞬間だった。少なくとも、そのときはそう感じた。


まっさおな顔色に気付いたのだろう、貴公子風の人がゆうに近づいてそして下半身を今だ地に投げだして起き上がることも忘れたように肘をつくゆうの目の前で膝をついた。

「お初お目にかかります、ドレーク・サイゼライと申します。異世界から参られた姫君」

そう言って微笑とともに手を差し出した。隠しきれなかったほんの少しのぎこちさのある、けれども優しげな笑みを浮かべたその顔は、肩までの金色の髪の毛にふちどられ、なんというかまるっきりヴォーグのモデルのような優男風の美男子だった。細面に、アーモンド形のブルーの瞳、優美な眉に、細く柔らかく整った鼻梁。一ミリのぜい肉もついていない、美しい顎。

そんな花のかんばせにゆうは、怯えた。尋常じゃないことが起こっている、と悩がサイレンをならしたからだ。

さっきまで日本の片田舎にいたのにいまはどこぞの神殿の中庭にいて、モデルみたいな美形の外人騎士があいさつをしているなんて!!!おかしい!!!絶対におかしい!!!と。


そしてそのまま気絶したのだった。





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