食玩のおまけを目指します!
お菓子についてくる玩具。
欲しいのはお菓子ではなく、おまけ。
そんな、誰かに欲しいと思ってもらえるおまけを目指していこう―――
豪華な馬車のソファの上、ふっかふかのクッションに埋もれてそう決意した今日この頃。
目の前にはハフュナシア王国の第一王子と第二王子に挟まれてティータイムを楽しんでいる女性がいる。
長く艶やかな黒い髪と知性に輝く黒い目をした、すらっとした感じの和風美人。
黒いタイツと赤いラインの入った冬用の黒いセーラー服を着た唯ヶ丘高校2年の桜川 清乃さん。
実家は地元でも有名な由緒正しき神社で、本人は巫女さんである。
そんな巫女属性ばりばりの彼女が異世界に召喚されてやることといえばもちろん 巫 女。
巫女パワーでの回復魔法と防御魔法が得意分野で、魔王を弱らせることができる特別な魔法が使えるこの世界にただ一人の存在。
つまり、彼女は必要とされて召喚されたわけである。
私はといえば桜川さんと同じ制服を着てるだけの、小柄で地味なうえ名前も木下 桃子なんていう平凡で特徴のない高校2年生。
特技はどこでも眠れること。まぁこんな特技、勇者のパーティには必要ないよね。
そんな雲泥の差がある桜川さんと私との接点なんて微塵もなく、召喚された瞬間ただ単に下校時刻が重なって隣にいただけだった。
召喚されたときに見た、王様たちの戸惑った顔は今でも思い出せる。
ささっと二人の顔を見比べ、私を無視して笑顔で桜川さんの方へ集まっていく中世ヨーロッパの王侯貴族のような煌びやかな男たちと魔法使い風なおじいさんに、召喚された驚きや恐怖よりも呆れの方が強かった。
始まりからしてそんな私には何の力もないのか、期待されていないのが明らかな扱いだった。
期待されてないならされてないで構わなかったんだけど、これから桜川さんが勇者たちとの危険な旅をしていく間おまけが安全なところでのうのうとしていることが我慢ならなかったらしい王様が素晴らしいご提案をなさってくれました。
与えられたのは巫女の従者という役目で、やることは荷物持ちと巫女様のお世話だった。
桜川さんは頑として断ったらしいけど、桜川さんのいないところで王様王子様はじめ桜川さんの取り巻きたちに脅し半分、いや脅し十割で迫られてチキンな私は断り切れなかった。
最終的に、何らかの理由をつけて国から身一つで追い出すと言われたら、お金もないうえ魔法で言葉が通じてる身としては頷くしかなかったと思う。
決まったことを知った桜川さんは、そんなのしてくれなくていいからね?って優しく言ってくれたけど、桜川さんの後ろにいる人たちは見逃してくれそうになかったし、それに一晩眠って気づいたのは桜川さんと一緒にいるほうが元の世界に帰れる可能性が高いかもしれないということ。
なんてったって生粋の巫女さんなんだから。
あとはあんなところに一人はちょっと、ね。
そもそもあんなところで私を気に掛けてくれたのは桜川さんだけだった。
でも、細くてモデルみたいに背の高い桜川さんの隣に並ぶと、高さとか横幅の差が強調される気がしていつの間にか間隔をあける癖がついてしまっていた。
それを不思議そうにしていた桜川さんは鈍感なのか、何かの遊びのように隙をみては近づいてくるようになってしまっておちおち余所見もできなくなったのは誤算だ。
そのおかげで毎日のティータイムにも参加するはめになって、現在も王子二人には冷たい視線を見舞われている。
ただ、この旅で一つ救われたのは勇者さんたちまでもが露骨ではなかったこと。
役に立たない私より桜川さんを優先するけど、同情もされている、そんな感じ。
ふと、召喚される直前のことを思い出した。
傘を持ってなくて、小雨が止むのをぼんやり待ってた。
隣に立った桜川さんに、傘ないの?って聞かれたあの時。
見上げた桜川さんは雨が好きなのか、どことなく嬉しそうだった。
「桃?どうしたの?」
はっとカップから視線を上げると、心配そうに見つめてくる桜川さんと目が合った。
「うううん、何でもないよ。少し、思い返していただけ。」
またカップに視線を落としてカップの縁を親指の腹で軽く擦る。
「・・・ねぇ、桃。もう少しで魔王との戦いになると思うけど、桃は待ってた方がいいと思う。」
真剣な表情を浮かべる桜川さんを見つめたまま、ぎゅっと持った私のカップはかなりぬるくなっていた。
「キヨノ、それはできないよ。従者の務めとして彼女も最後まで連れて行くんだ。」
「そうです。キヨノはこの世界に一人しかいない、貴重で大切な人なんですよ?」
暗に桜川さんが危なくなったら従者を盾にする気満々と受け取れるんですが・・・
私の気のせいではないらしい意味に、両側から王子二人に諭されていた桜川さんのこめかみに青筋が浮かんだ。
ふっと笑って音も無くカップをソーサーに戻し、ゆっくりとソファに凭れかかって腕を組んだ姿はまるで魔王(見たことはないけど)みたいだった。
「それなら、私にとって桃がそうなんですよ?」
先ほどの王子たちよりもさらに冷たい、凍りつくような視線で見つめられた二人が瞬時に固まる。
「何度も申し上げたはずですが、つまりその頭は飾りだったのですね?」
そこで解凍に成功した第二王子が高さに余裕のある馬車の中で立ち上がった。
「でっ、ですが貴女の価値は彼女とは・・・!」
回復魔法と防御魔法が得意分野というだけで、桜川さんはそれ以外も使える。
恐ろしいことに巫女パワーでの攻撃魔法はこのパーティの魔法使いさんを越えるくらいあり、それを知ってるのは見せてもらったことがある私だけだった。
その中でも第二王子の喉元に漂う黒い霧は桜川さんの独自魔法で、戒めの鎖というとても素敵な名前を持っている。
この魔法は体ならどんなところでも封じることができるすぐれもので使われた身としては合掌したくなるものだった。
「しばらく黙っててくれる?」
桜川さんがそう言って一瞥すると、黒い霧が集まって第二王子の首に巻きつき一本の黒い線になった。
口をぱくぱくしている第二王子から声は聞こえない。
何が起きたかわかっていない第二王子は口を押さえて第一王子と桜川さんを交互に見ている。
せっかく解凍できた第一王子も、それを見て再び固まっていた。
魔王館に入る前の晩、みんなを気絶させた桜川さんに大切なことを聞かされた。
それは、少し前から薄々わかっていたことだった。
膝下まである黒い冬用セーラー服を着たキヨは魔王ではなく、古い洋館の奥で対峙した本物の魔王は絶対インドア派であろう真っ白な肌に赤い目をした銀髪の貴公子だった。
「覚悟しろ魔王!今日で終わりにしてやるぜっ!」
「世界の平和のために!」
「ほう?話し合いもせぬうちに剣を抜くとは、人間とは野蛮だな。」
嘲るような笑みを浮かべ、小さな動作で勇者のパーティから王子たち、キヨとその隣に立つ私を眺め回して魔王は言った。
「平和が欲しいならくれてやろう。ただし、そこの小さい方の女を寄越せ。」
「断る。」
ぴしゃりと即座に断ったのは勇者でもパーティのみんなでもなく、もちろん二人の王子でもない。
腕組みをしたキヨだった。
「そうだね、世界の平和と比べるまでもない。彼女で手を打ってくれるというなら彼女を渡して・・・え?」
魔法使いのクリャスがキヨを振り返る。
理知的なハンサムも今はぽかんとした顔になっている。
みんな似たような顔をしている中で、キヨ一人だけが魔王と睨み合っていた。
「見たところ人間の女のようだが・・・貴様、男か?」
「だいせーかい。」
キヨが唇の端を上げて言ったその言葉に、魔王以外のみんなの顔色が変わる。
奇妙な顔になったみんなを見て、私がキヨのことに気づいたときはそんなに驚かなかったのを思い出した。
「ふぅむ、人間のやることはわからんな。何故そのような格好をする?」
「単に親の方針だよ。おかげでこの世界に召喚されたときもこの姿だったせいで面白いくらい間違われたけどね。ま、そこは桃に悪い虫がつかなくて助かったよ。」
そう言って皮肉げに微笑み、呆然とした王子たちをはじめ武器を取り落とした勇者たちも順に見回してからまた魔王に向き直る。
同じく見回していた魔王が一つ頷いた。
「見る目がないというのは憐れだな。だがどうする?こんなところでやつらに知られては国に帰りにくいのではないか?」
「それはまぁ・・・でも元の世界に帰れないってことは調べがついてるし、これから桃と二人で住むところでも探すよ。」
「そうか、なら此処に住むというのはどうだ。この館、部屋数なら腐るほどあるからな。」
「・・・素晴らしい提案だが桃はやらんぞ。」
「それは、どうかな?」
しばらくお互いを見合って同時にふっと笑う。
心の友でも見つけたみたいな二人はこっちへ置いとくとして、帰れないことは初めて聞いたんですけど・・・?
こうして唯一魔王に対する切り札を持ってたキヨが魔王側についたことで人間側の勝率は0になり、その後魔王と人間、双方無闇に干渉しないと約束して勇者たちは放心状態の王子たちを引き摺って帰って行った。
食玩のおまけを目指して手に入れたのは、お菓子と外箱だった。