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再会系が好きすぎるので、一週間の旅行から戻ってきた幼馴染を「ずっと会いたかった」と抱きしめた

掲載日:2026/07/21

「久しぶり、だな」

「……はい?」


 旅行帰りの幼馴染を熱く抱擁する俺と、拍子抜けした声を上げる幼馴染。


 そんな玄関前での一場面から、俺の1日はスタートした。

 こうなった原因は、前日の俺にある。


◆


「再会系幼馴染って、最高だ!」


 一人きりの部屋で、雄叫びを上げる。


 目の前にあるパソコンからは優しげなメロディのエンドロールが流れている。俺・久遠(くおん)はたった今、ギャルゲーの再会系幼馴染ルートをプレイしていた。


 スタート画面に戻る所まで見届けて、ヘッドホンを外す。自慢の黒髪は感動と興奮でぐっしょりだった。後で風呂入らなきゃ。


 いやー、やっぱりいいね。再会系は。何年もかけて熟成される想い。会えない時間が育む愛。これらのなんと尊いことか。

 早く18歳になりてぇ!と思いつつ、ちゃんとそういうシーン抜きの移植版で我慢する俺って偉い。褒美に再会系幼馴染を恵んでください。


 俺にも幼馴染がいるにはいる。だが、彼女は再会系とは正反対なのである。ん、幼馴染がいるだけで勝ち組だろうという声が聞こえますね。その通り、俺は勝ち組です。

 なんせ俺の幼馴染である密奈(みつな)は俺とガチガチの腐れ縁なのだから。もはやね、家族より家族。しかも、なんと、めちゃくちゃ美人。そんな子と毎日を過ごせる俺が勝ち組でないわけがない。家族のようにしか見れないとかもない。毎日意識しっぱなしよ。

 で、ここからは贅沢な悩み。問題は、密奈と俺がずっと一緒にいることだ。密奈と俺の間に「会えない時間が育む愛」なんてものが生まれる隙がないのである。一度引っ越しをするかもしれないみたいな話が出たことがあるが、結局密奈だけこの街に残った。もしあそこで引越しをしていたら、今頃密奈は再会系幼馴染だったのかもしれない。だがそうはならなかった。


 そこで、俺はギャルゲーに手を出した。大好きな「再会系幼馴染」のカタルシスを味わうために。とはいえ流石にミッちゃん——あ密奈のことね——がいるところでやるわけにはいかない。そして、ちょうど今ミッちゃんは一週間の旅行に行っている。鬼の居ぬ間に洗濯、幼馴染の居ぬ間にギャルゲーということで、俺は今積みゲーを引っ張り出している真っ最中というわけだ。


 ん? 一週間の旅行?

 俺とミッちゃんがこんなに離れたことが、これまであっただろうか?


 ……今のは反語だ。つまり、俺は今人生で一番ミッちゃんと離れ離れなのである。まぁ明日帰ってくるんですが。でも一週間って十分長いよね? セミなら死んでるよ?

 男子三日会わざれば刮目(かつもく)して見よと言うが、それの倍以上の期間なのだ。ミッちゃんがすっかり別人になっていてもおかしくはない。


 そっかぁ、今のミッちゃんは再会系幼馴染なんだ。移植版で我慢していた俺へのご褒美はミッちゃん自身だったのね。

 

 こうしちゃいられない。明日この街に戻ってくる再会系幼馴染(ミッ)ちゃんをしっかりと歓迎しなきゃならないからな。


 俺はルンルン気分で次の日を迎えた。


◆


「ただいま。流石に一週間は疲れるわね」


 朝一番に家に鳴り響くチャイム。俺は階段を五段飛ばしで降り、玄関を開ける。

 そこにいたのは、紛れもない美少女だった。

 赤みがかった髪をサラリと伸ばし、ぱっちりとした目に血色の良い唇。少し日に焼けたかな? うん、ミッちゃんはいつも通り可愛い。


 気だるげに語りかけてくるミッちゃんに対し、俺は目を見開いた。


「もしかして……ミッちゃん、なのか?」

「はい? え、私なんか変? 臭い?」

「その声は……。本当に、ミッちゃんなんだな」

「ほんと何? どした?」

「ずっと……会いたかった」

「ひゃぁっ!?」


 目の前に、長い間会っていなかった幼馴染がいる。再会系の、幼馴染がいる。

 そんな胸の昂りが、俺を突き動かす。


 気づけば、ミッちゃんのことを抱き寄せていた。


「え、ええそれは私もよ。でも流石に大袈裟じゃない?」

「大袈裟なもんか」


 抱きついたまま、大きく息を吸い込む。知らないシャンプーの香りと、よく知る幼馴染の匂いが、肺いっぱいに広がった。


「久しぶり、だな」

「……はい?」


 ミッちゃんは困惑を隠せない様子。


「まぁ、一週間ぶりね。なに、そんなに寂しかったの?」

「君のことを考えない日なんてなかった」

「そ、そう……」


 ミッちゃんを解放し、両肩に手を添える。ミッちゃんは口元に手を当て耳を真っ赤にしていた。髪の毛よりずっと赤みがかってる。


 ……なんか、ちょっと違う気がする。感情が乗りすぎて、再会系幼馴染というより離別した妻との再会みたいになってしまった。

 レーンから外れてしまった。マリカならジュゲムに引き上げられるやつだ。


「俺のこと、覚えてるか?」

「は? バカにしてる? 久遠でしょうが」


 涙ぐみながら、ミッちゃんに問いかける。これでなんとか軌道修正できたかな。ジュゲムに3コイン捧げねば。


「にしても、大きくなったな」

「バカにしてるでしょ?」

「子供の頃は男の子みたいだったのに」

「やっぱバカにしてるわよね?」


 ミッちゃんが中性的イケメンだった時代を思い出す。まぁ当時から可愛かったんですけどね。あの頃は男女からモテモテで大変だったよ。なんだかんだ俺とばっかり遊んでくれてたから助かったが。


「まさかこんなに可愛くなるなんてな」

「バカ!」


 昔も可愛かったが、今のミッちゃんはもっと可愛い。色々と成長し、髪も伸ばし、女の子としての魅力が飛び抜けるようになった。


「ずっとバカなこと言ってるなら私もう帰るわよ」


 過去のミッちゃんに思いを馳せていたが、現実のミッちゃんの声で我に返る。

 いかんいかん、再会系幼馴染において大事なのは「今を大事にする」ことだ。


「そうだ! この街を案内してやるよ」


 置いた荷物を取ろうとしていたミッちゃんの手が止まる。


「つまり、デートってこと?」

「そういうこと」

「……付き合ってあげてもいいけど。多分久遠より知り尽くしてるわよ」


 一週間で何か変わったの?と当然の疑問を呟きながら、ミッちゃんは俺の身支度を待ってくれた。たまに前髪をいじって首を傾げていたけど、どんな髪型でも可愛いよミッちゃん。


 右手に荷物を持ち、左手でミッちゃんの手を取って外へと繰り出す。この荷物、思ったより重い。さてはキャリーケースだけ置いてすぐうちに来たなこの子。


「大丈夫? 重いでしょそれ」

「二人の思い出に比べればどうってことないさ」

「何と比べてるのよ」


 家を出て隣は今は借家になっている。ミッちゃんは昔この家に住んでいたが、彼女の両親が引っ越してからは祖父母の家に住むこととなった。まぁその家も二軒隣なんですけどね。


 そっちとは逆方向に進んでいくと、公園が見えてくる。

 最低限の遊具が揃った、小さな公園である。


「懐かしいな。そこのベンチに座ってよくアイス食べたよな」

「先週もここで食べたでしょうが。もっと昔の話しなさいよ。例えば——」


 ミッちゃんは俺の手を引いて公園の中心へと移動した。


「あそこの木に登った久遠が上にいた蛇にビックリして転げ落ちた話とか。そこのシーソーでスイカを割れないか実験して、砂だらけのスイカを持って帰った久遠がこっぴどく怒られた話とか。あのブランコからジャンプした久遠が股間を盛大に打った話とか。そういう話をしなさいよ」

「……よく覚えてるな」


 ミッちゃんは遊具を一つ一つ指差しながら、俺が忘れたい黒歴史の数々を暴露していった。最後のやつとか聞いただけで股の辺りがジンジンしてくる。


「当然よ。何年一緒にいると思ってるの」


 えっへん、と言いたげなミッちゃんは勢いそのまま滑り台に向かって掛けて行った。

 階段を一足で上がり、滑り始める。子供用の滑り台に女子高生の体格はそぐわず、一瞬で地面に到着していた。


「あんなに楽しかった滑り台も、今見るとすごい小さいよな」

「その話何回目よ」

「今度大きな滑り台がある公園にでも行くか」

「その話も前したし、実際行った。まぁまたあそこ行くのも悪くないわね」


 将来の話をするミッちゃんは心なしか楽しそうだ。


「で、次はどこ行くの?」

「え、いやだから大きな公園に」

「そうじゃなくて、今からよ」

「ああ、なら駄菓子屋に行こうか」

「え、でもあそこって——」


 何か言いかけていたミッちゃんの手を取り、そのまま駄菓子屋へと向かう。

 駄菓子屋というより、正確には——


「やっぱり潰れてるじゃない」


 駄菓子屋跡地。小さい頃よく通っていた店だが、公園近くにできたコンビニの余波を受け、なくなってしまった。


「そう、残念ながらもうないんだ」

「一週間のうちに営業再開でもしたのかと思ったわ。期待して損した」


 ミッちゃんはガックリと肩を落とす。だが、これこそ再会系幼馴染の醍醐味。

 小さい頃の街と今の街は、すっかり様変わりしているのだ。

 ……まぁミッちゃんはどっちの街も知ってるんだけどさ。


「駄菓子屋は無くなっちゃったけどさ、あの頃の思い出は俺たちの中にずっとあるんだ」

「それはそうだけど……」


 再会系幼馴染の醍醐味の一つ。外見が変わっても、どれだけ離れた時間が長くても、過去の思い出が二人を結びつける。今はない駄菓子屋に昔の姿を重ねるのもまた、再会系幼馴染である。


「何、それが言いたくてここまで来たの?」

「そうだけど」

「私たちが通(かよ)った長さで言ったらもうコンビニの方が上よ」

「でも、コンビニは今もあるだろ。懐かしくないか?」

「そりゃあ懐かしいわよ。だってここが潰れてから7年9ヶ月23日くらい経ってるもの」

「もうそんなにか」


 あとなんでそんなに具体的なんだ。


「今あるものより、無くなったものの方が大事?」

「そうじゃなくて、この建物を見て駄菓子屋を思い出せるのが素敵だなって話をだな」

「なに? 今日は懐かしい場所巡りでもしたいわけ?」

「ああ。俺はミッちゃんに今の街を知ってほしいんだ」

「さっきから何なのよそれ」

「次の場所行こうか」


 またミッちゃんの手を引き、次へ向かう。

 そういえば、まだあれをやっていなかった。


「なぁ、また『ミッちゃん』って呼んでもいいか?」

「何の確認よ。それ以外の呼び方したことないでしょうが」


 昨日のLINEでもそうだった、とミッちゃんは口を尖らせる。ごめんミッちゃん、その通りなんだ。でも、この問答を避けては通れない。

 一度疎遠になった幼馴染は、大抵名字呼びに変わってしまう。その二人が明確に昔の距離を取り戻すきっかけこそ、「昔の呼び方」なのである。俺とミッちゃんは確かに呼び方を変えたことがない。でもこのやり取りをやっておくことに越したことはないはずだ。


「俺のことも昔みたいに久遠って呼んでくれ」

「それ以外の呼び方なんてしたことありませんが?」


 やばいミッちゃんちょっとキレてる。どうしよ。話を逸らさないと。

 話題……話題……。再会幼馴染との話題……。よし、これだ。


「ミッちゃん、向こうにいた時は何してたんだ?」

「ん? 旅行の話? まぁそこそこは楽しかったわよ」


 二人が離れていた期間、何をしていたのか。それを二人で語り合うことにより、会わなかった時間は自然と二人の知る時間に溶け込んでいく。


「こんなに遠出したことなかったからちょっと怖かったけど、行ってみると案外すぐ一週間経ったわ。女子だけでってことだったから連れて行けなくてごめんなさいね」

「俺はミッちゃんが元気で過ごしていたなら、それでいいから」

「……私がいなかったのって一週間だけよね? こっちでは一年とか経ってないわよね?」

「うん一週間だよ」

「久遠が久遠してるだけ、ってことでいいのよね」


 んな浦島太郎じゃあるまいし。俺を吊り上げるのは亀は亀でもジュゲムだからな。正確にはマリオを、か。


「私、久遠とそんなに離れていたつもりないんだけど」


 そうしてミッちゃんからため息をつかれながら、様々な思い出の地を巡っていった。


 俺が昔の話をするたび、ミッちゃんは懐かしいわね、と零して深窓の令嬢みたいな顔をしていた。そしてその口からは細かな補足情報が垂れ流される。その三分の一くらいは言われれば思い出せるレベルで、三分の一はマジで覚えてなくて、残りはなんでそんなの覚えられるんだよ、という感じだった。


 そうして歩き回り、最後の目的地。林を抜けた先にある大きな一本杉の下は、俺たちの秘密基地だった。


「ここ来るの、何年振りだろうな」


 懐かしい。最後に来たのは小学生の頃だったかな。その頃はまだ俺もミッちゃんもやんちゃ盛りの少年少女。今とは似ても似つかない。


「俺たちは変わったけど、ここはずっと変わらないんだな」


 杉の木は、今も変わらず俺とミッちゃんを見下ろしていた。


「……私は今も何度か来てるわよ」

「そうなの!?」


 驚いた。何の用もないはずなのに。


「私、久遠よりよっぽど大事にしてるから。思い出」


 ん? ミッちゃんちょっと目が怖いよ?


「私、あの頃から何かが変わったなんて思ってないから」


 ミッちゃんの声のトーンが、だんだんと上擦っていく。


「私にとってこの場所は『昔の思い出』なんかじゃないから。確かに懐かしくはあるわよ。でも、それ以上に、私と久遠は同じ時間を一緒に過ごしているはず!」


 ……どうやら、俺はミッちゃんを怒らせたようだ。でも、何がここまで怒らせたのか。不甲斐ないことに、肝心なことが分からない。


「だから、私にとって『過去』も『今』も全部一緒なの! 同じくらい大切なの!」

「ごめん、つまりどういうことだ?」

「……ごめんなさい。ちょっと言いたいこと整理するわ」


 ミッちゃんはそう告げると、大きく深呼吸した。


「私、今日なぜかずっとモヤモヤしてたの。それが、さっきの発言でハッキリした。久遠、あなたは『昔の思い出』と『今の私たち』を別々にしようとしてるのね。でも私は、そうは思わない。思いたくない。だって、久遠とずっと一緒にいたからこそ今の私があるんだから。私たちって仲良くなかった時間がないはず。私が知っている久遠は昔も今も同じ久遠だし、久遠の知っている私もずっと同じ私のはず。それが、別々だよって突きつけられるの、とーってもムカムカする」


 俺は今日、ミッちゃんのことを「旅行に行く前」と「旅行に行った後」で分けようとしていた。その二面性が再会系幼馴染の醍醐味だから。しかし、ミッちゃんは「俺と一緒に居た時間」を一本の人生として大事にしていたようだ。だから、俺がそれを真っ二つにしようとするのが、許せなかった。

 一本杉に顔はないはずなのに、なぜだか顔を顰められている気がした。


 ミッちゃんは俺が思っていたより、一緒の時間を大切にしていたみたいだ。


「ごめん、俺の我儘に付き合わせちゃって。俺さ、『再会系幼馴染』が好きで——」

「知ってる」

「え?」


 素直に謝ろうとした時、ミッちゃんの口から衝撃の返答を得てしまった。


「何年一緒にいると思ってるの? 久遠が『幼馴染と再会して〜』みたいな話が好きなことくらい知ってるわよ。幼馴染と再会する漫画ばっかり読んで、そういうアニメばっかり見てるのも知ってる! そういうキャラが出てくるゲームをいくつもやってるし、何個か買っただけでまだやれてないのも知ってる! いくつか挙げましょうか? 『思い出抱えて——」

「ちょ、ちょ、ストップ!」


 ……ギャルゲーやってるの、バレてたのかよ。漫画やアニメはまだいいとして、ギャルゲーまで?

 困った、これじゃ18になってもエロゲーやるの控えた方がいいんじゃ……。


 じゃなくて。知ってるなら、今日の俺の動機も分かっているんじゃないか?


 ミッちゃんは一度息を吐き、続きを紡ぐ。


「知ってるけど、やっぱり嫌なの! 久遠が私をその型に当てはめようとしてくるの、嫌なの! だって、私は久遠と疎遠になったことなんてない! お父さんが転勤する時も駄々こねて残ったし! 学校も久遠と同じとこを選んだ! クラスが離れても休み時間はなるべく久遠のとこに行った! 腐れ縁なんかじゃない! 私がそれを選んだの!」

「ミッちゃん……」


 ミッちゃんの言葉が、心臓を貫いた。


 早鐘のように鳴り響く鼓動。痛い、苦しい。でも、どこか温かい。


 俺がたまたまだと思っていたことは、全然たまたまじゃなかった。ミッちゃんは自分から俺のいる街に残り、俺の通う学校に行き、俺と遊び続けてきたらしい。

 腐れ縁じゃない、という叫びが楔のように突き刺さる。ミッちゃんは、流れで俺とずっと一緒にいたわけではなかった。ミッちゃんは、最初からずっと、俺を選んで生きていたのだ。


「ごめん。私今、すっごい我儘なこと言ってる。全部私が勝手にしたことなのに。私の気持ちを久遠に押し付けるつもりなんて、なかったのに」


 ミッちゃんの頬を水滴が伝う。俺はミッちゃんを抱き寄せた。ミッちゃんの我儘は我儘じゃない。俺は、一緒にいようと努力してくれていたミッちゃんに、甘えていただけだったのだから。


「俺のほうこそごめん。俺、ミッちゃんのこと全然知らなかったみたいだ。何年も一緒なのに、バカみたいだ」

「ほんとよ」


 ずずっ、と鼻をすすりながら、ミッちゃんは俺の背にしがみつく。

 

「ミッちゃんの気持ちを無視して、『こんなに長く離れていたの初めてだから』って謎のテンションのまま突っ走ってしまった」

「もう一生旅行なんか行かないもん……」

「ほんとごめん。次は一緒に行こうな」

「もう一生久遠以外と旅行なんか行かないもん……」


 俺が自分勝手なせいで、ミッちゃんを不安にさせてしまった。ミッちゃんは何年もかけて想いを熟成させてきたのに、俺はそれを無視してしまった。

 舞い上がっていた昨日の自分を殴りたい。離れていた時間なんて不要だった。そんなものなくても、ミッちゃんは人生を捧げてまで俺と一緒にいてくれるんだから。再会系のカタルシスに囚われすぎて、一番大切な人がすぐ隣にいること自体が幸せだってことに、気付けなかった。


 思えば、再会系幼馴染でキモとなるのは「一番大切な人がずっと隣にいたことに気づく」ということだ。ミッちゃんはそのことに一度離れるまでもなく気付けていた。対して俺は、こうしてミッちゃんを泣かせて初めて気付く始末。再会系好きが聞いて呆れる。


「今日は俺の我儘に付き合わせちゃったわけだし、次はミッちゃんのわがままを聞くことにするよ」

「なら——」


 俺の胸に抱かれながら、ミッちゃんはキッと目を見据える。髪色がくすんで見えるほど、その目は赤かった。


「一生、一緒にいて」

「もちろん」


 俺は力いっぱいミッちゃんを抱きしめた。


◆


 ミッちゃんの涙が収まるまで、俺たちは抱きしめ合っていた。その間も杉の木はずっと俺たちを見守ってくれていた。


 泣き止んだミッちゃんは顔を真っ赤にして「さっきのは忘れなさい」と俺を睨みつけていた。俺はそれを躱しつつ、ミッちゃんを家に送り返した。


 そして次の日。いつも通り、ミッちゃんが俺の家にやってきた。


「久しぶり、だな。最後に会ったのは確か、昨日の頃だったか」

「流石に無理があるわよ」


 ミッちゃんは怒り通り越して呆れ、という感じのため息を吐いた。


「冗談。ミッちゃんは今も昔もミッちゃんだもんな」

「次そんなこと言ったら久遠の家に転がり込んじゃうから」


 お義母さんから提案されてるんだからね、と釘を刺すミッちゃん。お母さん何言ってくれてんのさ。ミッちゃんに義母と呼ばせていた時点で薄々勘付いてはいたが、あの人俺たちで遊んでやがる。


「いやぁ、それは流石にまだ早いんじゃ……」

「何? 将来的には一緒に住む気だっていうの?」


 ミッちゃんの問いに、俺は胸を張って答える。


「そりゃそうだろ。なんせ一生一緒にいるんだもんな」

「っ! ……忘れなさいって言ったわよね」

「嫌だね。一生忘れてやらない」


 たった一週間でここまで愛が育まれるんだ。俺たちに「再会」はもう不要だろう。






 幼馴染って、いいよな。再会系好きなんですが、それ以上にやっぱり「一途幼馴染」が大好きなんだ。

 幼馴染好きや純愛好きのあなたのために書きました。評価、ブクマ、感想などで「届いたよ」と教えてください。またお届けに上がりますので。


 来週から連載作の更新を再会、いや再開しますのでなにとぞそちらもよろしくお願いします!(作者名から飛んでください) おかげさまで昔は週間5位までは読んでいただけていました。こちらも純愛です。てか純愛しか書かない。

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