【SS】河童の手、故郷へ帰る
シゲオが友達と学校帰りに川でザリガニを釣っていると川下から一人の初老の男がやって来た。そのおじさんはシゲオと目が合うとにっこりと笑って尋ねた。
「こんにちは。つかぬようことを聞くけどもこの辺りに河童の言い伝えはないかな?」
物腰柔らかで優しげなおじさんだったが、何やら謎の縦長の小箱を抱えている。この辺りでは見ない大人に突然声をかけられたのも驚いてシゲオは隣の友達と顔を見合わせた。
郡川は地域の小さく綺麗な川で地元の小学生の格好の遊び場だった。ここでよくザリガニや小魚を釣ったり水遊びをしたりする。安全な浅い川である。河童がいるというのは聞いたことがなかった。友達も同じだったようで二人はそろって首を振った。
若い子には分からないかも知れないなあ。と男は続けた。
「昔、この辺りでかぼちゃを作っていた人がかぼちゃのツルと河童の手を見間違えて、鎌で切ってしまったんだ。何かさわりがあったらいけないから、それ以降この地域ではかぼちゃを育てないと言うことになったんだよ。今でもそうだろう?」
確かにこの地域でかぼちゃを育てている話は聞かない。
「おじさんは河童を探しに来たの?」
シゲオが尋ねると今度はおじさんが少し首を振った。
「いや、実は先日蔵の掃除をしていたら見覚えのない箱が出てきて、開けてみると乾燥した小さな子供の手らしきものが出てきたんだ。それで家族に聞いてみたところ、それは河童の手だと言う。そして私はその河童の手を切ってしまった人のひ孫らしいんだよ。うちでは当初河童の手を大事に保管していたんだけど、その後ここから引越してしまったみたいでね……。つまり証拠の手は引越し先に持って行かれたままにここではただかぼちゃを作ってはいけないという伝説だけが残っているはずと思ったんだ。そうなると来てみたくなってね。伝説があるか知りたかったんだ」
おじさんは優しい目でそう言うと、小箱を抱え直し帽子をあげて会釈をすると川上へと歩いて行った。
何だか不思議なおじさんだったなあ……。
シゲオは帰ってすぐに夕食を準備している母に聞いてみた。
「河童の伝説? 聞いたことないわ」
シゲオは母に先程会ったおじさんの話をした。
「へえ〜そうなのね。確かにここらではかぼちゃは育ててないわね」
「それって河童のせいじゃない?」
二人で話をしていると居間の入り口にかかるビーズ暖簾をくぐって父が現れた。
「この匂い…今日は焼き魚だね。あとママお得意のきゅうりの酢の物にきゅうりのおかか和え……お!塩きゅうりもあるじゃないか。今日はご馳走だねえ」
「パパ! あのね」
シゲオは今日あったことを父にも話した。
「へえ……河童の伝説かあ」
「でもちょっと変わったおじさんだったんだ。僕らみたいに緑色の顔じゃなくて何かくすんだ黄色みたいな顔で、服を上から下まできっちり着てて……あと、頭のてっぺんまで白髪で皿を乗せてなかったんだ」
「ええ? それは変わった人だね」
「そう言えば甲羅も背負ってなかったよ!」
「それはますます不思議だなあ」
父は頭の上の皿をなでながら首をかしげた。
「もしかして、その人が何かしらの妖怪だったんじゃないかな〜?」
「ええ! もう! 怖がらせないでよ!」
シゲオが父を小突くと父はカーッパッパッパ! と大声をあげて笑った。河童の手は故郷に帰って来れたかなあ。なんて言いながら。




