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月は優しく桜を照らす  作者: 華ノ月


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3.


 午後からは職員である美月たちと利用者の語り合いの時間があり、その施設に午前のプログラムを受けていた利用者たちが続々とやってくる。


「……じゃあ、みんなそれぞれの指定されている席に座ってね~」


 奈緒がやって来た利用者たちにそう声を掛ける。


 利用者たちは返事をすると、それぞれの席に腰を掛けた。


 語り合いというのは、担当者の人で分けているテーブルに利用者が座り、そのテーブルにそれぞれ担当者である美月たちが入り、グループで話をしていくというものだった。


 利用者はそれぞれ午前に受けたプログラム内容を話して、そのプログラムで何を学べたのかをグループディスカッションという形で話していく。


 そして、その後はそのグループで施設でして欲しい事や改善点を見つけるために利用者の声を聞くというものだった。


「……はぁ~……」


 美月が担当しているグループでディスカッションが終わり、施設内で何かして欲しい事や困っていることがないかという質問をすると、女性の利用者である古賀こががため息を吐いた。


「どうしたの?何かありましたか?」


 美月が優しい声で古賀に声を掛ける。


「その……松木さん、今日は居なかったから良かったけど、いると絡んでくるんだよね……。で、明日が松木さんと私が受けるプログラムが一緒だから、また絡まれるんじゃないかと思うと行くのが憂鬱になるな~って思って……」


 古賀がそう言葉を綴りながらテーブルの上に突っ伏する。


「それ分かる~。なんかあの人、威張ってモノをいうところもあるし……」


 古賀の話を聞いて、利用者である伊藤いとうがうんざりした顔をしながら、そう言葉を綴る。


「あの人、利用停止にはならないんですかぁ~……?」


 古賀が「メェメェ」と涙目で美月にそう問いかける。


「それはちょっと応えられないけど、所長にはこの事を話しておきますね。他には何か困ったことはありませんか?」


 美月が微笑みながら松木の話題が長引かないように話を変える。


「暑いから冷房をもっと効かせて欲しい!」


 そのグループの中にいる男性の利用者である近藤こんどうが手を上げながらそう声を発する。


「えぇ~……?私、寒がりだから今の温度がちょうどいいのに~!」


 近藤の言葉に伊藤がすかさずそう声を出す。


「一応、訓練場所は適温で設定しています。なので、暑い場合は自分で工夫をして涼しくなるように対応して頂くと助かりますね。それこそ、仕事によっては暑い場所で仕事という事もあります。今は冷感グッズもいろいろと出ているので、ここに来ている間にいろいろと試して、暑さ対策が出来るようになるのも訓練の一つですよ」


 美月が笑顔でそう説明をする。


 その言葉に近藤は素直に返事をした。そして、他にも困りごとがないかどうかを美月が聞きながら、穏やかな時間を過ごしていた。


 その時だった。


「……だから!あんたのそういうところが嫌なんだってば!!」


 綾乃が担当しているテーブルに座るある女性利用者が突然大きな声を上げる。


「いつもいつも『私の方が正しい』っていう言い方してさぁ~!私の気持ちなんか全然考えていないでしょ?!そんな言い方したら傷つくって分からないの?!」


 その利用者が綾乃に怒りを露わにしながら言葉を捲し立てる。


「ちょ……ちょっと!一体どうしたのよ?!」


 奈緒がただ事じゃないと感じ、慌ててそのテーブルに駆けていく。その場にいる他の利用者も何が起こったか分からなくて、ざわつき始めている。


「綾乃さん?!一体何があったの?!」


 奈緒が綾乃にそう声を掛ける。


「その――――」


 綾乃がなぜそのようなことになったのかを話し始める。


 綾乃の話によると、その利用者が「時給が良い夜の仕事がしたい」と言ったので、どういう夜の仕事がしたいのかを聞くと、「キャバ嬢」と答えたという事だった。そして、それを聞いた綾乃が「あなたにその仕事が務まるわけないでしょう?ちゃんと現実を見なさい」と、言ったらしい。その時の綾乃の表情が、その利用者から見て馬鹿にしたような表情だったらしく、カッとなって声を荒げたという事だった。


「キャバ嬢のどこがダメだって言うのよ?!短時間で稼げるし、良いことだらけじゃない!キャバ嬢の何がダメなのよ?!」


 その利用者は興奮が収まらないのか、怒りの表情で綾乃に言葉を次々とぶつける。


「と……とりあえず落ち着いて!」


 奈緒がその利用者に必死でそう声を掛ける。


「落ち着けるわけないじゃない!頭ごなしに否定して馬鹿にしたような目で見てさ!!」


 その利用者は怒りが収まらないのか、興奮気味の状態だ。


 そこへ、美月がやって来る。


佐野さのさん、こちらでも飲んでちょっと落ち着きませんか?」


 美月が微笑みながら、手に持っているカップに入ったカフェオレを佐野に渡す。


 佐野は不満な顔をしながらもカップを受け取り、カフェオレを一気に飲み干す。


 カフェオレの甘さで少し落ち着いたのか、先程より佐野の表情が僅かだけ緩む。


「佐野さんはキャバ嬢になりたいのですか?」


 美月が優しく微笑みながら佐野にそう話しかける。


「だって……、短時間で高額が稼げるみたいだからさ……。お金沢山欲しいし……」


 佐野が小さな声でそう言葉を綴る。


「そうなのですね。確かに短時間で沢山のお金を稼げる仕事というのは魅力ですね」


 美月が優しくそう答える。


「だよね!やっぱ美月さんは話分かるね!」


 キャバ嬢をしたいという事を否定しない美月の言葉が嬉しかったのか、佐野の表情が笑顔になる。


「ですが、私は佐野さんが心配です」




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