20.
正志が優樹の表情が納得していないかもしれないと感じたのか、綾乃にその事を話さない理由を述べる。だが、正志のその理由が優樹には意外だったのか、優樹はその言葉にしばらく固まり、呆けたようにやっと声を発したのだった。
「まぁ、お前はお前で美月ちゃんに惚れとるんやろうけど」
「っ……!!!」
正志がニヤリと笑いながら優樹にそう言葉を投げかける。その言葉に優樹は顔を真っ赤にして、声にならない心の叫びが体の中に響き渡る。
(な……な……何で知って……?!!)
優樹が心の中で大暴れしながらそう胸の中で叫ぶ。
(綾乃っちも分かりやすかったけど、優樹も分かりやすいな……)
正志がニヤニヤした笑みを浮かべながら、そう心で呟く。
そして、松木に関しては周囲をしばらく三人で警戒することになり、正志に美月の事で優樹はいじられながら、居酒屋でのひと時を過ごした。
***
「……ラン♪ラララ♪ラララ~♪」
美月がたまに来る丘へきて、歌を歌いながら踊る。
夜空には綺麗な満月が浮かんでおり、地面は草花で埋め尽くされて、自然の絨毯が出来上がっている。
美月が軽やかなステップで月に向って踊り出す。
楽しそうな歌声……。
まだ少女のようなあどけない表情……。
あの時に止まってしまった時間……。
心はまだ、過去に囚われたまま……。
美月が歌いながら踊る……。
月に照らされながら、何かを待っているように……。
***
「……はぁ~、帰ってきた~……」
優樹が自宅に帰り、そう声を発しながらため息を吐く。
正志に居酒屋で散々いじられて、奈緒にも美月の気持ちがバレてしまったことに内心焦っていた。
奈緒が美月の事を大切にしているのは、施設の様子を見てもよく分かっている。その大切にしている美月を優樹が思っているという事を知って、奈緒はどう感じたのかが気になるが、その事を聞く勇気は無い。
それと同時に、美月のある事を知ったとしても美月の気持ちはぶれない。むしろ、美月に対する想いはどんどんと膨れ上がっていく。
「はぁ~……」
優樹が再度、大きなため息を吐く。
美月が自分の気持ちを知ったらどう感じるのか……?
嬉しいと感じてくれるのだろうか……?
それとも、迷惑と感じてしまうのだろうか……?
優樹の中でいろいろな考えが渦巻く。
「お風呂入って寝よ……」
これ以上考えても堂々巡りになると感じたのか、優樹は小さくそう声を発すると、浴室に消えて行った。




