16.
正志が奈緒の話を聞いて、納得したようにそう言葉を綴る。
「確かに奈緒ちゃんの言う通り、松木を利用停止にして大人しく引き下がるとは思えんな……」
正志も松木の性格を把握しているので、これで引きさがる事は無いだろうという考えが頭をよぎる。
「そして、その場所に居合わせたのが優樹なんやな」
正志の言葉に奈緒が頷く。
そして、奈緒がこの事を綾乃にも伝えた方が良いのかどうかを話す。その言葉に正志は腕組をしながら「う~ん……」と考えだす。
「……綾乃っちは美月ちゃんの事を毛嫌いしとるからなぁ~。この事を綾乃っちが知ったら、何か美月ちゃんにしでかす可能性も無きにしもあらずやし……」
正志が唸るようにそう言葉を綴る。
綾乃の気持ちを正志は勘づいているので、この事を綾乃に話すのは不利になると考えたのだろう。だが、利用者の事に関しては事業所の規約でスタッフ全員が把握するという仕組みを取り入れている。
だが、この事に関しては綾乃に話すことが逆に危険な可能性もあるため、綾乃に話そうかどうかを議論する。
「……やっぱり、綾乃さんには伏せるべきかしら?」
奈緒がレモンチューハイを片手に正志にそう問いかける。
「せやな……。今回の事に関しては綾乃っちには知らせない方が妥当やと思うで?」
正志がため息を吐いて、運ばれてきた焼き鳥に齧り付きながらそう言葉を綴る。
「そうね……」
奈緒が正志の言葉に頷く。
奈緒の目から見ても、綾乃が美月に好意的だとは見えない。むしろ、嫌っているような、憎んでいるような、そんな感情が綾乃からは見え隠れしている。
そして、話し合いの結果、この事に関しては綾乃に伝えない方向でいくことになり、松木に関しては、どのような対策を取るかを話し合っていった。
その時だった。
――――トゥルルルル……トゥルルルル……。
「……誰かしら?」
奈緒のスマートフォンが鳴り響き、誰かからの着信を告げる。その電話が誰か分かると、奈緒はその電話に出た。
***
「……ただいま」
美月が家に帰って来て、そのまま美影がいる部屋に入っていく。
「おかえり、美月。大丈夫?」
美影が美月に優しく声を掛ける。
「うん。大丈夫だよ」
美月が微笑みながらそう言葉を掛ける。
「手……繋いでいい?」
美月がそう声を出す。
「いいよ。近くにおいで」
美影がそう声を掛ける。
美月が美影の手を取り、その近くで腰を下ろす。
「あのね、美影……」
美月が美影の手を握ったまま口を開く。
そして、優樹が話していたことを美影に話す。
昨日、松木とホテル前にいたみたいだが、何のことだかさっぱ分からず、優樹の言葉がよく分からなかったこと。その後は、優樹と仕事場での話やごちそうになった紅茶やクッキーが美味しかったこと……。
「……きっと、その松木君って人の事は優樹さんの思い違いだよ。大丈夫、心配ないよ」
美影が優しくそう言葉を綴る。
そして、いつものように美月は美影と色々とお話をしながら時間を過ごしていった。
***
「――――なぜ、美月が昨日の事を覚えていないのかが気になるってことね?」




