10.
あの後、優樹は夕飯になるものをスーパーで買うと、住んでいるマンションに戻ってきた。
内心では美月の事が凄く心配だが、あの美月の状態でどう対処していいかが分からなかった。
(好きな人一人守れない僕って情けないよな……)
優樹が少し落ち込み気味にそう心で呟く。
その時、優樹のスマートフォンが振動する。
誰だろうと思いながら優樹がスマートフォンの画面を見ると、奈緒からの電話だったので、慌ててその電話に出る。
「もしもし!大丈夫でしたか?!」
優樹が早口で奈緒にそう言葉を綴る。
『えぇ、今は落ち着いているから大丈夫よ。ただ……』
「何ですか?」
奈緒が何かを言おうか言わないか躊躇っているような様子なので、優樹が奈緒にどうしたのかを尋ねる。
『その……今日見たことは誰にも言わないで欲しいの。勿論、美月にも今日の事は一切聞かないで欲しい……』
「えっと……。他の人には絶対に言いませんが、美月さんにも聞かないで欲しいというのは……?」
奈緒の言葉の一部がよく分からなくて、優樹が奈緒にそう尋ねる。
その言葉に奈緒はしばらく何も言葉を発しない。
「あの……」
奈緒が何も言わないので、優樹が「何かまずい事を言ったかな?」と、内心焦りながら声を発する。
『……ごめんなさい。詳しいことは話せないわ……』
奈緒が電話の向こうで申し訳なさそうにそう言葉を綴る。
優樹はその言葉に「分かりました」と言って、深く聞くことは止めておいた。
きっと、話すことが出来ない「何か」があるのだろうと思い、これ以上の追及は良くないと感じたのだった。
***
「……おはようございます」
次の日の朝、美月はいつもと変わらぬ様子で職場にやって来た。
「おう!おはよう、美月ちゃん!」
正志が元気よく美月に声を掛ける。
「お……おはようございます」
優樹がどこか戸惑いながら美月に声を掛ける。
昨日の事で美月が大丈夫なのかどうかを聞きたい優樹だが、奈緒から昨日の事は美月に一切聞かないように言われているので、あの後大丈夫だったかどうかを聞くことが出来ない。
「きょ……今日もよろしくお願いしますね!」
優樹が美月になるだけ精いっぱいの笑顔を作ってそう声を掛ける。
「はい、よろしくお願いします」
その言葉に美月はいつものような柔らかな笑顔でそう返事をする。
そこへ、綾乃も出勤してきていつものように仕事が始まった。
「……今日はみんなに伝えることがあるわ。松木君の事なんだけど……」




