第8話 強化済みスライムになってた。しかし、
「こいつだ! 残すはこいつを倒せば最下層に到達だ!!」
「てぇいっ!!」
「たあぁぁー!」
……う~ん?
何だか騒がしいな。
確か俺は熱湯風呂で思い切り自分を強化しまくりながらじいさんの背中をさすって、そのまま――あれ、どうなったっけ?
熱湯に耐えていたまでは覚えているのにその後に自分がどうなったか、全く記憶にない……何かこういうことの繰り返しのような気がするが。
それにしても、さっきから体が妙にむず痒い。まるで誰かに全身をくすぐられているような。
「――って! はぁぁ!? おいおいおい~! お前ら、何で俺を攻撃しまくってるんだよ! 俺は魔物じゃないぞ?」
熱湯風呂から目を覚ましたら、どういうわけか冒険者パーティーが一斉に俺を攻撃しているんだが、これは夢か?
それとも俺の勘違い?
「…………痛くないし、むしろ痒くて仕方がないんだが。俺の言葉が通じてないのか?」
「うん。ひとしの言ってることは全然通じてない」
「いたのか、みこ様」
「最下層で待ってるって約束したから待ってたけど、来ないから様子を見に来たらひとしが冒険者相手に無双してたからびっくりした」
やっぱり目の前に見えているのはダンジョンにいる冒険者パーティーか。しかし一方的に攻撃されているもんだな。
……全然痛くなくて痒くて仕方がないだけだが。
「あ~みこ様。ちなみに俺は今、どういう状態ですかね?」
「無双状態」
「じゃなくて、俺は人間を保っています?」
「ううん、強化されまくりのスライムになってる。だからどんなに強い人間が攻撃しても、攻撃無効にしてる」
スライムか。どうりで手も足もないなと思った。冒険者やみこ様が見えているってことは、目だけは俺の目として残ったってことなんだよな。
「これもみこ様のおかげ?」
「ううん、私は知らない。だって、私はひとしのままで最下層に来てくれると思っていたから……」
よく分からないが、みこ様はダンジョンの最下層で俺を待っていただけらしい。そうなると俺の姿をスライムにしやがったのはじいさんか、あるいは別のひねくれた神か、どっちにしてもこんな強化のされ方で嬉しくなるわけないんだが。
「そうなると俺はどうすれば元通りになるのかな?」
「知らない」
「あ~うん。そりゃそうだ」
他の神がいたずらでこんな姿にしたのであれば、いつも近くにいるみこ様が知るわけがない。
「……無双してヒャッハーしたい?」
「ん? いや、そりゃあ一度はそうしたいと思ってたが、スライムで無双してもな……」
「でも、物理無効魔法無効のスライムになったってことは、そういう意味」
「普段の俺の姿では人間相手や魔物相手にヒャッハーは認められないけど、スライムとしてなら許されるって? その話だけで判断すれば完全にじいさんの仕業じゃないか! 全く……」
ということは、だ。
傷つけずに冒険者パーティー相手を追い出すことが出来れば、俺は元に戻れるってことじゃないのか?
あのじいさんは何でも傷つけて欲しくないとか言ってたからな。
「……そうかも」
「それならみこ様。最下層で待っててくれ。俺はこいつらを何とかするから」
「むやみな殺生は駄目」
「心配するな! 俺を信じろ!」
何だかとてつもなく恥ずかしいセリフを言い放ってしまったが、多分気のせい。
「ん。分かった」
みこ様もそこは気にしてないみたいだし、スライムな俺はやれるべきことをやるだけだ。
「じゃあ最下層で待ってる」
そう言うと、みこ様は俺の見える範囲から姿を消していた。
「はぁっはぁっ……く、くそっ! 駄目だ、全然攻撃が通らない……何なんだこいつは!」
「諦めては駄目!! みんなで力を合わせれば、きっと倒せるわ!」
「よ、よし、頑張ろう!」
もしやこいつら――いや、もしかして神様ダンジョンに来ている冒険者は、スライムそのものを知らないのでは?
俺の知るスライムは最弱ですぐに倒せてしまう個体がほとんどだが、俺がなってしまったスライムがよりにもよって全て無効の無双スライムとなれば、何も知らない冒険者パーティーは力尽きるまでここで何とかするつもりのはず。
それは俺が求めている無双じゃないし、意思に反するものだ。俺の声も届かないとなれば、やれることはただ一つ。
押し流す。体全体の属性はおそらく熱湯風呂で得た水のみ。となれば、誰も傷つけず殺さずにダンジョンの外へ放り出せるはずだ。
……というか、それしか思いつかない。
スライム状態で手も足もない状態。
そんな状態でどう動かせば冒険者パーティーを押し流せるのかなんて分かるわけもないが、これはじいさんが俺に課した何らかの試練。
――となれば、意識を強く持って目の前の人間たちをダンジョンの外に追い出すイメージを浮かべるだけだ。
「うははははは! 残念だったな! ここのダンジョンはお前らにはまだ早い!! 水に流してやるからまた来いよ~!」
どうせ冒険者パーティーには聞こえない――そう思いながら大量の温泉水を放出して、冒険者たちを全員押し流してやった。
傷つかず力尽きもなく、ついでに体まで回復させてやるなんて俺って凄く優しい奴じゃないか?
全ての冒険者を一掃したあと、俺は《《いつもの》》姿になって最下層に落とされていた。
最下層で俺を待ち受けていたのは、巫女姿のみこ様と住職っぽい格好をしたじいさん、それから……俺を悪夢に招待した姐さんの三人が居間でくつろぐ光景だった。
「おかえり、ひとしお兄ちゃん。待ってた。誰も傷つけず、悲しませなかったお兄ちゃんは、やっぱり優しい心の持ち主なんだよ」
おかえり……か。悪くない響きだし、何でか懐かしい気持ちになる。
「そうじゃのぅ。みことの言う通りじゃ。ひとしはきちんと出来る子なんじゃよ」
「へっ、あたしはどっちでもよかったんだけどな! だけど、爺とみことが遊びをやめるんなら、それに付き合うまでさ」
……みこ様が俺に対しお兄ちゃんと呼び、じいさんはじいさんのまま。そして姐さんはまだ分からないが、これはどういうことなんだ?
しかも、みこと?
あの夢の少女の名前じゃないか。
「すまんのぅ、ひとし。ひとしをスライムにしたのは試したかったんじゃよ。そして安心したのじゃ。じゃから、これからが始まりなんじゃよ」
「は? 始まりってのは?」
「荒んだひとしの心を取り戻して、これからはその心を育む方に向けるの。そうじゃないと、向こうの世界に戻ってもまた同じことになる」
俺を手違いで異世界にある神様アパートに引っ越しさせ、ダンジョンで俺を試したりしていたが、まさか俺を更生させる狙いだったのか?
その全てが神のシナリオ通りだったとか冗談きついな。
しかしお兄ちゃんと呼ばれるのも悪くないな……。




