第7話 ご加護という名の強化でヒャッハー!(予定
姐さんもとい、オネイロスというあまりよろしくない神にしょぼい夢を見させられた俺は、自分の部屋を何とか取り返した。
この場合取り戻したになるか?
みこ様は終始ご機嫌斜めで、俺の部屋を勝手にサロンにした姐さんを叱っていた。立場的にみこ様の方が上だったのか後ろめたさがあったのかは不明だが、姐さんは渋々ながら俺の部屋からいなくなり、俺の部屋は予定通り変哲のない畳部屋に戻った。
もちろんテレビもなければスマートフォンもなく、娯楽に繋がるような物は一切使うことが出来なかった。
唯一認められたのは日記帳で、どこの世界線ですかと突っ込みたくなったが、日記帳を手渡した時のみこ様の笑顔は荒みそうになった俺の心を癒してくれたので、穏やかな気持ちで寝床につけた。
……というか、自分の部屋で布団に寝るのって初めてなのでは?
その夜、俺は悪夢を見ることなくぐっすりと眠れた。
翌朝。
ここが正常なアパートじゃないことは承知しているが、俺を起こしてくれたのは窓から差し込む日の光。
……だったのだが、眩しいだけでなく全身隈なく真っ黒にされそうなくらいの直射日光は地獄を見ろという意味だったようだ。
俺はそれに耐えられず強制的に早起きをする羽目に。
せっかく早起きをしたので朝食を食べに神様的ホームポイントに行こうと思ったが、どうやって行けばいいのか実はさっぱり分からず早くも人生詰みそうである。
あ~もしもし、みこ様聞こえる~?
……などと、部屋で呼んでみたが特に何も起きなかった。
色々訊きたいことが山ほどあるのに、返事がない……このままでは部屋で神様を呼んでいるただの痛い奴と思わざるを得ない。
それに、実は越してきてからまともに着替えも出来ていなかったりする。替えの服を持ってきたはずなのに、それが一切消えてなくなっているのだ。
風呂も入りたいし自分で洗濯もしたいのに、始まりがダンジョンだったせいで生活的なものが全く出来ていない。
くっ、サムい奴かもだが、何度でも呼び出してやる。
みこ様ぁぁぁぁ! どうか迷えるひとしをホームポイントに導いてくだ――
「――おはよう、ひとし」
「みこ様ぁぁぁ……あぁぁぁ…………ふっ、おはよう」
何の予告もなく自然に呼ぶなんて鬼だが、俺は至って冷静だ。
「……ところで、さっきからみこ様は何をやっておいでで?」
「冒険者向けのレア素材入り宝箱を用意してる」
「え? それも神様の仕事?」
まさかのお宝も神様が手を加えてるとは。
「本当は魔物が身を削って強者への報酬として作り出したり、奪い合う。でも、ひとしのためにおじいちゃんが設置介入したから魔物が何もやらなくなった。それどころか、期待されるようになった」
あのじいさんは俺に甘々なのか、とてもそうは思えんが。
「それに宝箱の可否はダンジョンによって違う。ここのダンジョンは神が作った人工ダンジョンだから、今さら自然に戻れと言われてももう遅い」
「へ、へぇ〜」
一度でも介入、それも神様がしてしまえばそうなってしまうのか。異世界だからと何でも介入するのは良くないんだな。
「中身も神様が決めてるのか?」
……というか、本格的に冒険者を入れているんだな。てっきり俺専用の更生施設として存在してるかと思ってたのに。
「そう。それとダンジョンに行く前に、ひとしが先に入らないといけないところがある」
「うん?」
「今すぐ脱いで」
脱いで――つまり全裸になれ、か?
見た目が少女でも神様だから気にするなと言わんばかりに、みこ様は俺が服を脱ぐのを何の感情もわかせずに黙って見ている。
「ぬ、脱いだ」
「じゃあ、両腕を上げて」
もう何が起きても怖くない。
そんなわけで、俺は言う通りに万歳ポーズを実行。
流石に下半身はみこ様としても見たくないのか、タオル代わりにロインクロスをつけてくれたが、俺はみこ様の言う通りに素っ裸で待機中である。
準備万端な俺をちらりと見たみこ様は、どこかに合図するかのように手を叩く――と同時に、俺とみこ様は畳の下に秘密の滑り台でもあったかのようにスポッ、と落ちていった。
直後、激しい水飛沫が上がり、まるで熱湯風呂並の沸騰されたお湯が全身に浴びせられる。
「あちちちちちちちち!!!」
そこまで深くはなく、すぐに湯船の底から浮上して顔を出したので溺れることはなかった。
だが、下を隠していたロインクロスはどこかに流れてなくなってしまった。それに熱湯すぎて早くものぼせそうである。
「おおぅ、ひとしも入りにきたのかの?」
「じ、じいさん?」
「極楽への湯は最高じゃな~。ひとしもそう思うじゃろ?」
「まぁ、そうだな……こうしてゆっくりお湯に浸か――いや、無理だ無理すぎる……じいさんには悪いが、俺にはとても耐えられない熱すぎる!!」
湯気ではっきり見えないが、岩風呂っぽいので適当な岩に掴まって熱を冷ますことにした。
「……ふぅぅぅ~」
「勿体ない……」
「ん? 何が?」
「おじいちゃんのように長く浸かれば浸かるほど身体強化が出来るのに。ひとしは強化したくないタイプ?」
「そんなことは……って! ひぃえっ!?」
岩にしがみついて体を冷まししていた俺をじっと見つめていたのは、銭湯専用ユニフォームを着たみこ様の姿だった。
「ひとしは、今さら恥ずかしがる年齢じゃないよ?」
「い、いや、そのとおりです、はい……」
少女姿の神様なのに、何でこんなに物怖じしないんだろうか。
「ひとしのそれはともかく、このお湯にたくさん浸かれば強化された状態でダンジョンに行ける。どうする? 行く?」
見られても驚かれないし、それ扱いされるとは悲しい現実だ。
しかし、お湯に浸かれば浸かるほど強化されてダンジョンで暴れられる?
「神様のご加護でヒャッハー状態に?」
「そう」
今まで散々逃げてばかりのダンジョンで、魔物相手に無双できるって意味なら返事は一つしかない。
「じゃ、じゃあ我慢して入りなおすよ」
「うん。最下層で待ってる」
ちょっとみこ様の言い方が気になったが、熱湯に耐える決意をして俺はもう一度お湯に浸かることにした。
「ひとしや、背中をさすってくれんかのぅ?」
「くっ……ちょっと動くだけでこんな熱いのかよ……」
じっと耐えながら入るだけでも熱いのに、じいさんの頼みを聞いて熱いながらもじいさんの背中をさすってやった。
「……ひとしを強化させると決めた、か。あの子もそろそろ覚悟を決める時がきたんじゃな……」
ぶつぶつとじいさんが何かを言っていたが、俺は早くも意識がどこかに飛びそうだった。




