第4話 卵の中からじいさん(神様)が!
おわっ!
――っとととと……危なっ!
ゴム製武器だらけの部屋にいた俺は、みこ様からの質問に答えた後、答えを間違ったのか落胆させる。
その直後、部屋ごと真下のダンジョンに落とされた。落下によるダメージはなく、痛みが感じられないのはまさしく神の加護によるものだからそれはいいとして。
ぜうすじいさんが俺のために用意した偽の武器類はものの見事に役立たずで、偽物の中にありながら輝きを放つ片手斧も単なる光り物に過ぎなかった。
格安アパートから強制的に異世界に転移後、ダンジョンで動くのは二回目になる。
ただ寝落ちから目覚めた初回と違って厄介な魔物は配置されておらず、ゴム製の武器を振り回すだけで逃げていく魔物ばかり。
落胆はしたが、みこ様のせめてもの優しさを感じられているおかげで、前回よりも気持ちに余裕が出来ている。
そうしてしばらくピンチというピンチがなかった状態で、だだっ広いワンフロアの部屋にたどり着いた。
こういう部屋は大概モンスターだらけというオチがつくのだが、ぱっと見の時点で魔物の気配は全く感じられない。
流石にレプリカ武器ではダンジョン修行にもならないから、厳しすぎたと反省して魔物を極端に減らしたんだろうな。
……などと思っていた直後。
「そこの人!! 避けてくださいっ!」
「ん? 何が?」
魔物が全くいないフロアで気を緩めていた俺に対し、全然予想だにしない声が部屋の奥から響いた。
不意に聞こえた声に意表を突かれたのもあるが、訳の分からない状態で見えない何かを避けられるほど、人はそう簡単に反応出来るはずもなく。
声の主に向かって尋ねようとしたその直後、俺は本物のナイフによって身動きを封じられていた。
アウトドアナイフのような汎用品ではあるが、投げた人間の腕がいいのか神の加護のおかげなのか、俺の体には一切突き刺さらなかった。しかし、洋服にナイフが突き刺さっていて壁にはりつけられている状態だ。
「……油断してしまったな」
「あああああ! すみませんすみません!」
みこ様の声でもなければぜうすじいさんの声でもない、若い男性の声が俺に謝りながら近づいてくる。
身動きが取れないままで待っていた俺の目の前に姿を見せたのは、安っぽいブロンズ製の甲冑鎧と若干錆のついた短剣数本を腰付近にぶら下げるひとりの男性だった。
「……あんたは?」
「ごっ、ごめんなさいっ!! まさか僕以外に冒険者がいるなんて思わなくて!」
「冒険者? ゲームとかに出てくるあの冒険者?」
「ゲームが何なのか分かりませんけど、冒険者です! お怪我はないですか?」
見るからに冒険初心者って感じだな。
俺の怪我の具合を上から下まで目視で確かめるのに必死で、はりつけ状態になっている現状に全く気付いていない。
「……おかげさまでね。とりあえず、服に突き刺さっているナイフを外してくれるとありがたいんだが……」
「ああっ!? い、今すぐ外します!」
そう言うと若者冒険者は慎重にナイフを壁から外し、俺を解放した。
名もない初期冒険者ってところだろうが、俺以外に人間がいるなら教えて欲しかったな。
「で、あんた以外に冒険者は?」
「いません。外を歩いていたら案内があったので、とりあえず入ってみたらダンジョンだったんです。そのうえ、この広い部屋に入ってすぐに大きい蜂が襲ってきたのでナイフを投げまくって、それでその……」
……ったく、みこ様の俺への試練がハードすぎないか?
突然異世界の適当なところにダンジョンの入り口案内を見せたら、たとえ初心者冒険者でも入ってくるだろ。
というか、大きい蜂?
魔物なんて全然いないと思っていたのに、まさかの虫タイプ?
「ナイフから解放してくれたから気にしなくていい。で、大きい蜂は倒したのか?」
「僕でも倒せましたので心配は無用です! ただ、この部屋の手前に大きな卵がいくつも並んでいたので、もしかしたらまた出てくるかもしれません……」
いやいや、冗談きついな。
そのパターンでいくと、次は俺のターンなのでは?
「とにかく、あんたが蜂を倒したんならこの部屋にはもうなにもいないと思うぞ。他へ行った方が――」
「――そうします! 怪我をしなくて本当に良かったです! 僕は他のところに行きますね! あなたも頑張ってください!」
「あ、あぁ」
俺をナイフではりつけの刑にしてくれた冒険者は手を振りながら、どこかに向かっていなくなった。
冒険者のナイフは間違いなく本物だったし、俺の服に穴を開けたナイフだけでも回収しとけばよかったかも。
冒険者というか異世界の人間に会ったのも初めてだったが、あいつの言っていたとおりこの奥の通路に蜂の卵があるなら急いで脱出しなければ。
天井を気にしても虫の気配はなく、奥への出口に向かって歩くと、確かに兎サイズくらいの大きい蜂が倒されていた。
初心者レベルのダンジョンなのかここは。
そうして広いフロア部屋を出て通路に進むと、話に聞いたとおり無数の卵が並んでいるのが見えた。
もし俺が通り過ぎる前に殻が割れたら、今度こそ何も出来ずにホームポイントに送還されそうな気がするんだが。
なるべく音を立てず……といってもこの世界には似つかわしくないアニキ製スニーカーを履いているせいか、無音というわけにはいかない。
しかし、何事もなく卵エリアを抜けられる――そう思っていたら、その中でも半端ない大きさの卵が光りだしたような、そんな嫌な予感がした。
……ん?
何か卵の中がピカピカと光ってるな。
もしかしなくても新たに生まれる人サイズの蜂か魔物でも眠っている?
そう思っていたら殻が音を立てながら割れだした。
「う、嘘だろ……? 俺でもやれるのか?」
手元にあるのは光るだけのレプリカな斧だが、せめてもの抵抗で身構えていると、
「ふわぁぁぁ……おぅぅ、そこに見えるのはひとしかい?」
じ、じいさん?
ぜうすのじいさんは髪がなくほぼスキンヘッドなわけだが、まさか光っていたのはそこか?
「すまんのぅ。魔物を作っている最中にうっかり眠ってしもぅた」
魔物を作っている最中にサボるなよ……。
「……というか、本当ならどでかい蜂が入る予定だった?」
「おおぅ! よく分かったのぅ! ひとしは仕事が出来る子なんじゃな。その通りじゃよ!」
あの名もなき冒険者が倒したのは、異世界自然の蜂だったというオチだったのでは?
ああ、そうだ。これだけは訊いておくか。
「なぁ、じいさん。俺に本物の武器を持たせないのは何でだ?」
俺がそう言うとじいさんは泣きそうな顔で、
「ひとしにはたとえ魔物や獣人、魔族の者であっても、誰かを傷つけて欲しくないんじゃよ……。優しく思いやりのあるいい子に成長して欲しいと願っているだけなんじゃ」
「だから殺傷能力のない武器ってわけか」
「これも親心なんじゃよ。分かってくれたかい、ひとし」
……親じゃなくて神だと思うが、つぶらな瞳で今にも泣きそうにしてるじいさんにこれ以上何も言えない。
冒険者がいたことは後でみこ様に訊くしかなさそうだな。
「ひとしや、せっかくじゃからお茶を飲んでいかんか?」
「こ、ここで?」
「いやいや、この卵から茶の間に行けるんじゃよ。ささ、入って入って」
卵だと思ったらそこは、茶の間へ直行する異空間ゲートだった。
「……何でもありだな」




