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第六十八章 超人VS勇者 前編 その3

68.3 勇者シン・ガイディーンLv999


 勇者シン・ガイディーンは、もともとアラトが住む地球——原形世界——の日本人男性、ゲーム会社の開発部長、32歳だった。


 勇者シン・ガイディーンというキャラクターは、彼のゲーム会社が開発したオンラインゲーム、フルダイブ型VRMMORPG『真勇者の異世界冒険:魔王軍百年戦争』に登場する主人公である。


 彼は数年前に、原形世界で不慮の事故により命を落とす。


 事故直後、彼はその『真勇者の異世界冒険:魔王軍百年戦争』の仮想空間——メタバース——に勇者として異世界転生したのだ。


 その仮想空間は電脳空間ではなく、どこかの次元に顕現化した異世界である。ゲームのキャラククターが存在し、人々が暮らし物語を紡ぐ本物の世界。


 まさしくゲームの生みの親であった彼自身が、そのゲームの世界に飛び込み、ゲームの知識を保持したまま現地の人間として生まれ変わった。


 彼が最強の勇者にならないわけがない。


 その異世界と原形世界——元いた地球——とは、時を刻む速度が全く異なる。彼が事故死したのは数年前のことだが、異世界で生まれ変わった彼は、すでに100歳を超えている。


 勇者である彼は25歳の時、魔王討伐パーティを引き連れゲームのラスボス魔王を倒した。


 その異世界でキャラクターレベルが上がると、人間種族の寿命は延び、肉体は老化するどころか、肉体がどんどん強化され実質的に若返りできるのだ。


 彼は50年周期で復活した魔王をもう一度倒し、レベルMAX値に到達した。


 本来のゲームでは、プレイヤーのカンストが魔王討伐冒険譚の区切りとなる。


 しかし、その異世界は違っていた。魔王が復活するという未来は、永遠にやってくるのだ。


 そこからさらに50年後、つまり今から数年以内に、勇者はもう一度——計3回目——魔王と対峙することになる。


 最初に倒した魔王は1体のみ。


 2回目の対戦では強化された魔王が2体出現し、瀕死の状態でなんとか倒すことができた。勇者パーティは勇者以外全滅だった。


 勇者シン・ガイディーンは直感でわかっていた。3回目の対戦では、さらに強さを増した魔王が3体出現すると。それに打ち勝つのは絶望的なのだ。


 だからこそ勇者シン・ガイディーンはこの大会で優勝し、優勝報酬を獲得しなければならない。願望成就により魔王軍と不可侵条約を締結、未来永劫、戦争そのものを無くすという目的がある。


 勇者は絶対に優勝しなければならないのだ。世界の運命は彼の双肩にかかっているのだから。



 §   §   §



68.4 『真勇者の異世界冒険:魔王軍百年戦争』


 『真勇者の異世界冒険:魔王軍百年戦争』は、フルダイブ型VRMMORPGである。


 つまり、ゲームプレイヤーがVR空間内のアバターを思考で操作して遊ぶ『Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game』——大規模多人数同時参加型オンラインRPG——のことである。


 アバターは、ゲームプレイヤーが初期設定で創るオリジナルキャラクターであり、魔法世界を舞台としたさまざまなステイタス、種族、職業、容姿、コスチュームを設定できる。


 種族は人間、獣人、亜人など。職業は、冒険者、剣士、魔法使い、僧侶、格闘家などが選択できる。レベルが上がると種族や職業の選択肢が段階的に広がり、仙人、魔族や精霊などにもなることができる。


 その自由度の高さが人気の秘密だ。


 プレイヤーは、プレイヤー同士のバトルや、魔物退治などによってレベルを上げていくことが一つ目の目標。


 レベル100になると、勇者率いる魔王討伐パーティに参加し、魔王討伐に挑戦することができるようになる。魔王を退治することで、自身のプレイヤー名を魔王討伐者として殿堂入りさせることが二つ目の目標だ。


 そして肝心の『勇者シン・ガイディーン』は、主人公NPC——Non Player Character——なのだ。ゲームの看板キャラクターであるがゆえ、ユーザーは全員、彼の存在を知っている。


 6名編成の魔王討伐パーティを率いるのが勇者シン・ガイディーンであり、プレイヤーがレベル100になったタイミングで討伐パーティ参加の勧誘イベントが発生する。そして、超々強力で手強い魔王を倒すためには、勇者シン・ガイディーンの存在は欠かせないのだ。


 魔王討伐時に自身のキャラクターが魔王にトドメを刺すことができると、次回の魔王討伐時において勇者シン・ガイディーンを操作できるという密かな裏設定がある。


 ただし、勇者シン・ガイディーンをプレイヤーが操作して魔王を倒したという前例は無い、という噂もある。


 そして三つ目の目標がこれだ。


 カンストしてレベル999に達したプレイヤーは、完全オリジナル種族、または、完全オリジナル職業を創作し、かなり自由度の高いステイタスと超々希少特殊能力を付与することができるのだ。


 その完全オリジナルキャラクターとなったカンスト済プレイヤーは、魔王討伐に参加できなくなる。


 その代わり、自身がイベント進行キャラとなり、かつ、ほかのプレイヤーに試練を与えるスキルアップ特殊イベントを一つだけ新規追加設定できるというのだ。それは、他のプレイヤーと対戦して遊ぶ構図になる。


 ゲームのクリエイター側の立場になるのだから、本気度マックスのやり込み組が夢中にならないわけがない。


 さて、本家ゲーム内の『勇者シン・ガイディーン』は、主人公NPCとして最初から最強の能力設定だ。


 しかし、本大会に出場している異世界で顕現化した『勇者シン・ガイディーン』については、転生してから成長していくという人間としての歴史が刻まれている。つまり、赤ん坊として誕生し、Lv999になるまでの苛酷な人生を歩んできたのだ。


 それこそが、両者の大きな相違点である。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


【作品関連コンテンツ】

 作品に関連するユーチューブ動画と作者ブログのリンクは、下の広告バナーまで下げると出てきます。


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