第四十章 合体怪獣VS巨大ロボット その3
40.5 合体怪獣VS巨大ロボット 試合模様その二 巨大ロボット側
合体怪獣の角と背中が突如光り始めた。再びEMP発動する気なのだ。
『EMPの発動兆候検知』
「くっ、奴の攻撃が早い。対EMP相殺装置作動! 間に合うか」
『コマンド、アクセプト』
片膝をついた状態で身構える巨大ロボ。
合体怪獣の背中全面が発光する。最初の時よりも生体EMPの発動が早い。電磁パルスの波動が巨大ロボを包み込み、コックピットの電源が完全に落ちてしまった。
「アズ、大丈夫か!」
しばらくしてコンソールとディスプレイに光が戻り、再起動されていく。
『ケケケ、ケン、ケンシロウ。リ、リブートしま、しま、すぅ』
「すまない、頼む」
その間、合体怪獣が空を見上げていた。
翼のダメージのため素早く飛べないが、ゆっくりと羽ばたき上昇していく。何かを狙っているようだ。
薄暗かった空が益々暗さを増していく。もともと嵐の前触れのような天候だったが、ついに立ち込める暗雲の底部からクネクネと細長い柱上の雲が大地に向け四つ伸びてきた。漏斗雲——竜巻の卵と呼ばれる雲——が四つもできたのだ。そのまま円柱状に伸び、大地に届く。完全な竜巻が四つ誕生した。
唸り声を上げる合体怪獣。
パルスザウルスに捕食され、恐竜と合体したドラゴン『ハイエスト』には天候を操る能力があるとされていた。ただ、第一回戦のようにバリアによって自然と隔絶された環境では、当然天候は操れない。
どうやら、バリアのない屋外でその能力は発揮できるようだ。そして今、この合体怪獣が能力を継承していると証明された。
合体怪獣は空中で両目を閉じ静かに呼吸する。まるで魔法使いが魔術を念じているように見える。
「奴は、天候すら操れるのか……」
ケンシロウは珍しく弱音を吐いた。
四つの竜巻がリブート中の巨大ロボを取り囲んだ。四方から巨大ロボの巨躯をからめ捕る。自然の驚異を破壊兵器へと変貌させ、頑強な造りのボディを軋ませる。
背中に出っ張った形状のバックパックと可動式ウイングが、火花を散らしながら潰され、ついには爆発音とともに破壊された。巨大ロボは飛行能力を失ったのだ。
役目を終えたのか、全ての竜巻が消滅する。
一方、巨大ロボのコックピットで操縦機器が全て復活した。
『ケンシロウ、リブート完了』
「アズ、このままファイナルスマッシュサンダーだ」
『ウイングを失い、放電パネル喪失のため破壊力は60%未満です』
「それでいい、やるんだ! 奴を惹きつけ油断しているところをゼロ距離で照射する。奴のダメージも小さくない、防御力が落ちている今がチャンスなんだ!」
『コマンド、アクセプト。エネルギー充填開始』
「頼む。奴にバレないよう惹きつけ、装甲パネルはギリギリまでオープンしない。できるか?」
『イエス、ケンシロウ』
巨大ロボは片膝をついたまま身動きしない。
ケンシロウの思惑どおり、合体怪獣は地上に降り立ち、無防備にも巨大ロボに近づいてきた。巨大ロボが機械であるという認識があるかどうか別として、完全に息絶えたことを確認したいのだろう。あるいはトドメを刺しにくるのか。
合体怪獣は巨大ロボの正面で立ち止まった。そして巨大ロボの頭をもぎ取ろうと両手で掴む。どうやら首をちぎることが、合体怪獣にとっての完全勝利を意味するのだろう。
ケンシロウにとって、愛機の首がもがれるなど到底受け入れられない。しかしそれでも、敵を惹きつけて倒すために堪えているのだ。静かにエネルギー充填を待つケンシロウ。
『エネルギー充填完了』
「装甲パネルオープン! アレスマァァーズ、ファイナル、スマッシュサンダァァァァー!」
胸部装甲パネルをX時にオープン、ファイナルスマッシュサンダーの照射装置を露出させる。
しかし、合体怪獣は冷静だった。尻尾の先端にあるトゲ付き鉄球を、その迫り出してきた照射装置に突き刺した。
「な、なにっ!?」
驚愕するケンシロウ。
尻尾の先端からマイクロ波を放ち、巨大ロボを内部から破壊する。マイクロ波は第一回戦でパルスザウルスがハイエストにトドメを刺した技なのだ。
アレスマーズロボは機能停止した。
マイクロ波による心臓部の破壊は地味に見えるが、むしろケンシロウにとっては幸運だった。巨大ロボ本体が大爆発を起こさなかったのだから、操縦者は九死に一生を得たのだ。
『ケンシロウ、即座に脱出してください。コックピット内に重大な損傷と漏電があります。電気ショックで……』
アズの警告と同時に、コックピット内で電流が走った。苦悶の声を上げるケンシロウ。戦闘AIアズは機能停止し沈黙した。
「アズ、すまない。お前を道連れにしてしまった……」
ケンシロウも気を失ってしまう。
しかし、それだけでは終わらなかった。
合体怪獣は再び巨大ロボの頭を掴み、首をねじ切ろうと躍起になっている。勝利を祝う儀式なのかもしれない。
巨大ロボの首元にはコックピットがある。ケンシロウはそこにいるのだ。万一、首がもぎ取られたとすれば、生きた人間の存在が知られ、襲われる可能性もゼロではない。
§ § §
40.6 人魚姫パメラ・マリンの思い
第一回戦第九試合でアレスマーズロボと戦い、命を助けてもらった人魚姫パメラ・マリンは、ケンシロウの選手部屋で彼の試合を見守っていた。
人魚姫は命の恩人ケンシロウに思いを寄せ、試合後も行動を共にしていた。二足歩行の人間モードに変身できる彼女は、ケンシロウが過ごしている出場選手専用の部屋に寝泊まりし、彼の身の回りを世話している。
人魚姫パメラ・マリンはとても美しい女性、ケンシロウもまんざらではないのだが、彼女はいわゆる押しかけ女房なのだ。
海獣シーギメラスを操るネクロマンサーの人魚姫は、ケンシロウの身を案じ、万一に備えていた。
シーギメラスはネクロマンサーによって生み出されたアンデッドのキメラ海獣。
第一回戦でアレスマーズロボに骨も肉も焼き尽くされたのだが、人魚姫は海獣の肉片もしくは海洋生物の死骸さえあれば、同じキメラ海獣を何度でも蘇らせることができるのだ。
アレスマーズロボの出撃時、彼女はコックピットに搭乗するケンシロウを最後まで見送った。
闘技場タイプFに転送される直前、ケンシロウには黙ってシーギメラスの幼魚——単にシーギメラスを伊勢海老サイズに縮小した合成生物——をアレスマーズロボの機械の隙間に隠していた。
そして闘技場タイプFに転送された直後、幼魚は人魚姫の命令に応じ海へと飛び込む。海水に浸った幼魚は、アッという間に本来の姿であるシーギメラスへと成長し、海中で待機していた。
「ケンシロウ様、あなたの命はわたしがお守り致します!」
人魚姫パメラ・マリンの碧い瞳には強い決意が宿っている。
§ § §
40.7 合体怪獣VS巨大ロボット シーギメラス乱入
合体怪獣と巨大ロボが戦っている戦場には海岸線があり、そして海がある。
いまだに、巨大ロボの首をもぎ取ろうとしている合体怪獣。その背後に体長20mを超える巨大な影が忍び寄る。
突如、合体怪獣ドラゴジランの翼と両手を、海獣シーギメラスのタコ足とクラゲ触手が背後からからめ、羽交い絞めにした。
突然の出来事に驚く合体怪獣。凄まじいパワーで縛りつけられ身動きできない。
海獣のサメ口からウツボの頭が二つ現れ、合体怪獣の頭部に咬みついた。ウツボの口から神経麻痺効果のある毒ガスを噴き出す。
さらに、海獣のタコ足根元中心部にある口から、ウニを大量に吐き出し、合体怪獣の足元へばら撒いた。ウニが踏み潰されると、その毒針から足裏に猛毒を注入する。
ドラゴンの性質を受け継いでいる合体怪獣は、毒にも強い耐性がある。しかしそれでも、海獣の猛毒は強力だった。
合体怪獣はしばらくもがいて抵抗していたが、最後には力尽き失神、その場に倒れ込んだ。
役目を終えた海獣は、静かに海中へと戻っていく。
海獣は巨大ロボを支援したと判断され、ルール違反の判定となった。そして審判がアレスマーズロボの失格を告げる。
その後、ケンシロウは無事救助され、アレスマーズロボも回収された。
合体怪獣ドラゴジラン、第三回戦進出!
§ § §
40.8 アレスマーズロボ&綾乃光寺剣志狼
アレスマーズロボは、並行世界の地球で製造された有人人型巨大ロボット。そしてその操縦者は綾乃光寺剣志狼である。
綾乃光寺剣志狼は、国際科学救助隊『アンダーハート』所属の対未確認危険現象対応部隊隊長だ。そして、国際レスキューアカデミー『ホワイトドーム』——国際科学救助隊員を育成する組織——で最も優秀な成績を修めた人物でもある。
国際科学救助隊『アンダーハート』とは、世界中で起こる過去に例のない不可思議な現象を、科学の力で解決しようとするNPOの集団。そして彼の父親は、国際科学救助隊創設者で最大出資支援者なのだ。
対未確認危険現象対応部隊は、ロボット、巨大兵器、巨大生物など、人類に未曽有の危機をもたらす脅威を排除するための特殊部隊だ。
そしてアレスマーズロボは、対未確認危険現象対応部隊が科学の粋を集めて製造した唯一の機体である。
大会運営に招待され、巨大ロボット開発に対する強い思いから、綾乃光寺も開発チームも参戦を決意した。参加する以上は、可能な限り上位を目指したいと思っていた。
【作者より御礼】
数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
【作品関連コンテンツ】
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