第六十六章 主人公VS魔導剣士 その2
66.5 主人公VS魔導剣士 試合模様その四 主人公側
「あっぶねぇぇぇ~、バックパックの装甲が厚くて助かった! でも次は絶対ヤバイ!」
アラトは第三回戦の対未来人と同様に、エルフの失神を狙っている。エルフ族の頑丈さは人間よりも少し高い程度。異常な耐久力を誇る超人や魔物ほどではないと理解している。
正直、女性に向けて撃つこと自体、気が引けるのだが。
「さすがは策士のエルフ。レーザー銃の誘導は、僕の意識から外れるとターゲットを失ってまっすぐ進むってバレてるし、今のは僕もうっかりしてた」
真上を見上げると、エルフが何かあちこち忙しなく移動している。次なる策を弄しているのだろう。
アラトはわかっていた。こちらがレーザー銃をいくら放とうがエルフにヒットできないことを。ヒットさせるためには意識外から狙わないといけない。
ふと気づくと、アラトの周囲にディメンションリング四つが配置されている。どうやらエルフは先ほどから散らばっていたリングをもう一度投擲し直して包囲網を築いていたらしい。
アラトを逃がさないための鳥カゴを造っているのだ。
アラトが急ぎ飛行ジェットシューズで上昇し始めると、すぐにエルフがまっすぐ向かってきた。
とにもかくにも、敵の決断が早く行動も速い。
(一度発射したレーザー銃の弾がどこに行ったのかずっと認識してれば、ターゲットを狙ってくれる。それさえ意識できれば、なんとか……)
レーザー銃でエルフを狙って発射。
巨斧を構えて突進してくるエルフがまたもやディメンションリングでレーザー弾を取り込んだ。
周囲を見渡すアラト。アラトを囲んでいる四つのリングを確認すると、後方のリングから出現したレーザー弾が既にこっちに向かっていた。エルフの空間接続魔法によるワープ移動にタイムラグはいっさい無い。入ると同時にどこかから出てくる仕組みだ。
かろうじて躱した。
アラトのそばを通過したレーザー弾が、もう一度エルフに向かって誘導される。すると今度は、左手に持っていたディメンションリングを広げ、エルフ自身がリングをくぐり、別のリングへとワープ移動した。
エルフを追いかけていたレーザー弾は、ターゲットを見失ってそのまま直進する。が、アラトがワープ先のエルフを発見すると、そのレーザー弾がUターンをして、再度エルフを追撃し始めた。
「なんだこのしょうもない攻防は……」
アラトは自分の攻撃であるにもかかわらず、とめどなく続く追いかけっこの地味さに鼻で笑ってしまった。
一方エルフは、空間接続魔法によるワープ移動で逃げたあとも、アラトを追い詰めるための行動を絶やさない。
エルフは出てきた先のリングを投擲し、別のリングを手元に呼び戻す。エルフが空中で待機しているリングに対し戻るよう指示を出すと、手元まで飛んできて回収できる仕組みのようだ。
このワープ移動でアラトが放ったレーザー弾から回避しつつ、リングを投擲、別のリングを回収して手元に戻ったらワープ移動の入口として使う。
この段取りを繰り返し、エルフはアッという間にアラトを囲むリングで造った鳥カゴを小さくしていた。
「貴様のその追いかけてくる武器は、たしかに脅威だ! しかし貴様の弱点は、同時に2発以上コントロールできない! 違うか!」
巨斧を右手に携え、眼前まで迫ってきたエルフがアラトを見下すように言い放つ。
その時、ちょうどエルフに差し迫ったレーザー弾を左手のリングで吸収、同時にエルフが真上に上昇、すると自身の背後に隠していた別のリングからレーザー弾が出てきた。それはアラトの真正面、距離的に躱す余裕はない。
アラトは咄嗟に左手のシールドでレーザー弾を受けた。シールドは直撃で破壊され、その衝撃で後方へと飛ばされるアラト。
続けてエルフが差し迫る。
§ § §
66.6 主人公VS魔導剣士 試合模様その五 魔導剣士側
思惑どおり敵のレーザー弾をヒットさせ、バランスを失った敵を速攻で追撃するエルフ、巨斧を振り上げた。
「死ね! 今度こそ詰みだ!」
巨斧を振り下ろすエルフ。
カッキーン!
巨斧が何かを破壊した。
「なにぃ!? なんだとぉ!?」
敵はバックパックに付属する補助アームを使って、敵の背後に配置していたディメンションリングを掴み取り、振り下ろした巨斧——刀剣破壊斧——に対する盾に使ったのだった。
刀剣破壊斧に破壊されてしまったエルフのリング。
「きぃ、きっさまぁぁぁー!」
またしても刀剣破壊斧によって自分の大切な武器を破壊してしまった。
第二回戦では、悪魔の策略でディメンションスネークソードを破壊されている。今度はディメンションリングだ。
両方ともエルフ族に伝わる秘宝なのだ。簡単に破壊できる代物ではない。エルフにとっては命よりも大切な宝に等しい。
「ク、クソォォォォォォー! 許さん、許さんぞぉ!」
エルフはワナワナと震えながら半ば涙目になっていた。
六つあるディメンションリングのうちの一つしか失っていないので、決して戦えないわけではないが、2度目の自滅になるので余計にはらわたが煮えくり返る。
エルフは右手の刀剣破壊斧を投げ捨てた。
「所詮、自分の武器でもない物を使うからこうなる。もう二度と同じ轍は踏まん!」
残り全てのディメンションリングを呼び戻し、両腕にはめた。
「我がエルフ族に伝わる空間魔法最強の技で貴様を粉砕する! 文字通りそのカラダをねじ切ってくれるわ!」
§ § §
66.7 主人公VS魔導剣士 試合模様その六 主人公側
アラトは密かに狙っていた。
エルフが刀剣破壊斧を手にして登場した時から、エルフが自滅するようにディメンションリングを破壊させてやろうと。第二回戦のエルフ対悪魔戦の時、悪魔が刀剣破壊斧でエルフの魔剣を破壊したのを知っていたから。
そしてエルフが雑で大雑把な性格であることもわかっている。
エルフはなかなかの策士であるが、一方で無鉄砲、即断即決、猪突猛進の一面が強い。つまり注意力散漫なのが弱点だ。
大切な武器であるディメンションリングを放置することが多い。それは彼女の戦術なのだが、あまりにも不用心なのだ。そのおかげで今回の作戦が成功したわけだが。
たまたまの幸運、咄嗟の行動ではあったが、アラトが最初から狙っていたおかげで成功した。
しかし実をいうとアラトは固唾を飲んでいる。エルフの反応が怖すぎて結構引いているのだ。彼女が激怒するのも当然のことだが。
「いや、マジ怖いって……」
アラトはジェット噴射で逃げ始めた。
アラトが装備する飛行ジェットシューズの最高飛行速度はせいぜい時速40kmくらい。しかも、継続噴射でオーバーヒートしないようにリミッターがよく作動するのだ。どう考えてもエルフの飛行速度の方が断然速い。
§ § §
66.8 主人公VS魔導剣士 試合模様その七 魔導剣士側 前編
エルフ族に伝わる空間魔法最強の技というのは、空間歪曲魔法の強化版『空間捻転魔法』だ。
範囲は限定的だが、空間を渦のようにねじることで、空間内に捉えた獲物を無条件でねじ切ることができる。空間ごと破壊するわけだから、その物体の硬さにはいっさい影響しない。
そういう意味では、空間を切断する魔剣ディメンションスネークソードと似ている。
ただし、魔剣による切断は魔力をほとんど消費しないが、『空間捻転魔法』はディメンションリングに多大な魔力を注ぎ込まないといけない。空間捻転の範囲と継続時間は注いだ魔力に比例するし、当然、発動回数もエルフの保有する魔力量が上限となる。
敵がレーザー銃を撃ってくる。
逃げるための牽制だろうが空間歪曲魔法で下面に向けてベクトルを変更、地面にヒットさせれば追跡されることもない。
「ふん! 無駄だ!」
敵はさらにレーザー銃を乱射してきた。その全てを空間歪曲魔法で回避しつつ空中をダッシュ、間合いを詰める。
エルフは高速飛行で接近すると敵の背後に回り込み、敵の補助アームを掴んだ。剛腕で捉えた敵をジャイアントスイングのように回転させ下方に向けて放り投げ、地面に叩きつけた。
間髪入れず追撃するエルフ。
両足を揃えてドロップキックの体勢で急降下、仰向けで倒れている敵の右足の上に飛び降りた。自らをロケット弾のようにして突撃したエルフは、狙いどおり、敵の右足にある飛行装置を破壊した。
「ふん、逃げ足を封じた!」
敵の上空で飛行停止し、両手を突き出して敵に向ける。『空間捻転魔法』の構えだ。
突如、エルフはあることに気づいた。
よく見ると、敵の右肩にある砲台のような兵装の砲口が淡く光を発しているのだ。その砲台は敵が敗者復活戦でアメスライバを葬った兵器だと知っている。
エルフからすれば超強力な魔法兵器。さすがに、そのビーム発射兵器を食らうとエルフの身は肉片を残すこともなくこの世から消滅してしまうだろう。
どうやらその淡い光とは、砲台にエネルギーを充填している最中なのだとエルフは判断した。
「また何か狙っているのか……」
エルフはこの大会を観戦し続け、準決勝戦の前から考えていたことがある。自分の生まれ育った世界には無い戦闘兵器が多数存在するのだから、事前に対処法を検討しなければならない。
エルフは射撃系の魔法を習得していない代わりに、二つのディメンションリングを使った『空間接続魔法』で敵の射撃系魔法、あるいは兵器を撃ち返すことが可能だ。
しかし、敵の右肩兵器——惑星破壊キャノン砲のこと——から発射される膨大な熱エネルギーをディメンションリングで受け止め、もう一つのリングから敵を狙って撃ち返すのは、あまりにもリスクが大きい。
リングそのものが超強力な熱エネルギーで破壊されるのもマズいし、敵を狙うには、出口側のリングを触って方向修正しなければ当たらない。
敵側も発射体勢で硬直して回避できないため、反撃の狙い目になる。が、そもそもリングを大きく広げて『どうぞ撃ってください』と待ち受けても敵がビームを発射する、とは到底思えないのだ。
エルフは別の手段も冷静に考えていた。
あの攻撃はとにかくあなどれない。火力もさることながらビームの照射幅も非常に広く継続時間も長い。誘導性能について知識不足だが、空間歪曲魔法だけで防ぐには心許ないのだ。
「ならば、空間捻転魔法で分散させればいいだけのこと」
空間捻転魔法は空間を渦のようにねじ曲げるので、その捻転空間を盾のように使って強力なビーム兵器を受けた場合、ビームを四方八方に分散させることができるのだ。
ただし、周囲に飛び散ったビームの破壊力を消失させるわけではないので、捻転空間の真正面から動かずに待つことが防御の条件となる。
「ふん、奴は必殺技を一度放てば、次はしばらく使えないはず」
ビーム兵器を一度発射すれば、次の発射までのタイムラグはかなり長い。それがエルフの知る兵器の弱点だ。
エルフは次なる作戦を決めた。
敵は右肩のビーム兵器を照射している間は身動きができないのを知っている。
敵のビーム兵器を空間捻転魔法で回避している隙に、二つ目の空間捻転魔法を行使し、身動きできない敵をその捻転空間で包み込み粉砕する手順だ。
全身が砕かれ、死は免れないだろう。
ただし、空間捻転魔法は魔力を大量に消費する必殺技。
そうそう何度も連続して繰り出せない。つまり己にとっても敵にとっても最後の賭けになるだろう。
これで決着させるのだ。
「貴様が一回戦で阿呆のように負けた時は、とんでもない恥さらしが参加していると思ったが、まさか準決勝まで登り詰めるとは意外だった。ふん、しかし貴様の進撃もここまでだ!」
【作者より御礼】
数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
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