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第六十五章 準決勝対戦組合せ

65.1 準決勝対戦組合せ


 大会三十八日目の朝9時、準決勝対戦組合せ決定。


 念のため説明すると、『新入社員』というのはアラトのことで、対戦表にはそのように表示されている。大会出場申請時に登録した名称のままなのだ。


●明日の対戦:準決勝第一試合

 魔導剣士ミラージュ VS 新入社員


●明後日の対戦:準決勝第二試合

 インヴィンシブル・スター VS 勇者シン・ガイディーン


 準決勝は2試合のみなので、組合せ周知が早かった。


 その上、自室の試合観戦用モニターのデータ情報で知ることができた。いつもはギリコが持参する対戦組合せ表を確認していたが、これまでもデータ情報があったに違いない。


 アラトは昨日、ギリコとダンの仲睦なかむつまじき様子を目撃し、嫉妬にかられ夜も寝つけないと予想したが、そうではなかった。


 昨晩は夕食を済ませた後、いつもの瞑想を始めると意外にも心情は安定していた。これまでの瞑想長時間継続訓練で、本当にアラトは精神が強固に安定してきたことを実感する。


 ただ無心に時を過ごし、憂いも悩みも焦りも苛立いらだちも恐怖心をも完全に払拭すると、そのまま静かに眠りに就いた。


 そして今朝早くに目覚め、アラトは自分の本音に確信を得ることができたのだ。それは、これまでの能天気で、自信がなくて、臆病で、意志薄弱で、優柔不断なアラトの弱さを克服したかのように、強い意志を形成していた。


 アラトははっきりと、自分の見るべき方向、進むべき方向、目指すべき方向を自分で確立したのだ。


 アラトは心の中で自分の気持ちを確認する。


(ギリコ、僕は自分の気持ちをはっきり理解したよ。

 僕は、アンドロイドの君を愛している。心から愛している。だからこそ君の願いを、愛している人の願いを叶えてあげたい。僕はそのために戦う。優勝を目指す。

 君が人間になれたとき、同じ気持ちでいられるかどうかはお互いわからない。アンドロイドの君と人間の君はまったくの別人。それは、君が僕に伝えた言葉だ。僕もそうだと思う。

 君が人間になったとき、僕への気持ちが変わっても構わない。ほかの誰かを好きになっても構わない。だって、アンドロイドである今現在の君が、僕を愛してくれていると本気で信じているから。

 もう迷わない! まっすぐ前を見て進む! 結果がどうなっても後悔しない! 僕が選んだ生き方だから! 自分の人生を後悔させない生き方だから!)



 ◆   ◆   ◆



 その日の午後、ギリコはパワーアップした各種兵器とともに姿を見せた。


「アラトさん、お待たせいたしました! 先日打ち合わせした各装備のパワーアップバージョン、入荷しましたわ」


「ウッシャ~ 待ってました!」


 二人とも興奮しながら、改良された装備を確認していく。


「まずは、何といっても惑星破壊キャノン砲のスーパーインプルーブメントです!」


 惑星破壊キャノン砲の初期型と比較し、ひとまわり小さくなって軽量化されているのが一目瞭然。


「初期型100kgから半分の50kgに軽量化されています。充填時間は30分で威力半減。照射モード以外に、単発モード、拡散放射モードが選べます。単発モードが一番実戦向きと推奨します」


「いいねぇ!」


「次に飛行ジェットシューズ。見た目は変わりませんが、これも20kgから10kgに軽量化、推進力20%アップに成功しています」


「いいっスねぇ、いいっスねぇ!」


「それから、シールドのサイズ縮小と軽量化、インナースーツの防御力強化、ついでに栄養ドリンク剤でダメージ早期回復効果を付与しました」


「なんかもう、ここまでくると、ある意味チートだよね」


「この程度のこと、大したインチキではありません。ほかの選手のチート能力の方が断然断罪ものです、アラトさん」


「断罪って……、まぁ、単純に強すぎちゃって困るけどねぇ」


「第三回戦のMkⅢは惑星破壊キャノン砲とシールドを装備していませんでしたから、今回のMkⅣは結果としてプラス35kgになります。飛行推進力20%アップで、うまくカバーできればと思います」


「なるほど、わかった」


「作戦をどういたしますか、アラトさん」


「それなんだよね~、悩ましいのは……」


「では、やはり、あの揺れに揺れまくる乳房をもぎ取って……」


「これこれ、やめなされ。ちょっと、これまでの勝利パターンを整理してみよう」


「はい」


「対アメスライバ戦では、キャノン砲とレーザー銃で敵を丸ごと塵と化した。

 対魔法少女戦では、散々逃げまくって、かつ、痛い思いもして魔力を枯渇させた。

 対スパイもどき戦では、新技を使ったトリッキーな作戦でレーザー銃をヒットさせた。

 う~む、エルフの弱点て、何だ?」


「エルフの最大の特徴は空間魔法と剣術です。接近戦と中遠距離戦、間合いに関係なく戦えるのが強みです。そして、空間魔法により、こちらの飛び道具を無効化します」


「それなんだよ、こっちは全て飛び道具。つけ入る隙が無い……」


「まったくですわ」


「ギリコ、一つお願いがあるんだけど」


「はい、なんでしょう」


「あのイケメンに借りてほしいものがあるんだ。まぁ、この準決勝には間に合わないかもしれないけど」


「ウフフ、アラトさんの戦略が読めましたわ。お任せください、その件は」


「うん、頼むよ。ただ、特訓が間に合わないよなぁ~」


「はい、それと並行して、対チチデカ戦の攻略法を練っていきましょう」


「チチ、チチって、余計に意識しちゃうじゃんかぁ!」


「ダメです! チチばっかり見とれたら、負けちゃいます」


「じゃ、もう話題にしないでください、義理子先輩」


「し、仕方ありません……」



 §   §   §



65.2 大会三十九日目の朝 アラトの部屋


 準決勝戦の朝を迎えた。


 ギリコがいつもよりも早くやって来た。試合の時は必ずパワードジャケットの装着を手伝ってくれるのだ。


 今日の装備パワードジャケットMkⅣは、惑星破壊キャノン砲軽量型、精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃、スパイダーマニピュレータ、小型シールドのフル装備だ。ほかの装備もいろいろと改良されている。


「アラトさん、申し訳ありません。昨日依頼された例の物は入手が間に合いませんでした。ですが、決勝戦には間に合うと思います」


「わかったよ。ありがと、ギリコ」


「どういたしまして」


「昨日練った作戦が上手くいけばいいけど……」


「大丈夫です。アラトさんならきっとできますわ」


「義理子先輩のお墨付きもらったから、大丈夫だね」


「ウフフ、もちろんですわ」


 ギリコが微笑んだ。


 今日の対エルフ戦で多少なり緊張していたアラトもホッとして笑顔になる。


 あのエルフは悪魔相手でも勝ち、合体怪獣にすら勝ったのだから、強敵であることに間違いはない。戦闘力が高く機転も利く。そして彼女が得意とする空間魔法は奥が深すぎて油断ならない。


 しかしアラトも特訓は重ねてきた。麗倫師匠からアドバイスしてもらった瞑想訓練の成果で、ハンドレーザー銃の威力も上がっているし、バランスの悪かったジェットシューズにも随分慣れて、飛行能力も上がっている。


 できることはやってきたつもりだ。残りはベストを尽くすのみ。


「じゃ行ってくるよ、ギリコ。必ず勝つから」


「はい、朗報をお待ちしています」


 アラトは決意を胸に準決勝戦会場へと出発した。



 §   §   §



65.3 魔導剣士ミラージュ


 魔導剣士ミラージュは、異世界から参戦したエルフである。


 彼女の住む異世界は、俗にいう剣と魔法の世界。アニメやラノベで親しみのある中世欧州風ファンタジーワールドだ。


 その異世界に住むエルフは、彼女の出身であるエルフ族の故郷『ミラージュ村』にしか存在しない希少な存在だ。彼女はその村の代表という意味で『魔導剣士ミラージュ』と名乗っているが、本名は別にある。


 成長期に限り成長速度の速いエルフ族で、人間よりも早く成人する。そのため彼女の実年齢は見た目よりも若い。


 が、成長期を過ぎ一度成人すると、見た目の老化が進行しないので、若い美貌を保つことできる羨ましい種族だ。寿命は500歳くらい。


 ミラージュ村のエルフは空間魔法に優れ、一族に代々伝わる空間魔法具『ディメンションリング』と『ディメンションスネークソード』を製造することができる。それは、エルフ族の最強戦士にだけ授けられるのが習わしだ。


 つまり、それを所有する彼女こそが最強の剣士であり、かつ、空間魔法の使い手であることを証明している。


 彼女は向上心にあふれ、強さを追い求める真の戦士。優勝報酬がどうとかいう以前に、立ちはだかる全ての敵を打ち負かし、最強を目指すことこそが彼女の出場理由だ。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


【作品関連コンテンツ】

 作品に関連するユーチューブ動画と作者ブログのリンクは、下の広告バナーまで下げると出てきます。


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