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第六十四章 敗退者残念パーティ

64.1 敗退者残念パーティ


 第三回戦第四試合が終了した。


 第三回戦が全て終了し、準決勝進出のベスト4が確定した。


 超人インヴィンシブル・スター、勇者シン・ガイディーン、魔導剣士ミラージュ、そして尾暮新人おのくれあらと


 自分だけ妙に浮いていると思ってしまうアラトではあるが。


「良かった、あの黒マネキンが勝っていたら誰も止められなかったと思うよ……」


「まったくです。ですが、宇宙空間で生存することができ、自ら生み出す推進力で宇宙空間を移動できる存在、あの超人も想像を絶する脅威ですわ」


「驚異的脅威だよね。……って、あれ、そこで無言になるのは止めてください、義理子先輩」


「コホン、これでベスト4が出揃でそろいました。超人、勇者、デカパイ女、そして我らがヒーロー、アラト様」


「うん、ものすごく悪意のある呼び方止めようか、ギリコさん。そもそもギリコだって、その、ねぇ?」


「ねぇ、と言われましても、わたくしがどうだとおっしゃるのですか、アラトさん」


「コホン、えー、もちろんですね、絶世の美女で、賢くて、天使のような悪女、もとい、聖女で、傲慢ごうまんで、もとい、高潔で、ビッチで、もとい、リッチで、ドSで、わがままで、嫉妬深くて、素直でとてもかわいい、そんな愛おしくて抱き締めたい唯一無二のギリコですが、何か?」


 急に、顔を赤らめるギリコ。


「アラトさん、わたくしのことチョロいと思っていますね、でも……、でも……、とっても嬉しいです。途中から遠慮なく侮辱されまくりましたが」


「アハハ、バレます?」


「バレまくりです!」


「しょうがないじゃん、全部魅力的なギリコが悪い」


「エヘヘ」


(フッ、チョロいぜ、と思ったら心読まれるから、チョロくないチョロくない、全然チョロくない)


「いいのです。いくらわたくしがチョロくても。最後にヨシヨシさえしてくれれば」


「ヨシヨシ」


「エヘヘ」


 ご褒美ほうびをもらった少女のように喜んで笑顔になるギリコ。突如、予告なしにアラトに覆い被さり、襲うように強引にキスをする。ギリコの柔らかい唇にとろけそうになるアラトだが、今回のキスは今までになく長い。長い。長い。


「んー、んー、んんー」


 酸欠に陥り、ギリコの肩をタップしながらギブアップの意思表示をする。しかし、ギリコに意図が伝わらないようだ。アラトは力尽くでギリコを押し退けた。


「ぷはぁー、はぁ、はぁ、はぁ、ちょっとギリコさん……、酸欠で死んでまうがな、はぁ、はぁ……」


「す、すみません、わたくしチューが好きなのです」


「そうかもしれんけど、殺人は良くないっすよ、先輩」


「エロ漫画によくある舌は使ってないです」


「いや、わかってるけど、そんなの参考にしちゃダメでしょ!」


 ギリコの頭を軽く叩くアラト。


「ごめんなさい……」


 シュンとして涙目で謝罪するギリコの仕草は、幼い少女のそれだ。


 アンドロイドのギリコは涙を流せないという。物理的に可能でも、感情が起因する涙のアルゴリズムが無いとかかんとか。


 しかし潤んだ瞳はキラキラ輝き、アラトをキュンキュンさせる魅惑の破壊力がある。


「あのですね、ギリコさん。あなたは一応1歳未満の乙女なんですから、そんな高速で大人の階段昇っちゃいけません! それに、試合が全部終わるまでイチャつかないって約束したよね?」


「だって、だって、アラトさんがわたくしにエッチばかり教え込んで、変態エロ女に染めているのですよ、責任とってください!」


「人聞きわりぃわ! エッチばっかり教え込んだ覚えありませんがぁ!?」


「いいえ、アラトさんが全部悪いのです!」


「わかりました。反省します……。ですけどね、1歳未満の少女がエロ雑誌閲覧しちゃダメでしょ! 没収します、ここに持ってきなさい!」


「とかかんとか言って、自分が堪能する気ですよね、アラトさん!」


「えっ、バレます?」


「バカァ、バカァ」


 ポカポカと冗談混じりでアラトを叩くギリコ。


 ギリコの女性としての経験値はほんの一握り。人間で例えるならせいぜい中学・高校生程度であろうか。しかし、ディープラーニングで学習している大人の知識は、見た目も含め完全に成人のそれ。


 このギャップが、アンドロイドの計算装置、集積回路をかき乱しているのだろう。本当にコンピュータが思春期を迎えているのかもしれない。


 アラトは思う。だからこそ、アラト自身がしっかりしないといけない、と。



 ◆   ◆   ◆



 アラトは一人になり昼から夕方まで猛特訓をした。ハンドレーザー銃の射撃訓練と瞑想3時間継続。


 レーザー銃の射撃訓練をしているうちに発見した性能がある。


 レーザー銃は撃てば撃つほど使用者の精神とシンクロし、使用者との相性がより高まるのだ。具体的には、まず威力が向上する。しかも上限がわからないので、撃てば撃つほど同調率が高まり、徐々にではあるが破壊力アップするようだ。


 それのみならず単発モードか連射モード、あるいは一撃必殺チャージモードにするかを精神制御で自由に使い分けられる。特に一撃必殺チャージモードも上限知らずで、精神集中、この場合、闘気を高めれば高めるほど、威力が向上するのだ。


 そして、瞑想3時間継続は、今や4時間から5時間までできるようになってきた。その精神鍛錬が、如実にレーザー銃の威力向上に貢献していることを、アラトは成果として認識していた。


「よーし、この数日間で、随分モノにしたぞ」


 アラトは特訓の成果に大満足していた。


 これというのも、やはり、テニスの練習をして上達するたびに達成感が得られるという体験を幾度も味わってきたアラトだからこそ、辛い特訓も夢中になって取り組めるのだ。


「今日はこのくらいにして、部屋に戻ったら瞑想だ」


 アラトが練習場にしている庭園からホテルに戻ってくると、1階がやけに騒がしいことに気づいた。1階の通路奥には、敗退者専用観戦ルームがある。どうやら、そこが騒がしい。


 敗退者専用と呼ぶ限り、アラトはそこに入れないが、ドアの外から中を確認しても問題はないだろう、と考え、奥へと進む。


 すると、通路の奥で男女一組が立ち話をしているのが目に入った。赤い服の女性が金髪男性の腕にしがみつき、やたらとスキンシップが激しい。イチャイチャと盛り上がった様子が遠目でもわかり、なんかうらやましいカップルやなぁ~と思っていたら、それはギリコとスーパージクウナイツのキャプテン・ダンだった。


「ギ、ギリコォォォォォォ?」


 つい大声を出してしまったアラトに、ダンが振り向き気づいたようだ。一瞬、ギリコと目が合う。


「やぁ、君は、シンニュウシャイン君じゃないかい?」


 ダンが遠くから声をかけ、颯爽さっそうとこちらに向かって歩いてきた。両手をポケットに突っ込み、えらく気取って歩いているのだが、異様に速い。


「失礼、挨拶あいさつがまだだったね、わたしはスーパージクウナイツのキャプテン・ダンだ。よろしく!」


 ダンは爽やかな笑顔で右手を差し出してきた。


 一応、それに応じ握手するアラト。


「君は準決勝まで進んだシンニュウシャイン君だね。素晴らしい、実に素晴らしい! この大会でベスト4であれば、自慢していいと思うぞ」


「は、はい」


「いや、すまない。新入社員がどういう意味か知っているが、他に君の名前の情報が無くてね」


「そ、そうですか」


「今日は、ここで簡素なパーティをやっているんだ。敗退者専用のホールだから、負け組の残念会みたいなもんだけどね。君には申し訳ないけど、歓迎される立場にはなれないだろう」


「そうなんですね」


「おっと、君に別のお客さんがやって来たようだ。わたしはこれでパーティに戻るとするよ。では、準決勝応援している。ぜひ、優勝を目指してくれ」


「わかりました」


 アラトが背後を確認すると、第三回戦で戦ったグレート・スミスが腕組みをして立っていた。いつもように真っ黒いサングラスをしているので、表情が読み取れない。


 スミスが無言で右手を差し出してきたので、すかさず握手するアラト。


 グレート・スミスは着こなしているシルバーのタキシードがカッコイイし、気取っている姿に全く嫌味がない。むしろカッコイイ。まさしくハリウッド映画のスパイ作品に登場しそうな渋さがあって、アラトにとっては憧れの存在なのだ。


「ぼ、ぼ、僕はアラトと言います」


「アラト、君のことはツキコから聞いている。ツキコはもうここを去ったが、君には感謝していた。オレはツキコの呪いを解いてやるという約束がしたが、残念ながら守れなかった。

 君はオレを見事倒したわけだから、必ず優勝するんだ」


「はい!」


 フッ、と笑みをこぼし、去っていくスミス。


 すぐさま、別の客人がアラトの目の前に立った。


「お師匠様!」


 アラトの前に現れたのは、以前見たチャイナドレス姿の麗倫だ。


「見事、成長しておるな、少年よ」


「はい!」


「まぁ、わしがどんなに偉そうに言うても、先に敗退したのじゃから格好がつかんのぉ」


「いいえ、そんな、ここまでこれたのはお師匠様のおかげです!」


「そうか、それは師匠冥利に尽きると言いたいところじゃが、わしは大したことをしちょらん。少年、もっと自信を持て。ここまでこれたんは、お前さん自身の努力の賜物たまものじゃ」


 アラトは泣きそうな声になる。


「お師匠様ぁ~、ありがとうございますぅ……」


「こりゃ、男がそう簡単に泣くもんじゃない。優勝した時に思う存分泣けばよい」


「うぐっ、ひゃい、わ、わかりましゅた……うっ、うっ、ぐしゅ」


「これは困ったわい、これ、坊主、しっかりせい! メソメソするでない!」


「わかりました、師匠!」


「うむ。お前さんはまだまだ成長途中じゃ。これからもっと強くなれる! 今の気持ち忘れるでないぞ」


「はい!」


「よしよし、わしはこれから皆と酒盛りじゃ。お前さんは参加できんでの。すまんなぁ」


「いいえ」


「それじゃ、またな」


「はい」


 パーティ会場へと戻って行く麗倫。


 会場のドアが開き閉じられる瞬間、人間に変身し二本足で歩いている人魚姫パメラ・マリンの姿が見えた。彼女は、これまた長身でイケメンの男性と腕を組んでいる。完全に密着し寄り添っている姿は、まさしくカップルのそれだ。おそらく彼氏はアレスマーズロボの操縦者と思われるが、なんともうらやましい。


 羨ましいと言えば……


 通路の両サイドを見るが、ギリコの姿はどこにも無い。


 明日、また喧嘩かなと思いながら、モヤモヤ感を払拭できそうもないアラトだった。



 §   §   §



64.2 超時空保安戦隊スーパージクウナイツ&キャプテン・ダン


 超時空保安戦隊は、行政機関である超時空保安庁に所属する特殊任務戦闘部隊だ。


 その地球の科学技術は、多数ある並行世界の地球の中でも群を抜いて発展しており、他のパレルワールドの地球を観測、往来が可能となっている。


 超時空保安戦隊の主な任務は、次元の裂け目を通って別次元からやって来る別世界からの侵入者を監視、犯罪を抑止することだ。


 超時空保安戦隊という複数形の名称ではあるが、本物の人間はキャプテン・ダンただ一人。しかもその身は半分機械のサイボーグである。他の4名は超高性能人型支援ロボットだ。


 ダンは、宇宙飛行士が体験する苛酷かこくな訓練の、さらに5倍苛酷な条件の訓練を耐え抜いている。その強靭な精神と肉体がなければ、パレルワールドの地球への往来は許可されないのだ。


 彼がこの大会に出場したのは、参加するに値する戦闘能力を保有するだけでなく、超時空保安戦隊として大会を監視する任務があるのだ。


 ほかにも語れない極秘任務があるのだが、それはいずれ明かされることになるだろう。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


【作品関連コンテンツ】

 作品に関連するユーチューブ動画と作者ブログのリンクは、下の広告バナーまで下げると出てきます。


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